シェイブテイル日記2

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安倍内閣が主導する「失われた30年」

安倍内閣が今月30日に閣議決定する予定の「骨太の方針」が明らかになったようです。

政府が30日に閣議決定する骨太方針の全容が分かった。経済再生と財政健全化の両立に向けた「経済・財政再生計画(仮称)」で、2018年度に基礎的財政収支プライマリーバランス、PB)の赤字を国内総生産(GDP)比で1%程度とする中間目標を掲げる。

社会保障費などの一般歳出を今後3年間で1.6兆円の伸びに抑える目安も盛り込む。
財政再建へ歳出増1.6兆円、骨太方針で政府筋[東京 22日 ロイター]

現在政府は積み上がった政府債務を背景に、基礎的財政収支プライマリーバランスの均衡を大変重視しています。
プライマリーバランス均衡なしには政府財政の健全化はなく、政府財政健全化なしに経済成長(名目GDP成長)はない、と断定しているかのようです。

ただ前回のエントリーでも示しましたように、名目GDPの伸びは政府支出の伸びと高い相関があることは事実です。
図表1はIMFがいう先進36カ国での政府支出と名目GDPの伸びの関係を示しています。*1

現実の先進国では政府支出の伸びが大きい国こそ、名目GDPの伸びが大きい国であって、この関係はインフレ国・デフレ国も関係がないようで、少なくともこの先進36カ国内には例外国はひとつもありません。

政府支出の伸びが大きい国が経済成長が大きい国

図表1 政府支出と名目GDPの関係
出所:IMF WEO Apr. 2015
IMFが先進国に分類する全36カ国で、2005−2014年の
10年間で政府支出と名目GDPの平均伸び率

これらの国の中には日本の他に近隣の韓国や、慢性的にデフォルト懸念があって国際的に緊縮財政圧力が欠けられているギリシャも含まれています。 これら国の背景が異なる日本・韓国・ギリシャそれぞれの国での、経時的に政府支出と名目GDP成長率の関係をみてみました。(図表2)

政府支出と名目GDPの正の相関は日韓ギリシャでも成り立つ

図表2 3カ国での経時的な政府支出・名目GDPの関
出所:図表1に同じ。
日韓ギリシャの3カ国で、毎年の政府支出と名目GDPの伸び率をプロットした。
赤が日本、青が韓国、オレンジ色がギリシャを示す。
データ範囲は1980年−2014年の期間。ただし韓国はデータの取れる96年以降。

これら3カ国はIMFが同じ先進国と分類してはいるものの、経済発展の程度やインフレ率もかなりの幅があります。 

そうした3カ国を含めて政府支出伸び率と名目GDP成長率の間に安定的かつ傾きが似た正の相関があるのは驚くべきことです。

こうした事実を踏まえると、安倍内閣閣議決定しようとしているプライマリーバランス均衡政策の閣議決定とは、日本をこれ以上成長させないことを閣議決定しようとしていることと言えましょう。

かつての日本と韓国とでは経済力に大きな開きがありました。
しかし政府が政府支出抑制を介して経済成長を止めて久しい日本と積極的な政府支出により、旺盛な成長を続けた韓国ではその経済力の差は急速に縮まりつつあります。

図表3は、日韓でのドルベースでみた一人あたり名目GDPの推移です。

ドルベースでの一人あたり名目GDPは韓国が日本に肉薄

図表3 日韓の一人あたり名目GDP推移
出所:IMF WEO Apr. 2015 単位=USドル

では、こうして政府支出の伸びが大きい韓国は、日本に比べて財政の健全性が劣るのかといえば…。

政府支出の伸びが大きい韓国は緊縮日本より財政は健全

図表4 日韓の基礎的財政収支の推移(対GDP比)
出所 IMF WEO Apr. 2015

プライマリーバランス均衡至上主義を採る安倍内閣の意図とは裏腹に、景気が良い時、つまり名目GDPの伸びが大きい時こそ、財政は健全化するものなのです(日本では1990年頃は財政黒字)。

そして名目GDPの伸びは、政府支出と強い正の相関があることは上でみた通りです。

また財政では優等生と言われている韓国でさえ、近年はプライマリーバランスは赤字化しています。 プライマリーバランスの均衡など、国民経済の健全な発展を願う政府が掲げるべき政策ではありません。

また名目GDPとは国民の所得の塊ですから、名目GDP抑制策はすなわち国民所得抑制策であることは論をまちません。

安倍内閣がもしプライマリーバランス均衡を閣議決定したなら、今の安倍内閣は失われた30年、あるいは日本の後進国化を主導した内閣として後世に記憶されるのではないでしょうか。

*1:前回のエントリ−とは縦軸横軸を入れ替えて表示している。