シェイブテイル日記2

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 日本国の信用を増大するにはどうすれば良いのか

(注:首相には経済感覚が必要と断言できるわけ は今日のエントリー内の次項に記載しています)

昨日のエントリー 増税を行えば日本国の信用は増大するのか で、増税で日本国の信用は増大するどころか、デフレ強化による景気一段の後退により、税収も減り、信用は失墜し、恐慌さえ起きかねない状況となると指摘しました。

では国債の残高を減らし、国の信用を増す方策を昨日のスキームを使って考えてみましょう。

1.量的緩和策、あるいは買いオペの強化

図1.量的緩和策あるいは買いオペの強化
赤矢印がお金の流れ。 政府は只の「お金の導管」と捉えている。
民間金融部門の国債中央銀行が買い上げれば、増税が避けられると同時に
買い上げた国債の分だけ、国債保有者への利子支払いは減る。

 民間から税金を吸い上げ、国債償還財源に回すからデフレが酷くなるとすれば、民間(非金融部門)に代わって、中央銀行が既発国債を買うことは良い代替案に思えます。 そもそも国債に利子がついていなければ、国は無限に借り換えができますので、国の債務問題とは、国債の利子返済問題と言い換えることもできそうです。 民間金融部門に代わって国の債務を中央銀行が持った場合、国が利子を支払うことに歳出を振り向ける必要がなくなりますから財政再建にはプラスと言えるでしょう。
 ただ、問題がないわけではありません。 最近日銀が国債の買いオペをしようとしたところ、札割れ、つまり国債保有者が国債を売ってくれない事態が発生しています。
*1
これは民間金融機関には既にお金が溢れており、金利のつく国債をお金に換えても、デフレ環境では、国債以外の投資案件が見当たらなくなっているためです。 リフレ論者の中には、デフレ脱却できないのは、日銀からの量的緩和の額が不足しているから、という向きもありますが、カネ余りで、国内に投資先がないと判断されれば、海外の原油他の商品や土地の買い漁りといった副作用が顕在化するだけになるように思います。

2.政府による新規国債発行での財政政策+日銀国債買いオペ

図2 財政政策+日銀による国債買いオペ
財政政策のために、政府が新規国債を発行すると同時に、
同額あるいはそれ以上の既発国債を市場から日銀が買うスキーム。

金融部門がカネ余りで、それなのに、デフレのために民間にはお金が流れないとしても、政府が財政政策で積極的に民間にお金を流し、成長政策を実施することは可能です。 この場合、国は新規国債を発行して金融機関等に引き受けてもらい、懸念される国債の(民間での)積み上がりを防ぐために既発国債を日銀に買い取って貰います。 この2つの政策の同時発動によれば、民間のお金が潤沢となり、景気が成長軌道に乗ることで税収が増えると期待できます。 民間へのお金の流し方は様々でしょうけれど、国民に広くお金を配れば経済は活性化しますし、お金の価値が薄まってしまうという誤解(デフレではお金の価値は薄まらず、雇用が活性化されるだけです)をする人があれば、ますます銀行からお金が引き出されて現物資産購入などにお金が回る、インフレ期待が醸成されるでしょう。
 これらの政策を発動するとき、政府・日銀が同時に2-4%程度のインフレを実現するためにこれらの政策を行う、と宣言すれば、高橋財政期と同様に政策実施前にデフレを脱却できる可能性さえあります。

3.日銀による国債直接引受け、あるいは政府紙幣の両替

図3 日銀による国債直接引受け、または政府紙幣の両替
図2の金融部門を介するスキームより単純に日銀に新規発行国債を直接引受けさせるか、
政府紙幣を発行して、日銀で日銀券に両替させると、国は直接日銀からお金を得ることができる。

 図2のスキームですと、金融部門を一旦介して日銀から民間にお金を流しています。 この場合一旦市場を介するが故に長期金利の不安定化などを引き起こす懸念もあります。
 そこで単純に国債を日銀に引き受けさせるか、あるいは政府に発行権のある政府紙幣を発行して、(二種の通貨が流通するのを避けるため)日銀で両替してもらうかすれば、日銀のお金で直接財政政策を発動することが可能となります。 
 これらの政策は一般には危険な政策とされています。なぜならば、大半の国々ではマイルドあるいはそれ以上のインフレですから、そこに加えて民間にお金を流せば、インフレが強化されることが明らかだからです。 インフレとは、お金の量に対して供給される財が不足している状況で、フルに生産活動をしても流通するお金に対応する財が提供できないとすれば、お金の価値は低下せざるを得ません。 
 ところが現代日本は20年近い慢性デフレです。慢性的デフレであれば、民間に例えば「デフレ脱却一時金」といった名目で一人50万円などという金額のお金が供給されれば、経済活動は当然活性かし、若年者雇用問題や自殺問題も一挙に好転します。 名目GDPで測った経済活動が活性化するとなれば、当然に税収が増加し、既発国債の償還財源となります。 またインフレ期待が醸成されることで、円高は円安に反転し、輸出企業は大いに潤い、産業の空洞化どころか、円安高技術日本に多くの製品受注が舞い込むことでしょう。
 国債の日銀直接引き受けで金利暴騰、円暴落などの神話の語り手は、日銀が毎年10兆円以上の国債を直接引き受けている事実は知らないのか、なぜか語りません。
 お金というものが、その向うにある財(商品サービス)あるいはそれをつくりだす生産力(雇用や生産設備)に裏打ちされているものだと知っていれば、生産力がダブついている日本で、お金を刷って、国民に配る政策こそ正統派であり、現在の野田内閣のようにお金を取り上げようとする政策は亡国政策としかいいようがありません。

【関連記事】
増税を行えば日本国の信用は増大するのか

首相には経済感覚が必要と断言できるわけ

(以下別件ですがブログの仕様で別エントリーに分けられない点ご容赦を)
民主党増税への急傾斜が進行しています。これを受けて小沢氏は新党設立に動き出しました。
自民党からの政権奪取時の期待とは裏腹に、民主党の崩壊が始まったようです。
野田首相社会保障問題を切り捨てて増税三党合意に走ったことからヒール役となっていますが、筆者は今回の混迷の原因は野田氏ではなく、菅直人氏の経済学の知識のなさにあったと思っています。

少し過去の経緯を眺めてみましょう。

1.デフレ宣言期

2009年9月 経済評論家の勝間和代氏が菅直人副総理(当時)に面談し、デフレ脱却の必要性を訴えました。
2009年11月 デフレの害に気づいた菅副総理がデフレ宣言を行ないます。
2009年12月 菅副総理のデフレ宣言で日銀の無策ぶりが浮き彫りになったため、日銀は臨時に金融政策決定会合を開催し10兆円の金融緩和策発表しました。これを受けて日経平均は、1ヶ月で9,000円から10,500円まで上昇しました。

2.政策転換期

2010年1月 藤井財務大臣の体調不良を受けて、菅副首相が財務大臣を兼務します。
財務大臣着任早々の1月26日、参議院予算委員会で、自民党林芳正氏(元経済財政担当相)が、参院予算委員会で「乗数効果」について質問したところ、菅財務大臣はシドロモドロとなってしまいました。 
2010年1月 菅財務大臣突然、消費税論を議開始すると宣言します。
2010年2月 小野善康阪大教授を内閣府参与に抜擢します。 小野教授は増税による景気回復という奇説を唱えることで知られていますが、当時は菅氏と小野氏が共に東工大出身(小野氏は工学部出身の経済学者)であるから、と説明されていました。

3.増税路線爆進期 (以下単に経緯だけ)
2010年6月 菅直人氏が内閣総理大臣に就任し、野田氏を財務大臣に任命
2010年7月 消費税増税を掲げて参議院選挙敗退
2011年1月 与謝野氏、菅内閣社会保障・税一体改革大臣に就任
2011年9月 野田内閣発足
2012年6月 社会保障と税の一体改革から社会保障の棚上げを決定、増税三党合意

シェイブテイルとしましては、菅財務大臣乗数効果を知らなかったことは責める気はしません。大学で習うマクロ経済学の内容であれば、専門家からの聞きかじりでも構わないかもしれません。

ただ、その後「増税で景気回復」の小野善康氏を知恵袋に招く等、高校生でも分かる誤った学説に心酔していった点は、それまでの菅氏が生きた経済を全く知らなかったことの反映であり、財務大臣や首相の器ではなかったと断じることができると思います。
2010年1月から2月のの菅財務大臣増税転換を境に、マスコミも堰を切ったように、増税擁護論をぶち上げ始め、世論誘導を始めました。 *1

真偽は不明ですが、2010年1月26日の「乗数効果」事件に懲りた菅財務相はすっかりおとなしくなり、それまで遠ざけていた財務官僚のご進講をよく聞くようになったという話もあります。*2 特に勝栄二郎次官については、「痒いところに手が届くように配慮してくれるし、難解なことを分かりやすく説明してもらえる」と心酔し、2010年の参議院選マニフェストにない消費税増税を打ち出したと自ら語っているとのことです。 *3

ここまでの一連の流れは財務省の思う壺だったという面もありますが、菅直人氏に最低限の経済知識があれば、ここまでひどい流れにはなり得なかったとも思えます。 

 考えてみれば、政治家の仕事の大半は歳入・歳出といった経済とは切っても切れない話と直結しています。そうであれば、経済には全くオンチといった人物は決して首相にはなれないような何らかの仕組みがないことには、今回の民主党による茶番劇のような事態が今後も発生するのではないでしょうか。


2010.1.26 参議院予算委員会
財務大臣(当時)は自民党林芳正議員の質問に立ち往生。
これが民主党増税路線への転換点?

【関連記事】 消費税論議にみる大新聞の節操のなさ

*1:財務相発言―消費税封印の呪縛を解け(2010年2月17日 朝日新聞)◆消費税論議 菅財務相がやっと腰を上げた(2月16日付・読売社説)◆民主党政権は野党との税・年金協議を(2/16 日経新聞)◆【主張】消費税発言 参院選前に工程表を示せ(2/17 産経新聞)◆早期の議論開始を歓迎 消費税増税で岡村・日商会頭 等。 以前は消費税増税反対だったはずの各マスコミとも、増税賛成意見表明の日付が2月16日頃に固まっているのも不気味です。

*2:消費税増税までの財務省の布石」(EJ第3187号)

*3:文藝春秋2012年6月号 石井妙子「現代の家系――勝栄二郎――『勝海舟の子孫説』を追う」