シェイブテイル日記2

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ドル円60円時代: アメリカデフォルトリスクと日本のデフレ

【要約】
・ソロス・チャートから見ると、アメリカの偶発的デフォルトを引き金に、1ドル60円台が有りうるかもしれません。
・日本の量的緩和円高やデフレに効果が薄かったのは、量的緩和というものが、市中銀行当座預金を積み上げるだけで、民間の資金につながらなかったからである可能性があります。

 現在アメリカでは政府支出削減問題を巡る大統領(民主党)と共和党間の鍔競り合いの結果、来週にもデフォルトとなる可能性が報道されています。 これを受けて「安全資産」の円に資金が流入し、77円台の円高となっています。
下のグラフ「ソロス・チャート」は、日米中央銀行の資金供給量の差(ベースマネー比率)と米ドル円の関係を見たもので、経験的に中長期のドル円のレートと強く相関していると言われています。
ドル円がソロス・チャートによって予言されたレートまで行くとすれば、そう遠くないうちに1ドル60円時代が来ないとも限りません。

ドル円ソロス・チャート  読売オンラインより引用*1
ところで、このソロス・チャート、2002年から2006年にかけて、福井日銀元総裁時代の量的緩和期には日本円ベースマネー比率が高まったにもかかわらず、ドル円レートはチャートから予測される150円程度の円安を示現することはありませんでした(チャート赤丸部分)。 これは一種の謎で、筆者もいまだに悩ましく思っているところです。
 ひとつの仮説としては、2002年には日本はデフレ真っ只中でしたが、日銀の金融緩和は、量的緩和といっても銀行の当座預金に資金を積み上げるだけで、デフレ下の実質金利高は放置されていましたから、ベースマネーが増えても、マネーサプライは伸びていかず、「流動性の罠」がチャートに反映されたのでは、という考え方があると思います。 となると、マネーサプライ比とドル円レートとの間に相関があるかもしれませんが、手元にはデータがありません。 どなたか、マネーサプライ版ソロス・チャートを描ける方はいらっしゃらないでしょうか?
 それはともかくとして、現在の円高・デフレから脱却するためには、歴史的な分析からみても*2、ロジックからみても*3、日銀が国債を直接引き受けることが正攻法だと思います。


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*1:http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/fx/forecast/20110426-OYT8T00512.htm 「1ドル60円」示唆するソロス・チャート

*2:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110717/1310880848  日銀による国債直接引受でなにが起きるか-高橋財政期の分析-

*3:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110727/1311770903  デフレ日本では国債直接引き受けが国債買いオペに優る理由

高橋是清自身が語った高橋財政

【要約】
昭和十年七月二十七日(土曜日)の東京朝日新聞に掲載された高橋是清蔵相による高橋財政の自己評価記事を書き写してみました。*1 デフレ脱却、国債金利で好景気に浮かれることなく、低インフレから高インフレへの行き過ぎにも十分警戒していた様子が伺えます。

昭和十年七月二十七日(土曜日) 東京朝日新聞
財政の現状を説き赤字楽観論に一矢 蔵相・公債政策を声明 
[葉山電話]高橋蔵相は公債政策の強化を計って財政の基礎を確立したいとの熱意を以って明年度予算編成に当たっているが蔵相は最近赤字楽観論が台頭してわが財政に危険なる観測を下す虞れがあるのを遺憾として二十六日午前葉山御用邸に伺候し、天朝様にご機嫌を奉伺した後暫く葉山の別邸に静養することとなったためこれを機として別邸において左の声明書を発表し財政の現状と赤字公債との関係を説きこれによって国民の理解と協力を求めんことを希望した。

−欧州の先例を見よ−借金政策は永続せず
我が国財政の現状は今後長期間に亘って毎年相当額の歳入補填公債のやむを得ざる情勢に在る。若し公債の発行がここ一両年でその必要が無くなるというようなことであるならば一時多額の公債増額もあるいは差し支えないとい考えらるるも若しこの先何年となく歳入補填公債の発行を継続せねばならぬこととすると今年来年という如き目前のことばかり考えず永きに亘って公債政策の〇〇りを来す如きこと無きような計画の下に進まねばならぬ理である。 もし今後に於いて公債が一般金融機関に消化されず発行公債が日本銀行背負い込みとなるようなことがあってはこれは明らかに公債政策の行き詰まりであって、その結果としては所謂悪性インフレーションの弊害が現れ国民の生産力は消費力と共に減退し生活不安の事態を生ずるに至るおそれがある。故に今後継続して軍事産業その他重要なる国家施設の実行を〇〇し又同時に産業の発展さらに国民生活の安定を確保するがためには先ず以て公債政策の円滑なる運行を図ることが絶対の要件となる。

然るに昭和七年度以来毎年相当巨額の公債発行にも拘わらず今日までのところ幸いにその運用は理想的に行われいまだ公債に伴う実害を発生しておらぬ。却って金利の低下や景気回復に資せるところが少なくない。 世間の一部にはこの効果に着目し公債は何度発行しても差し支えなきものであるかの如き漠然たる楽観説を懐いている者もあり又今日政府の採っている公債政策の如きはいまだ不十分であって、どしどし公債を増発して国家の経費をおおいに増大せしむべしと説く者もあるようである。しかしながら公債の過剰発行による財政、経済の破綻に付いては欧州大戦後多数の国家にその実例の存する所であって、公債は何ほど発行しても差し支えなしと論ずるがごときは、この最近の各国の高価なる経験を無視するものである。昭和七年度以来の公債政策が円滑に運行されたことについては重大なる原因がある。即ちその発行につき手段方法を改めたることもその一因と目すべきであるが、公債の発行額が民間産業資金等との関係上金融機関の消化能力の範囲内に留まるを得たること及び昭和八年度以来歳入補填公債は年々幾分宛減少し財政に対する国民の信用の維持されたることここに通貨の統制が理想的に行われ物価及び外国為替相場は安定し惹いては我が国近時の産業貿易の異常なる進展に資したる事などを以って根本原因と見なければならぬ。
今まで公債に関する政府の考え方と著しく異なる意見が世間に流布されているようである。 その一例を挙げてみると国債は国民の債務なると共にその債権なるを以って国債の増発も国民全体としては財の増減がない故に内国債である限り国債の増加も国民負債の増加にあらず何ら恐るるに足らずとの論である。 これは国債を通じ債権と債務が併存するということはその通りであるが、しかるがゆえに国債が増加しても財政上更に国民経済上差し支えないという結論が簡単に出てくるものではない。 国家の財政もその機能において国民経済活動の一部を構成すると共に独自の存在を有するものであって財政としての組織が保持せられなければ軍事、外交、産業その他国家特有の活動を継続保障することができない。また常識より考えても国家その他の公共国体の経済たると個人経済たるを問わず借金政策の永続すべからずとは当然である。
 公債増発に伴って利払い費は漸増し租税その他の収入もその利払いに追わるる結果となるであろう。斯くの如き事態が生ずると経費中公債に依る部分が益々多くなり財政の機能は行き詰まりに陥らざるを得ない。 斯くの如き状態になると国家財政の信用を維持し難く公債の消化は行き詰まり結局印刷機械の働きに依り財源の調達を図らざるを得ざるに至るのであって斯くて所謂悪性インフレーションの弊は必死の勢いとなるであろう。
故に公債の問題は単なる国内の債権債務の均衡というがごとき狭い見地から是非を論断することができないのである。その他の異説についても物事の一面のみを見て国家社会全般に対する影響を忘れたる議論が多いようである。 前述の如く研究は大いに宜しい。 斯くて国民全体の協力によって永続性ある国家の発展策を確立したいと考える。

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*1: 実際の紙面;日銀国債引受け後に金利が低下したことなどが述べられている http://homepage3.nifty.com/kazumasa-oguro/1935-0727-korekiyo.pdf