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アベノミクスを阻害するNHK日曜討論

 昨日5月19日のNHK日曜討論では甘利大臣に問う“円安・株高”“成長戦略”と題し、以下の出演者たちが語っていました。
▼経済再生担当大臣/甘利 明
経済財政諮問会議議員・日本総合研究所理事長/高橋 進
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/野口 悠紀雄
▼生活経済ジャーナリスト/和泉 昭子


消費税増税の是非に関する場面では次のようなやりとりがなされていました。

(司会者)消費税増税について。和泉さん。和泉さんは消費税増税についていろんな方々から相談を受けると思いますが。安倍内閣が秋に消費税増税を行うかどうか確定していません。

和泉) 現在(アベノミクスで)物価が上がり、消費税が上がり、また高齢者の年金が減少する、という状況はかなり厳しいと思うんです、が、私は今消費税を上げないでどうする、と思っています。景気が悪い時では熱がある子供をプールに入れてどうすると言われていたが、その後法律(社会保障と税の一体改革関連法案)が通ったわけで、その時点で国民は覚悟していると思うんです。それよりも、財政の中長期の懸念をどうにかしなければならないという問題がありますし、債務残高もありますが、問題は何と言っても社会保障費の伸びで、社会保障と税の一体改革を完遂しないと、アベノミクスは完成しないとおもうんですね。そういった意味で消費税を上げるのはやむを得ないのではないかと思います。

(甘利大臣)年金生活者の方が「消費税が今上がったら大変」とおっしゃいます。でも考えていただきたいのはその年金を借金で支払っていることです。その財源が確定しますから、年金の将来の安定性が増してくるんですよと、ここは理解していただきたいんです。
消費税の引き上げというのは財政の持続性と社会保障の持続性の両方を担保しています。
その消費税引き上げにより経済成長がダメージを受けないように、成長戦略をしっかりやり、消費税が上がり、物価が上がっても、賃金も上がってくるじゃないかと、そういった確信が持てるように、将来の予見性をはっきりさせることが我々の使命です。

(高橋)先ほど(和泉さんから)国民はもう覚悟している、と。私もそのひとりで、消費税は上げなくてはいけないと思うのですが、それに甘えてはいけないと思います。財政健全化を進めるためには、やはり歳出の削減を徹底してやり、デフレ脱却により税収を伸ばしていくこと、そしてそれでも足りなければ増税、ということだと思うので、前のふたつ (歳出削減・デフレ脱却)が大事でとりわけ歳出削減には社会保障が本丸だと思います。現在社会保障費が経済の伸びを上回る状態が続いていますので、医療介護分野ではどれだけ支出を効率化できるかが重要だと思います。

(司会者)安倍さんの成長戦略、今のお話を聞いていますと、とにかく、秋の消費税率引き上げを行うための地ならしということでよろしいのでしょうか。

(甘利大臣)いえ、[苦笑しながら]成長戦略はもっと大きな、日本が本来のもつべき競争力を取り戻して、世界の経済の中で牽引役になる、というおおきな目標があります。その過程で、消費税は財政の持続性と社会保障の持続性の両方を高めていくんですね。ただし、闇雲に消費税を上げるのではなく、経済環境を消費税を上げても大丈夫なように、短期的には経済成長戦略が資するようにしなければいけません。

司会者)秋の消費税引き上げの判断は、どういうタイミングで、どういった点に着目してされるのですか。

(甘利大臣)今年の秋、10月頃に判断するんですが、景気が好転してきたということが確認できることが一番大事です。そのために、今取り組んでいる成長戦略がとても大事だと思います。判断基準は名目・実質の経済成長率や物価などいろいろあります。ただ、経済が好転している、ということを皆が実感できることですね。

出演者の和泉昭子氏という方は、生活経済ジャーナリストで、生活についていろいろと相談を受ける立場だそうです。
その方が、「消費税が上がり、また高齢者の年金が減少する、という状況はかなり厳しいと思うんです、が、私は今消費税を上げないでどうする、と思っています。」と言っています。

今回の消費税増税は、社会保障と税の一体改革、といいながら、その実は昨年6月、民主党藤井裕久税制調査会長(当時)が1日のTBS番組の収録で「新年金制度はまだ(法案が)出ていない。そういうものは国会の場でなくて議論していい」として、選挙などの国民との対話にもよらず、増税社会保障制度議論とを切り離してしまったものです。
 それなのに和泉氏や高橋氏のいうような”国民には増税の覚悟”などできているわけがありません。
     空恐ろしいほど愚劣な日本の政治 - シェイブテイル日記 空恐ろしいほど愚劣な日本の政治 - シェイブテイル日記

また、消費税増税があれば、将来の社会保障財源が確保できるといいますが、消費税が増税されたからといって当面(現在と近い将来)の社会保障給付が増えるわけではありません。実態は負の財政政策と考えられますので確実に景気を落ち込ませるだけでしょう。
     社会保障と税の一体改革の正体は「負の財政政策」 - シェイブテイル日記 社会保障と税の一体改革の正体は「負の財政政策」 - シェイブテイル日記

 このブログでもう何度取り上げたかわかりませんが、前回の消費税増税にしても、デフレ気味の1997年、当時の橋本内閣が消費税をプラス2%上げたことで、現在に至るデフレが続いています。橋本消費税増税では、消費税収は増えても、総税収は増えませんでした。失業率は増え、サラリーマン平均年収は減り続け、自殺者はずっと3万人超が続きました。アベノミクスがもてはやされている現在でも、黒田日銀の異次元緩和を除けば、当時と同じデフレのままです。経済環境は当時と大差はないのです(1997年4月の株価は18500円)。

この和泉という方、本当に生活者や零細事業者といった人々の相談に乗っている立場の人なのでしょうか。しゃべる内容は、財務省の官僚と同じ感覚の方のようです。

他の出演者も、アベノミクスに否定的な見解しか述べない野口悠紀雄氏、為替がたまたま安くなったと語る高橋進氏。
また司会者(島田)も中立ではなく、「安倍さんの成長戦略、今のお話を聞いていますと、とにかく、秋の消費税率引き上げを行うための地ならしということでよろしいのでしょうか。」などと、あたかも安倍内閣増税に邁進しているかのような妄言を吐く始末。

NHKは受信料を払って視聴してもらうという立場であれば、こういった討論番組で現在の安倍内閣の進めるアベノミクスとはあまりにかけ離れた、財務省増税路線に賛同する偏った人選をするのはいかがなものでしょう。

付言すれば、甘利大臣はさすがに増税については秋に判断する、と慎重な言い回しでした。
ただその甘利氏も「そろそろ円安の弊害が出ている」、と1月15日の甘利ショックに続く第二次甘利ショックを引き起こしかねないような発言をしていました。

素直にアベノミクスの進展を促すような番組がNHKには作れないものなのでしょうか。