物価:異次元緩和に黄信号点灯?
2020年オリンピックが東京に決まってよかったですね。 さて本題ですが、
日銀が4月以来継続している異次元緩和ですが、日銀自身による高い自己評価とは裏腹に、2年以内のCPI=2%達成に黄信号が灯っている可能性があります。
9月5日、日銀は金融政策決定会合で、国内景気の現状判断について「緩やかに回復している」とし、7月と8月の決定会合で示した「緩やかに回復しつつある」から引き上げました。4月に導入した大規模な金融緩和策については、全員一致で継続を決めています。
日銀は、現行の異次元緩和を継続することで、当初目標とした2年以内のCPI=2%達成が可能と判断しているようです。
現在の消費者物価指数(CPI)は、日銀が強調するようにコアCPI(生鮮食品除く)で0%後半です。(図1)
ただ、データを良く見ると、コアコアCPI(生鮮食品エネルギー除く)はほぼ0%。寄与度をみても公共料金上昇が牽引した、質の伴わない物価上昇に留まっていることが分かります。景気回復が実感できる財については、ようやく7月に08年以来の上昇に転じたばかりです。
日銀が成果を強調した、コアCPIは指標としてふたつの問題を抱えています。ひとつはエネルギー価格という日本にとってはデフレ要因となる要素で上振れすること、もうひとつはCPI自身の問題点で、同じ製品バスケットを買うのにいくらかかるかを計測するため、上方シフト(デフレによる下級財シフトなどが検出されないこと)があることです。
これまでの日銀緩和の「成果」はエネルギーと公共料金上昇
図1CPI上昇率推移
出所:日銀金融経済月報(2013年9月)
上方バイアスのない東大日次物価指数は現在△0.6%で下落中、BEIは0.6−0.8%が消費税の影響
図2 今年の東大日次物価指数とBEI推移
赤線=東大日次物価指数、青線=総務省指数*1、緑線=BEI。
出所:東大日次物価指数=専用サイト(日次最近分)、BEI=日本相互証券
図2赤線は、スーパーなどのPOSデータから算出され、コアCPIの欠点、上方バイアスがない、東大日次物価指数とよばれる物価の推移です。現在の東大指数は今年はじめを底にゆるやかに上昇に転じました。ただ、現在もマイナス0.6%です。 従って日本経済はまだデフレによる物価下落継続していると考えられます。
図2緑線は同時期のブレイクイーブンインフレ率(BEI)の推移です。中期的なBEIはこの3年上昇傾向で、市場の予想する物価は今年5月には日銀が目標とする物価2%近くにまで達したようです。 ところが、消費税の影響を受ける銘柄と受けない銘柄のBEI比較から判断すると、BEIのうち0.6−0.8%は消費税増税分を織り込んで上昇しているとされています。*2
BEIは最近1.3%にまでさがってきています。そのうち0.7%が消費税増税分だとすれば、真水のBEIは0.6%と、今のコアCPI並に過ぎず、市場参加者は政府日銀の2%インフレ目標達成に懐疑的だということになります。
日銀は2014年末までに190兆円に及ぶ国債を市場から買入れる、いわゆる異次元緩和を継続中ですが、その政策が市場の期待に織り込まれて今のBEI、物価上昇率です。
麻生・甘利氏らは「消費税増税が今できなければいつできるのか」とはしゃいでいますが、今の物価がまだはしゃげるような状況ではないことは明らかです。
*1:東大日次物価指数算出商品で構成したCPI
*2:消費税の影響を除いたブレーク・イーブン・インフレ率の算出 日本総研2013 年8月23 日