シェイブテイル日記2

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abz2010とのディベート(2)

筆者は、2011-12-10付けエントリーで次のような長期債務に関する経済モデルについて考察しました。
これに関するabz2010氏とのディベートの続きです。


図1は日本の現状を非常に単純化し、
・日本の長期債務は全て国債の形をとっている
国債は、全て国内で消化されており、その原資は国民(非金融部門)の預金だけから成る
・長期債務残高は預金残高と拮抗している
としました。 勿論現代日本に近いのですがそのままではありません。

 
図1単純化した国の長期債務モデル
ここで、国の長期債務の永続性を考えるための非常に単純化したモデルを考えてみます。 このモデルでは、
・日本の長期債務は全て国債の形をとっている
国債は、全て国内で消化されており、その原資は国民(非金融部門)の預金だけから成る
・長期債務残高は預金残高と拮抗している
 としましょう。
 この単純化したモデルは図1のように表すことができます。 *1
図1の左1/3は家計が自らの資産を市中銀行に預金している状態を示し、真ん中は市中銀行が預金を原資に国債を買い入れている状態、そして右1/3は政府が国債市中銀行に売って、歳入に充てている状態を示しています。
さてこの状態で、仮に消費税増税といった形で税収を増やそうとしたとしましょう。


 図2 長期債務が預金と拮抗した時に増税したときの消費税増税効果 
国が、家計や企業などに増税を求めた時、経済成長などで新たなマネーサプライが増えているのでない限り、現在すでにある家計や企業などの預金から支払う必要があります。 ところが、この単純化したモデルではこの預金が既に全て国債に姿を変えていますので、民間金融機関では、その引き出し要求分だけ、国債を売却する必要が生じてしまいます。 *2
結局、デフレでGDP総額が増えない中で増税した場合には、民間から政府への所得移転は発生するものの、新たに財源が生まれるわけではないんですね。
 もっと言えば、民間から政府へ発生した所得移転が、更に民間の別の人に移転するならば、これは民間の人々の間での所得再配分になり、景気中立的ですが、野田政権が意図しているように、単に年金原資にするか、国債償還原資に使うだけでは、現状と比較して新たに民間に資金を還流させることはならず、増税した分だけ民間の資金を吸い上げる分、景気を冷やすに過ぎないことも指摘できます。



abz氏
『あ、エントリーを書いていただいてたのですね。 折角ですのでご質問いただいた点も含めてコメントさせていただきます。』

abz氏
なにやらフローとストックがごっちゃになっているような気がします。

シェイブテイル
ごっちゃにはしていません。図2の上半分がストック、下半分がフローです。企業会計同様、ストックとフローは当然完全につながっています。
 国が、家計や企業などに増税を求めた時、経済成長などで新たなマネーサプライが増えているのでない限り、現在すでにある家計や企業などの預金から支払う必要があります。

abz氏
本当に「現在すでにある家計や企業などの預金」から支払う必要があるでしょうか? 基本的にはその年のフローの一部を税金として納め、残った部分で生活するなり、配当するなりするようになるだけだと思いますが?

シェイブテイル
そのフローというのが、普通は預貯金の形になっているのでは? つまりある企業から企業への支払いにしても企業から従業員への支払いにしてもどちらも預貯金の形をとっているのであれば、銀行内で観察すれば、ある口座の数字を別口座に書き換えているだけでしょう。 その預貯金のBSの相手が全て日本国債になってしまっているというのが元の単純化モデルなわけです。

また「預貯金が全て国債に姿を変えた経済モデル」の場合、新たな増税の財源は海外・中央銀行以外ならいったいどこに求められると考えていらしゃるのでしょう。

abz氏
そりゃ国内で消化できなきゃ海外でしょうね。 だから「国債は、全て国内で消化されており、その原資は国民(非金融部門)の預金だけから成る」というような仮定は話をおかしくするのではって話なんですが? ちなみに物理的に国内で消化できないとなれば金利は上がるでしょう。 累積債務が積みあがっている中でそういう状況になればリスクは高まります。 だから可能な限り早急に財政再建への道筋を示さないといけないって話で、別に特殊なことを主張しているわけでもないはずです。

シェイブテイル
まぁ、モデルですから、話が単純化されていることはご容赦を。 ただ、国民(非金融部門)で国債を引き受ける余地がなくなればいきなり破綻、という議論は敢えて間違った前提にたっていることを強調したかったわけです。 海外と中央銀行が普通に国債の買い手であるはずですから。

(もし消費税を上げれば)一時国の財政は改善します。 ただ、民間のGDPは、累積債務を減らしたぶんだけ縮小します。 これに伴い、法人税所得税も減り、増税したのにトータルでの税収は増えません。 中長期には、国(実は財務省)栄えて国滅ぶ状態ですね。 国債削減でも消費税でも同じだと思いますが、国が吸い上げて民間に戻さない分を、中央銀行が創造したマネーで補わないと、デフレ下での増税はデフレを加速するだけでしょう。

abz氏
なぜ「超短期」で「一瞬」なのでしょうか?? 逆に一度の消費税増税がずーーーっと消費を減らし続けるということってあるんでしょうか? 例えば3年前に消費税を上げたことの影響で来年の消費が今年より減るはずだっていうのはどういう状況なのでしょうか?? 今年と来年の消費税が同じだったら数年前の消費税増税なんて今年と来年の消費活動の変化に影響しないように思いますが?

シェイブテイル
デフレ日本では、消費税の負担と給付を受けるのが消費者、という建前とはことなり、実際納税義務があるのは事業者です。デフレで価格弱者企業(多くの中小零細)から出ていった消費税は還流されません。 国債の償還原資となるか、仮に民間に出て行っても、日銀によるCPI=0%堅持政策の前にはデフレが毎年加速するだけです。
これは以前このブログで政府日銀による「日本桂剥き」というエントリーを書いたと記憶しています。

abz氏
増税すれば税金が減る」というのがもし正しいとしても、なぜ税収がへって財務省が喜ぶのかもよくわかりません。  税収が増えれば財務省の権限が高まるから彼らが喜ぶってのなら、まあそういう考え方もあるかと思いますが、税収が減って彼らが得することってあるんでしょうか?

シェイブテイル
「税収が減ると財務省が喜ぶ」、というより増税そのものが財務省の喜びだということでしょう。増税すれば、税収が減ろうが主計局では権限が増えますから。ただ主税局は嫌でしょうけれどね。
(こんなこと書いてると、そのうち国税庁からお伺いが来そうでイヤですがww)

*1:資金循環統計(2011年第2四半期速報)によれば、実際の国債保有者のうち、金融機関は66%の保有高であり、残りは中央銀行・政府が21%、海外が7%、直接家計・その他が6%の保有となっています。 

*2:分かりやすく、このように表現しましたが、実際には銀行内での納税者から、政府への預金口座名義付け替えになります。