内閣府モデルの大罪(2)
昨日書いたように内閣府モデルは、財政政策を否定するマクロ経済モデルとして特異的なものですが、その歪んだ特性として、消費税増税に肯定的な結果が出ることも指摘されています。
昨日はこのブログで、竹中平蔵氏がすげ替えたマクロ経済モデルがデフレ日本に必要な財政政策を否定するために使われていることを書きました。
今年春のチャンネル桜の討論番組でも、この内閣府の計量経済モデルはやり玉に上がっていました。 *1
出席者は、宍戸駿太郎*2、三橋貴明*3、渡邉哲也*4、片桐勇治*5、田村秀男*6らの各氏です。
以下はそこからのかいつまんだ書き起こしです。
(動画1分半頃)
宍戸駿太郎
私もかつて経済企画庁で経済モデリングの経験もあったもので、今の内閣府のスタッフのクオリティの問題もあるが、政治的影響力に対する抵抗力のなさ、ただ政治的に(マクロ経済モデルの)数字が動くという現状に対し、先輩としては本当に嘆かわしいと感じている。これは私の著書にも何回も書いたことだが、今内閣府が使っているマクロ経済モデルについて、我々がアンケートでいくつかのマクロ経済モデルに対して集計したものだが、5兆円の公共投資を継続的に実施した時の経済効果の比較だ。(図1)
乗数が2とかいう形で上がっていくのが日本とかアメリカなどの通常のマクロ経済モデルの姿だが、内閣府モデルでは結局乗数0.4位まで下がるというシミュレーション結果になっている。
図1 各マクロ経済モデルでの公共投資の効果
原図出所はこちらのp15。こういうことがなぜ起こるかといえば、内閣府モデルは供給先行型のモデルで、デマンドがないモデルになっている。公共投資や民間設備投資、家計消費、こういったデマンドサイドはモデルにもあるにはあるのだが、飾り。
こういった供給先行型のモデルというのは中長期の予測を立てる上では欠陥モデルだと我々は見ている。(先進国の)資本主義というのは有効需要、デマンドサイドで動く。 供給サイドで動くというのは農業国や開発途上国。
かつての経済企画庁でも優れたマクロ経済モデルが作られ、国際的にも学術誌に載るぐらいに高い質のもので、完全に有効需要先行型のモデルだった。
今の民間のモデルも同様で、名目乗数のモデルでは公共投資の乗数は3から4,実質乗数のモデルで2位になり、それが常識。
それを内閣府モデルでは0.5だとか(笑)。これはIMFに長く居た人が、IMFの発展途上国用モデルを下敷きにした。IMFのこのモデルというのは供給側だけ。
三橋貴明
発展途上国だと、設備投資も不十分で、資本蓄積もない。それで、需要があっても乗数効果は低いという理屈なんだろう。一同
実際と全然違う(笑)。宍戸
これは我々の50年昔の「想定成長率法」の発想。
このモデルで消費増税の影響を見ると、増税の影響は殆どないことになる(笑)。消費税を5%上げても内閣府モデルではGDPは1%位しか下がらないことになる。(図2)
図2 各マクロ経済モデルでの消費税増税の効果
原図はこちらからところが日経NEEDSだとか我々がやっているDEMIOSだとか、電力経済研究所のモデルでは増税後4年目位でマイナス5,6%位落ち込む。新聞では増税2年目位の落ち込みで騒いでいるが、実際にはもっと深くデフレが浸透する。
日本やアメリカは欧州小国とはことなり大国で、デフレの効果が国内を循環するので、デフレ効果が大きい。
それで、我々は今アベノミクスで消費増税をやったら致命的だと言うことで(昨年の消費税集中点検会合で)はっきりと反対を申し上げた。ところが内閣府モデルでは5%消費増税の影響は5年後でマイナス0.5%程度と言い張って、とうとう増税になってしまった。
産経新聞の田村秀男さんはこの内閣府モデルを「狂った羅針盤」と命名されているので(笑)、我々は狂った羅針盤ではいつまで経ってもデフレの海から脱出できないと申し上げたい。
渡邉哲也
分かりやすく言えば、5兆円の財政投資をして、2.5兆円の効果しかない、というのは誰が考えてもあり得ない、おかしな話。片桐勇治
宍戸先生の内閣府モデルの話は最近始まったことではなくもう7年前から宍戸先生と一緒に内閣府に詰め寄って指摘しているが、未だに変えない。 極めて大きな問題だと思う。三橋
そもそもまともだったモデルをこんなおかしなものに変えたのは、まぁ、(竹中)平蔵さんですよね。
2003年でしたっけ、あの時マクロ経済モデルを発展途上国型に変えちゃった。
なんでそんなことをしたのかといえば、おそらく財政出動したくないということだったと思う。
それと財務省の意向か、増税をしたいという…。宍戸
今の内閣府は実質的に財務省に人事権を握られている。
だから彼らは財務省のいうがままのモデルしか作れない。それを改革するのがアベノミクスだと思っていたら、アベノミクスはモデルを全然温存したまま(失笑)。これは恐るべきこと。
田村秀男
財務省は公共投資がGDPを押し上げる効果は分かっている。分かっているからこそ、4-6月期のGDPを押し上げられるように集中的に公共工事も発注した。
増税で駆け込み需要が発生するものだから、住宅投資や車など「ほら、もう景気は回復したよ」と言っている。 財務省って狡いなぁ、って本当に思う。
竹中平蔵氏は新自由主義的な持論に基づき、公共投資を否定したくて内閣府モデルをIMFの破綻発展途上国型のモデルにすげ替えたのでしょうが、その内閣府モデルなるものは需要が不足したデフレ日本とは180度逆の、インフラ不足で供給不足の財政破綻発展途上国型のモデルでした。 従って財政政策をしても需要はそれ以上増えないということでした。
ところが今となってはそちらよりも、消費税増税という負の財政政策を行っても、特に需要は減らないという内閣府モデルの特性から、破壊的な消費税増税の影響を糊塗するために財務省・内閣府が利用するようになっています。
宍戸駿太郎氏は現在の内閣府モデルをインチキと断言し、産経新聞の田村秀男は狂った羅針盤と呼んでいる訳です。
与党自民党の西田昌司氏らからもまともだった頃のマクロ経済モデルに戻すべく強く批判される内閣府モデル。
導入した竹中平蔵氏自身は消費税増税には反対しているようですが、氏が作りだした内閣府モデルというモンスターの方は、デフレ脱却に必要な政府支出を否定し、デフレ脱却を困難する消費税増税は擁護する国民生活破壊の道具として今も機能し続けています。
【関係情報】
1)日経NEEDSの立場から見た内閣府モデル
NEEDSモデルの政府支出乗数−内閣府モデルとの比較−
2)宍戸駿太郎による「内閣府経済財政モデルに関する質問と要望事項」
3)田村秀男氏日曜経済講座(2014.08.03)「狂った税収羅針盤を廃棄せよ 内閣府試算の恐るべき欺瞞」