シェイブテイル日記2

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NHK日曜討論で浜田宏一・野口悠紀雄両氏がバトル

今日(20日)のNHK日曜討論では「どうなる日本経済 アベノミクスを問う」と題し、討論が行われていました。
 議論の中で、NHKの経済番組としては珍しく浜田宏一氏と野口悠紀雄氏の意見の対立が鮮明でしたので、この点を中心に書き起こしてみました。その結果、岡村日商会頭の発言などはある程度端折っています。

出演者 
甘利明経済再生担当大臣
岡村日本商工会議所会頭
浜田宏一内閣官房参与・エール大学名誉教授
野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問
島田敏男NHK解説員


【日本経済の現状認識】

島田 「日本の経済の現状をどうお考えでしょうか」

(野口氏以外の一同は、アベノミクスによる円安株高など今後に期待すると言う主旨で発言)

野口「株式が活況を呈していることは間違いありませんが、国民の多くは不安を感じ始めています。 去年の2月にも似たようなことが起こっていまして、株価は上がったんですが、これはミニバブルでした。これと同じことになりはしないかということです。円安の影響は国民生活にも出始めていまして、ガソリン価格が上がっています。いずれ産業用の燃料も上がり、電気代も上がるということが予想されます。そうすると、製造業のコストがアップします。株価が上がっても中小企業には好影響はありませんので、私は今年は中小企業の倒産が続出する年になると懸念しています。」

(島田解説員がアベノミクスは金融・財政・成長の三本柱からなることを説明)

野口「金融政策については、過去のデータを見る限り効果がなかったということがはっきり分かります。それから財政拡大については、金利の上昇といった問題が懸念されます。つまりこういう政策では日本の問題は解決できないという点は重要です。日本経済の構造を変えていくことが必要です。そこで重要なのが3番目の成長戦略で、国民はこれでどのような政策が出てくるかに注目していると思います。」

【財政政策の効果】

島田財政出動の景気浮揚への効果については浜田先生はどのようにお考えでしょう。」
浜田 「景気を考える時に一番重要なのは天井(潜在成長率)です。天井を伸ばすのには金融政策ができることは限られていて、正しい意味での成長戦略は必要です。ただし、現在の日本が立ち遅れていいるのはそこ(潜在成長率の伸び)ではなく、せっかくの(生産)資源や人的資源を十分に利用できず、成長経路に乗っていない。それを妨げていたのが金融政策(の誤り)で、なぜかといえばその兆候が円高とかデフレであるということです。私は先程野口先生がおっしゃったことには真っ向から反対です。」
(浜田先生終始にこやか、野口氏憮然)「こんなに論より証拠で、株が上がり為替も影響を受けるのに、金融政策が効かないということはない。」

野口「今回の財政出動では公共投資が中心になっている。…。その場合財源が問題になってきます。そうすると金利が上昇する恐れがあります。今のところは金利の上昇は落ち着いて、むしろ下がり気味なんですけれども、…、実はCDSは今年の1月には急上昇しています。つまり日本の国債は危ないという信号が出されているんです。」
岡村「今回の公共事業は基本的に次世代に対して効果がある公共事業だということで何でもかんでも公共事業、ということではなくなっています。これは集中は可能だろうし、また今後もしっかりウォッチしていただければと思います。また今回の経済対策では中小企業関係で9000億、また科学技術に関しても9000億円ほど予算がついており、これが今後の成長戦略の火付け役になるということを思っています。」
甘利「公共事業は一過性で、将来には借金だけ残る、という点の解決については二つの視点がありまして、ひとつは国民の不安の払拭、高速道路を走っていたら天井が落ちてくるといったことがないように全てのインフラを点検します。それから一過性に終わらせないというためには、公共事業が終わったあと、民需を喚起するような効果を上げる、日本の成長力を上げるようなインフラを選りすぐったということです。」
野口「私も今回の公共投資は中身は評価できると思っています。問題は財源です。今の国債は非常に不安定になってきます。これは現在のユーロ危機との関係もあり、もし金利が上がると、国債を大量に持っている金融機関では膨大な損失が発生して経済が大混乱するという問題があると。今のところは日銀が国債を買っていますので、大丈夫だろうと考えている人が今のところは多いのですが、これも行き詰まっていく可能性があるんですね。銀行が国債を売らないということになっていく可能性がある。だから財源の問題は決して簡単ではないのです。」
甘利「そこは重要なポイントで、…、短期には財政の柔軟性を確保するが、中長期的には財政再建という旗をしっかり掲げて行かないと、日本の国債を持っていて大丈夫か、ということになりますから野口先生のおっしゃるとおりで、申し上げたような二本立ての政策を進めていく必要があります。」
(野口氏、我が意を得たり、と言う風に大きく頷く)
甘利経済財政諮問会議を総理の肝いりで再起動しました。ここは経済政策の基本方針を打ち出すところです。これから年央にかけて、骨太方針、骨太方針とは中長期に向けて成長戦略と財政再建をどう両立させるかの方針をだします。日本の財政の改善の目標をしっかりと示しながら、ある程度のフレキシビリティ(=短期的国債増発)を持っていくということが大事だと思います。」

浜田「今の与党・内閣でちょっと心配なのは、大型の補正予算を出すことだけに集中する人がいるということで、金融は効かないから、財政でと。それは現在の経済学の立場から言えば全く反対で、変動(相場)制の社会になったら、(財政政策ではなく)金融政策が効くんだと。それを言ったマンデルという人は、金融政策をやって、インフレ期待が生じ、金利が高くなるということは起きるが、それはインフレ期待よりも少ない、だから必ず経済は利益を受けるということを言っております。」

【金融政策の効果】

島田安倍内閣発足後の円安について、浜田さんのように早速効果が出たという評価をされる人もいますが、野口さんはいかがでしょう。」
野口「先程触れましたように、過去のデータを見る限り、金融政策が効果がなかったことははっきり出ています。2001-2006年の量的緩和政策が行われましたが、経済には何の影響も及ぼさなかった。
(浜田先生、手を横に大きく振り、違う、というジェスチャー
野口「経済成長も促進されないし、雇用も増えない。なぜかといえば社会全体のお金の量が増えなかったんです。日銀が金融緩和をして、当座預金は二倍位に増えたんですが、マネーストックは10%位しか増えなかった。なぜそうなるかといえば、貸出需要がないからなんです。これはデータで非常にはっきり分かっています。」
浜田「データとおっしゃいますが、科学的に見ると、債権を買い、株式を買い、といういわゆる包括緩和ならもっと効く。それから本田本多教授*1らが示しているように、量的緩和でゼロ金利で野口先生のおっしゃることは多少起こったがやはり日本経済にはプラスの影響がある、というのが実証的に証明されているので、『過去のデータを見ると(効果が)全くない』というのは全くのウソだと思います。」
島田「ただ、貸出が余り増えていないということはありますね。」
浜田「私が銀行に借りに行っても貸してくれないでしょう。それは担保が足りないからで、株式、そして土地の資産価値が今後上がってくれば、担保が増えて貸出市場にも極めて強く効く、というのが今の連銀議長でまた立派な経済学者でもあるバーナンキ先生が言っていることです。野口先生がおっしゃるのは今の経済学から見ると時代遅れだということですね。」(野口氏、苦笑)

島田安倍内閣と日銀との間で共同声明で金融政策について確認しようとしていますが。」
甘利 「(共同声明の目的は)日銀と政府が政策目標を共有して連携を図るということで、これまでの政府はこの点が弱かったのは事実です。円高デフレを脱却するために、物価安定目標をしっかり掲げる。私どもは2%が適切だと思っています。それを共有して日銀は日銀でしかできないことに努力をしていく、政府は政府がやるべきことがありますから強調して目標に向かって進んでいくという姿が大事だと思います。」
島田「安倍総理は当初政策協定、いわゆるアコードというもっと強烈なものを出すんだというように発言されていました。それがだんだん文書化とか共同声明という形で着地しようと。方法の部分でだいぶ揺れがあるようですが。」
甘利「アコードについては我々の目指すものと翻訳するものとが違ったということです。どこの中央銀行と政府という関係でも我々が思っていたアコードという関係ではなくて、共同声明といったことが普通で、それが手を緩めたとか強めたとかいうことではありません。」

野口「先程浜田先生がおっしゃったマンデルフレミングモデル、財政出動しても効果がない、それはおっしゃるとおりなんです。ただどうして効果がないかといえば、財政出動すれば、金利が上がって、円高になって、輸出が減るから効果がなくなるということで、私が先ほど申し上げたのはまさにその点です。
日銀の独立性については、現在の日銀法の仕組みでは政府が日銀に指示をしたり命令をしたりすることはできないんです。これは'89年の新しい日銀法で日銀の独立性というものが確立されたのです。その前の戦時中の昭和17年の日銀法では命令できることになっていて、それで戦後のインフレが起こったとか、その反省の上で作られた非常に重要な規定ですから、これを犯すということは大問題なんですね。」
浜田「野口さん、前半については100%賛成ですが、後半については、それで、過去20年間といっても良い、15年間の日本の停滞が生じたと考えているものですから、そういうことを認めるような日銀法が本当にふさわしいのかどうか。バーナンキ自身が日本銀行行内で講義したことは、『金融政策手段は日銀にやらせろ、ただ目標を勝手に決めて、デフレを国民に押し付けるということは許されない』というレクチャーをしているんですね。」
野口「では日銀の独立性は奪った方が良いという訳ですね。」
浜田「そうです。(野口 あ、わかりました)今言ったように、手段の独立性は必要だが、目標の独立性は奪うべきだと。」
野口「日銀の独立性を守るか守らないか、日銀法を改正するか改正しないのかは非常に重要な問題です。」
島田「今の浜田さんの指摘の中には、目的と手段の独立性は分けて考えるべきだということでしたが。」
野口「目的は日銀が政策決定会合で決めることです。政策決定会合には政府はメンバーを出すことはできますが、命令することはできないんです。」
浜田「ですから、そう言うシステムは変えるべきだというのが、15年間の…。(野口 日銀に命令できるようにした方がいいと)そうですね。」
浜田「ただ、野口先生に多少賛成するのは、いろんなことで大盤振る舞いしたいという政府が出てくるのは…、途上国なんです。政府を非常に強くして総裁を罷免できるとことまでいくと、戦前の旧日銀法に戻ってしまうのではないかと。」
野口「そこが問題なんです。一番の問題はそのうち国債の消化が行き詰まっていくんですね。そして最終的に行き着くところは、日銀に直接引き受けさせるということです。これは今は日銀が嫌だといえばできませんが、法律を改正して政府が命令すればできます。で、その結果がどうなるかといえば、これが日本政府が長期的に抱えている最大の問題なんです。」
島田「政府が市場にお金をジャブジャブと供給するための手段として日銀法を改正するのかどうか。」
甘利「政府としては日銀の独立性を犯すことは考えていません。 ただ、日本が抱えている問題に対して、日銀が傍観者であってはならない訳で、政府と日銀が共通の課題に向かって行くことが大事で、政府・日銀の連携を強化することを言っています。」

島田「日銀の後任人事について、安倍総裁はデフレ脱却の強い意志と能力を持ち、私と考えを共有できる方、としていますね。今の白川さんも最近は安倍総理と足並みを揃えているように見えますが。」
甘利「翳りが見えているとはいえ、日本は世界第三位の経済大国であり、その中央銀行総裁が世界市場に与える影響は大きいんですね。ですから中央銀行の総裁は市場との対話能力が必要です。同じことを言うにしても、この人がいうのと、あの人が言うのとでは市場に与える影響が異なってきますから。…。これは別に白川総裁の能力を否定する、ということではありません。」
島田「先日安倍総理は後任人事について、浜田さんの意見も聞いて、ということも仰っていましたが、もうアドバイスはしたんですか。」
浜田「今は総理は外遊されてますし、そういうことをお話する機会はないのですが、外国に対してちゃんと発言でき、経済学がしっかり分かっていて発言できる人でなければいけません。 最近、IMFのラガルド専務理事は、日本がこれだけ困っているから金融緩和は大目に見て上げよう、ただ通貨戦争は絶対許されないとも発言し、これは全く変動相場制の論理を理解しない議論で、私もリチャード・クーパー教授らと一緒に論文を書いたこともありますが、もう30年も前から、ジェフリー・サックス、アイケングリーンとかがちゃんと証明していることで、どうしてそれがIMFのトップが基本的な国際金融の原理を理解しないのか、非常に僕は不思議に思っています。」
島田「総裁の名前として現在いろんな人が浮いたり沈んだりしていますが、野口さんいかがでしょう。」
野口「総裁の資質として、政府とコミュニケーションができる人、市場との対話ができる人これはその通りだと思います。先ほど甘利大臣がおっしゃった通りです。ただし、それは政府と同じ考えを持て、ということではないと思います。政府とのコミュニケーションは重要だけれど、考えを押し付けるということではないと。ここは私は大変重要だと思います。日銀の独立性の問題と関連しますね。私は是非後任候補の方に聴いていただきたいのは、仮に日銀に直接引き受けをやれと言ってきた時にあなたはイエスといいますか、ノーといいますか、これは是非聴いていただきたいと思います。」

島田「後任人事は日銀の方、あるいは日銀副総裁を経験した方、こういった方になるのでしょうか。」
甘利「今の議論で一番いけないのは、どこの出身だからいいだとか悪いだとか、そういうことよりその本人の能力が日銀総裁として必要とされる能力があるかないか、それだけで判断されるべきで、ナントカ省だからいいとか悪いとか、こういったことは不毛な議論だと思いますよ。日銀総裁に政府が言うことを唯々諾々ときけとこういうことを言っているわけではなく、日本国民なら誰でも持っている危機感を共有することが大事で、その課題を解決するために政府日銀がお互いにできることをしっかりやると。」

【成長戦略、消費税問題】

島田「成長戦略についてはいかがでしょう。」
岡村「成長戦略で最も重要なことは震災からの復興と福島の再生で、これは大前提です。それから日本がこれからどう進むかを考えるとやはり科学技術で立国するを目指した、新しい技術開発に対する支援をしっかりしていただくと。二番目は地域の疲弊があり、そのためには中小企業をしっかり育てる必要があり、海外進出や技術開発に対するインセンティブをしっかりお願いしたい。それから創業の問題です。1997年には創業した人が250万人いたのが、2007年には150万人に減っている。創業の意欲が全体に減退している。それと、日本の立地競争力が弱いということです。法人税・エネルギー価格・規制とこれらを解き放つことで海外からの対内投資が増えるような政策を採らなければならない。」
島田「野口さん、冒頭で日本の産業構造を変えなければいけないんだと仰っていましたがこれを具体的に言うと?」
野口安倍内閣の命運を握っているのはまさにこの成長戦略だと思います。日本経済を変えるような政策が打ち出されてくるのか、それとも古い政策をただ規模を大きくしてやるだけなのか。ここを大変国民は注視しているんですね。ここで重要なのは新しいことができるのか、古い仕組みでそれを守ろうとするのか、新しい仕組みものをやろうとするのか。例えば、農業では農地法を改正したり、農協との仕組みを見なおしたり、それで農業が新しいリーディングインダストリーになることだって可能だと思います。これは製造業でも同じで、これまでの製造業に留まるのか新しいものを作るのか。 これは中小企業でも大変重要な課題だと思います。」
浜田「日本の政府がやっていることが日本の成長戦略に役に立っているのかという点では、最近エルピーダというメモリーの会社が倒産しました。これは国策会社を作って産業政策をやると称してやっていたんですが、円高・ウォン安でいきなり60%のハードルが急にできたことで倒産したわけです。ですから私は金融政策による円高解消が第一で、その次に天井を上げていく成長戦略も大事で考えて行かなければいけないと。最近の議論を聞いていると、政府が何か補助金などで介入をすると、何か民間が伸びるような幻想があるようですが、まず民間の活力を活かすような成長戦略をやることが必要だと思います。」
甘利「成長戦略で重要なことは、この分野が成長分野だということではなく、政府が将来の姿を示し、そこまでのロードマップを作って、時系列で政府がコミットしていくことが必要です。その間の障壁が何でそれをどう除去していくかを再生本部でしっかりと道筋をつけていくことが大事です。」

島田「消費増税については、安倍首相は景気の動向を見てからの判断だと。今の段階では必ず増税するとは言っていない。しかしここで財政緊急対策を打つということは、秋には増税するこということが前提になっていると考えていいのでしょうか。」
甘利「消費税を段階的に引き上げていくというシナリオは財政再建にも社会保障にも密接に関連してきます。そこできちんと消費税をあげられるような環境に持っていくことが今政府に求められていることだと思っています。」
島田社会保障国民会議もスタートしますね。」
甘利「今年8月には結論を出すようにします。」

野口氏は討論のなかで、「新しい酒は新しい革袋に。」とも発言して、安倍政権が新しい政策を取ることが重要としていました。ただ、野口氏は15年間日本をデフレに陥れている日銀の、目的の独立も保障すべき、という立場のようで、終戦直後の高インフレを恐れるような発言もしていました。

 現在の日本経済の最大の問題がデフレ問題なのですから、デフレ問題を解消するために日銀法を改正することこそ、野口氏のいう「安倍政権がなすべき新しいこと」そのものだと思うのですが。

*1:本多佑三元阪大教授