シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

信用創造(貨幣創造)には3種ある

最近、ツイッターランドでは、日本の政界に財政出動を唱える政治家を出していこうという薔薇マーク運動が注目されてきています。

私も薔薇マーク運動には注目しているのですが、その運動の中核的存在になりうる民主党の金子洋一前参議院から次のようなツイートがありました。

 

 金融緩和なしで財政出動すると最終的には増税を財源とせざるを得なくなる、というご意見のようですね。この因果関係についてツイッターランドでも憶測されていましたが、シェイブテイルはもしかすると信用創造(貨幣創造)に3種あることをご理解頂いていないのではないかと思いました。

 

結論から言いますと、信用創造(貨幣創造)には市中銀行が主体となるおなじみの信用創造と、日銀が主体となって日銀当座預金つまり銀行が日銀に預けている預金の創造と、もうひとつ、政府が自ら政府債務を負うことで市中銀行信用創造してもらう財政出動の3種類があるのです。(図1)

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図1 3つの信用創造

信用創造に3種類あることは、英語版Wikipediaのmoney creationの項目には記載されています。

en.wikipedia.org

 

薔薇マーク運動関係者によく理解されるべきなのは政府による財政出動には日銀は(受動的、間接的にしか)関与していないということです。

日銀マネーが財政出動の原資になっているというような理解をもし金子洋一前議員がされているようであれば、いくつかの論拠を中村てつじ元議員が良いまとめを作成されているのでここに引用しておきます。

 

d.hatena.ne.jp

 

 

リフレ派スペクトルと薔薇マーク運動、ポストケインジアン

最近リフレ派内の分裂が目立ってきました。

これについて偽トノイケ☆ダイスケ(久弥中)‏ @gannbattemasenn さんがうまく分類を考えてくれました

 リフレ派は金融政策重視では差がないものの、財政政策については積極財政から緊縮財政の順に 「薔薇マーク派」「自力リフレ派」「他力リフレ派」「緊縮リフレ派」があるという分類です。リフレ派内のスペクトルといったところですね。

 

これも参考にさせてもらって、私シェイブテイルが属する(市井)ポストケインジアンも含めた経済クラスタを分類してみました。

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リフレ派スペクトルとポストケインジアン

縦軸の財政政策は上が積極財政、下が緊縮財政と分かりやすいと思います。

横軸の貨幣生成の捉え方について、「外生的」あるいは「内生的」貨幣生成というのが聞き馴染みがない方も少なくないことでしょう。

 

これについては吉田暁氏*1の小論文に簡潔な対比が載っています。

西川元彦は「貨幣がまずあってそれが貸借されるのでなく,逆に貸借関係から貨幣が生まれてくる」と述べたが 、内生的貨幣供給論の本質を示す名言である。 また内生的貨幣供給論の中心的主唱者Moorは主流派の金融論との違いを「現在標準的なパラダイム(注:外生的貨幣供給論)は特に米国の経済学者にあっては ,中央銀行がマネーベースを決定しそれによってマネー総量を決めるとしている 」が、これらの 「現代金融理論は貨幣が商品(金銀) であった世界では妥当であった考え方を商品貨幣と信用貨幣の基本的な違いを認識することなしに継承している」と述べている

:内生的貨幣供給論と信用創造 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/45/2/45_KJ00009509884/_pdf

 

 吉田暁氏は元全国銀行協会連合会勤務とあって、貨幣と貸借つまり負債との関係をよくご存知でした(いわば経済学の地動説)。

貨幣は中央銀行が創り出して、これが上限となる負債の受け皿になっているわけではなく、民間企業なり政府が負債を負うことで貨幣はゼロから生まれているということです。

 

一方、現代経済学で主流派を名乗る経済学派はいずれも商品貨幣説型の間違った貨幣観を引きずっています。(経済学の天動説)。 

その間違いの「しっぽ」が例えば教科書レベルでは、貨幣発生の物々交換モデル(実際には物々交換をやっていたという人類史上の証拠はなく、金属貨幣が生まれるはるか前から貸借関係の記録が残されている)、信用創造の又貸し説(実際は銀行が貸出することで、それと両建てで貨幣がゼロから生まれている)、財政出動によるクラウディングアウト、国債発行で財政出動→貨幣市場タイト化→金利上昇→民間経済抑制といった誤解(実際には国債発行して財政出動すると貨幣は純増するので金利抑制要因)あるいは、政府貯蓄という不思議な概念(政府は家計と違い、必要に応じて政府あるいは中央銀行信用創造して無から貨幣を増やせるため、貯蓄する意味がなく、T-Gという計算結果には意味がない)に出ていると思います。

 

 過去6年の3本の矢からまず積極財政を止め、ついで金融緩和を止めて、構造改革1本槍に変質したアベノミクスは、もはや財政破綻派と区別がつかなくなっています。*2

 

 そうした閉塞感からの反発として逆に薔薇マークリフレ派の方々が力を得ていることは喜ばしいことで大いに期待できます。

ただせっかく積極財政を唱えるのであれば、貨幣と負債の本質まで知っていただき、ポストケインジアン派に転向されれば施策面でもしっかりした提案がなされるものと期待しています。

*1:1933年東京生まれ。1955年東京大学経済学部卒業。1955~1985年全国銀行協会連合会勤務(調査部長、事務部長、事務局次長)。1985年~2014年武蔵大学経済学部教授、名誉教授) 決済システムと銀行・中央銀行』より

*2:他力リフレ派が最近緊縮アベノミクスの成果として総雇用者報酬増加など少子高齢化帰結を戦果として誇っているのは、緊縮しても経済は良くなると主張していることになり、増税派のイヌに成り果てていることは困ったことです。上の図でも緊縮派と大差がないですし。

「政府支出による景気対策に効果はない」は本当か

最近、立命館大学松尾匡先生をはじめとする拡張財政を求める経済左派的立場の方たちが「薔薇マーク」運動というものをはじめています。

rosemark.jp

シェイブテイルも拡張財政を強く求めていますので今後とも応援していきたいと思っています。

 

ただ、松尾匡先生のサイトをみにいくと「用語解説:ケインズの経済理論」として、なぜか拡張財政に否定的な見解が載っていました。

【現代のケインズ理論の唱える政策】
 ケインズ自身ともケインジアンとも異なり、現代のケインズ理論の結論によれば、政府支出を増やすことによる景気対策の効果はあまりないということになっている。なぜなら政府支出の増加で増えた人々の所得は、流動性のわなのもとではすべて貨幣のまま持たれてしまうので、消費需要の増加として広がっていくことはないからである。

ケインズの経済理論 ケインズ経済学 ケインズ理論

松尾先生のこの結論はニューケインジアンとしての結論であり実証的な話は書かれていませんでした。 では現実にはどうなのでしょう。

 

ここに好対照の二国があります。リーマンショック前後の日本と中国です。

リーマンショックは2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した以後の経済変動を指す和製英語ですが、欧米では2008年国際金融危機という名前の方が一般的です。

実際、リーマン・ブラザーズが破綻するよりも前から、その引き金となったサブプライムローン問題が顕在化していました。

ところが、日本はといえば、当時の与党自民党与謝野馨経済財政担当大臣はリーマン・ブラザーズが破綻した直後の2008年9月でさえ次のように語りました。

リーマン破綻の影響、与謝野氏「ハチが刺した程度」

 自民党総裁選に立候補している5人の候補者は17日午前、島根県出雲市で街頭演説した。 与謝野馨経済財政担当相は米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に関して 「日本にももちろん影響はあるが、ハチが刺した程度。これで日本の金融機関が痛むことは 絶対にない。沈着冷静な行動が求められる」と述べ、日本経済への影響は限定的との見方を示した。

日本経済新聞 nikkei.net(08/09/17 13:01) 
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080917AT3S1700N17092008.html

与謝野大臣が「ハチに刺された程度」という認識で経済対策を行わなかった当年の2008年は名目GDPはマイナス2%の落ち込みでした。翌2009年はリーマンショックの悪影響は誰の目にも明らかとなり、麻生太郎総理大臣の元、緊縮日本には珍しく対前年比6%もの歳出増の大盤振る舞いを実施したのでした。

一方、中国では、2008年11月には、リーマンショック対策として4兆元(当時のレート換算で約56兆円)規模の財政出動を決めて直ちに実施しました。4兆元といってもパッと見当がつきにくいですが、前年の財政規模を46%増しにしたということですから、現在の日本の財政規模は一般・特別会計合わせると200兆円なのでこれを300兆円とし、国民一人当たり100万円余計にバラまいたというイメージです。

 

下図に両国の歳出の伸びと名目GDPの伸びをプロットしてみます。(2005-2017年)

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歳出・名目GDP伸び率

リーマンショックの影響を限定的とみた日本は経済危機の最中何の対策もせず(青丸内)、2008年マイナス2%、歳出を6%伸ばした2009年でさえマイナス6%のマイナス経済成長となった。一方2008年に歳出規模を46%伸ばした中国は、リーマンショック最中にもかかわらず名目GDPを対前年比18%も伸ばした。翌2009年には早くも財政を緊縮側に転換、2010年以降は元の通常成長モード(赤い楕円)に回帰した。

 

日本では2009年に財政出動してもマイナス成長だったことから「財政出動しても効果は限定的」という認識が広まった可能性もあります。しかし上の図をみると日本の2009年の財政出動は単にtoo little too late だったのではないでしょうか。

2008年の中国同様、国民一人当たり100万円をバラ撒く規模の財政出動をしていたら、リーマンショック当時発生した大量の失業者もその後数年間の就職氷河期も実際とは違う状況となっていたのではないでしょうか。

 

 

 

石弘光氏死去という機会に思う

石弘光氏が亡くなりました。 財政再建に命を捧げた人生だったでしょう。

政府税制調査会長時代、増税を主張した時には「庶民の敵」と罵られ、ワイドショーに取り上げられ、自宅にはイヌの糞をばら撒かれたとか。
まったく頭が下がります。石弘光氏を批判した人々、ワイドショーを企画した人。一生懸命イヌの糞を集めて石氏の自宅にばらまいた当時の人たちには。

時代は移り、現代では石氏は日本のために命を捧げたようなマスコミの書きぶりです。 
増税を主張すると罵られるという当たり前の時代から増税を主張するのが当たり前という現代。わずか2-30年の間、この間一体何があったというのでしょう。

政府粗債務と家計純資産の比較!?
皆さん次の図1にイチコロで殺られてしまったようです。


図1 政府粗債務と家計純資産の比較
日銀資金循環統計から筆者作成
このグラフで意味があるのは政府粗債務から政府粗資産を引いた政府純債務と家計純資産との比較のみ。

「もうすぐ家計純資産をすべて費やしても政府粗債務を賄えなくなり、ハイパーインフレが皆さんを襲うようになります。」
「国民一人あたり900万円弱の借金が−−」
政治家、マスコミ、そして石氏ら財政学者は本当にクローン人間のように突然このように訴え始めました。
なぜクローン人間のようなのか。全員が同じ間違いを犯しているからですね。なぜ政府粗債務と家計純資産という比較しても意味がないものを比較し、なぜ国民一人あたり900万円弱の債権を持っているのを逆に債務と言い張る大間違いを根拠に、全員が一斉に比較して危機を煽るようになったのか。*1

まぁ、死んだ人に石を投げても、というより、石に石を投げても虚しいだけですね。

資産は負債と同時に生まれる


図2各主体別純資産・純債務
日銀資金循環統計から筆者作成

上の図2で、日本の家計純資産は現代では1500兆円に達していることが分かります。 面白いことに、この家計純資産は、(政府粗債務ではなくて)政府純債務、企業純債務、海外純債務をすべてカバーした金額と常にほぼ等しいことも分かります。 *2

簿記3級を習った人ならば、資産と負債が両建てで増え、両建てで消滅するというのはすんなり受け入れられる話ですね。*3

要するに家計純資産1500兆円の正体は、政府純債務・企業純債務・海外純債務がそれぞれ発生すると同時に同額発生した資産ということなんですね。

従って、石氏のように、政府粗債務が家計純資産に追いつきそうだという理由で消費増税にも大賛成という立場の人々(現代日本人の大多数というのが恐れ入ります)は政府債務がつくられたと同時に発生した家計資産を用いて、その資産を生んだ政府債務を自らの資産と対消滅させようとしている上、その方法論としては成長の最大のエンジン、内需(消費と投資)に懲罰税を課すことで内需を抑制し、真綿で首を絞めるに日本経済を絞め殺す(賃金抑制の結果、結婚も抑制され生まれてくるべき赤ちゃんが生まれられない)というおぞましい方法を選択しているということです。

石氏らの「活躍」により内需を抑制された日本では内需に向けた投資は意味をなさず、企業は生み出した資金を対外投資と純債務の返済に回し、内需が抑制されることで売上は将来に渡って頭打ちのためにかつてのように定期昇給や終身雇用は夢となり、非正規雇用の従業員の賃金も抑制するようになり、その結果。

法人税収・所得税収減を介して、政府の財政のバランス上、歳入と歳出の差「ワニの口を広げ」不足する税収文は国債で補わざるをえなくなった結果政府債務は、特に橋本政権下の増税(1998年)あたりから急増するようになりました。急増する政府債務をみて更に財政学者たちは我が意を得たりとばかりに消費税増税に積極的な姿勢となりました。 もはやマンガですね。

誰が描いたのかはもはや定かではありませんが、増税をしたい自分たちの私利私欲に資するとして描かれたたった一枚の図(図1)、政府粗債務と家計純資産とを比較するという欺瞞に満ちた図により政治家もマスコミも財政学者も踊らされ、今やそれが国民の常識と化してしまっています。

石氏が亡くなったいまこそ、家計純資産と比較するのならそれを生み出した相手である、企業純債務、海外純債務、そして政府純債務と比較してこれらがあるからこそ今の私達の資産が存在するのだという事実(図2)をしっかり頭に入れ、石氏のような日本を滅ぼすような大間違いは今後決してしないと政治家・マスコミ・財政学者は心に誓うべきいい機会なのではないでしょうか。

*1:一体どこの誰のクローンなんでしょうね?

*2:完全に一致しないのは、その他に金融機関などマイナーながら経済主体が存在するためです。

*3:企業の自己資本については返済を求められない負債と捉えればよいでしょう

日銀決定が告げた「出口なき撤退戦」の始まり

前回の記事同様、私が自分で思いついたことからなる、発信情報としてはもう余り書くべきことがありませんので、いろいろな側面では同様の思いを持っている方(プロなど)の記事を全文のせて記事に代えたいと思います。 本日は日銀政策の迷走ぶりに関する田渕直也氏の、四季報オンラインへの投稿記事です。

田渕直也氏は債権運用のプロですから、積極財政派の私とは考え方が全く異なりますが、日銀の出口戦略については同じ懸念を持たれているようです。
=以下四季報オンラインからの引用記事=
日銀決定が告げた「出口なき撤退戦」の始まり
金融政策の修正はいつできるのか

田渕 直也
2018/08/03 18:00


 7月30〜31日の金融政策決定会合で、日銀は金融政策の方針を示す“フォワドガイダンス”を新たに導入して「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」方針を明示する一方で、長期金利の変動をある程度(±0.2%程度とみられる)は許容するというわずかな修正を加えた。

 日銀が掲げる年率2%の物価上昇目標に遠く及ばない現状で大幅な金融政策の変更はまず考えられない状況下ではあるものの、今回の金融政策決定会合は事前にマーケットの注目を大いに集めた。結局、予想の範囲内の微修正にとどまったわけだが、なぜ大幅な政策変更が予想されていないにもかかわらず、今回の金融政策決定会合がそれほど注目を集めたのだろうか。

 今の日本の金融政策の起点は、2013年の「質的・量的金融緩和政策」(いわゆる異次元金融緩和、もしくは黒田バズーカ砲)の導入にある。前年比2%程度の望ましい物価上昇を実現するために、これまで試みられなかった手段も含めて金融政策をフル活用しようとするものだった。しかし、質的・量的緩和の拡大策やマイナス金利の導入など、その後なんどもテコ入れを図ってきたにもかかわらず、現在に至るまで物価目標実現の道筋は見えていない。

リフレ派による壮大な実験の行方
 「なりふり構わぬ金融政策で物価上昇を引き起こせる」といういわゆる“リフレ派”と、「金融政策だけでは不可能だ」とする“伝統派”の政策論争が何年にもわたって繰り広げられた末に、その論争にリフレ派が勝利して実現したのが今の金融政策だ。だが、リフレ派の壮大な歴史実験は、結局失敗に終わったことが明らかとなりつつある。

 また、国債を年80兆円程度、ETF(上場投資信託)を年6兆円程度買い続ける政策をいつまでも続けることは物理的に不可能だという問題もある。物価目標が実現できず、金融機関の収益を圧迫するなどの副作用も表面化する中で、積極的な金融緩和政策からの脱却が選択肢に上がったとしても不思議ではないだろう。

 だが、こうした一連の金融政策は、本当に失敗だったのだろうか。物価目標の実現という点ではその通りだが、為替レートを円安方向に大きく動かし、株価を押し上げた効果は非常に大きかったとみられる。そしてそれこそが、日銀の金融政策のわずかな修正に対してもマーケットが神経過敏になる理由なのである。


グラフに示したのは、主要通貨に対する円レートの割高さ、割安さを示す実質実効為替レートの推移である。現在の円レートはかなり円安に振れ過ぎていると考えることができるが、その主因が積極的な金融政策による円安効果にあると考えられるのだ。

 もし日銀が金融政策を“正常化”すれば、25%程度の円高シフトが起きてもおかしくない。株式市場においても同様だ。日銀はすでに20数兆円のETF保有しており、株価の押し上げ効果はそれなりに大きかったと推測される。その効果がはげ落ちれば、株価への影響は相当なものになるだろう。

いつまでも続けられないが、どうするのか
 結局、いつかは止めなければならない現在の金融政策だが、それを止めるときには、大幅な円高と株安を覚悟しなくてはならないのである。もちろん、金融政策の修正は、大混乱を招かないように、長期にわたり、緩やかに行うことになろう。今回の金融政策決定会合は、いわばその撤退戦の第一歩となるべきものだったのだが、結局テクニカルな微修正しか打ち出すことはできなかった。もちろん、それによって市場の混乱を未然に防いだわけだが、問題は、今できないことを一体いつできるのかということだろう。

 現在の日本経済は、恐らくこれ以上は望み得ない良好な状態にある。企業利益は過去最高を更新し、失業率はバブル期以来の水準にまで下がりつつある。実感には乏しいかもしれないが、だれもが実感できるような景気拡大は基本的にもう訪れることはないと考えるべきである。

 つまり、現在のように経済がベストに近い状態にあっても政策を修正できないのなら、そうでないときに修正することはもっと難しい。現在中国経済は減速にさらされ、好調さが続く米国も来年以降の減速を予想する声が上がっている。日本経済にも減速の波が押し寄せたとき、今の日銀には着実な効果が期待できる追加の政策がほとんど残されていない。

 一見、単なる微修正にとどまった今回の日銀の決定は、長く続く、出口の見えない撤退戦の始まりを告げるものと言えるだろう。

田渕 直也(たぶち・なおや)/1985年、一橋大学経済学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)で主にデリバティブのトレーディング、ポートフォリオマネジメントに従事。UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ投信)債券運用部チーフファンドマネージャーとして、社債やストラクチャード・プロダクトへの投資運用体制を構築。『ファイナンス理論全史』、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』など著書多数。現在、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表。

=以上引用終わり=
著作権法では引用は物理的に1/2までは不問として運用されているようなのですが、それは十分理解した上で当を得た日銀政策批判だと思えましたので今回のみは敢えて全文を引用しました。 四季報編集部様申し訳ありません。以後はルールを守る所存です。 シェイブテイル

政治と貨幣理論の融合

私はしばらく前にある方に教えてもらったのですが、2016年の前回米国大統領選挙で民主党予備選挙を戦ったバーニー・サンダース議員の政策スタッフ(ブレイン)はMMTerだったそうです。
その米国MMTerが書いた記事を日本語に訳された方がいまして、その方のブログを全文コピーしてご紹介します。

サイト管理人はアラフィフの主婦「ありす」さんです。

最近になって、「お金って不思議だ!」と気づいてしまったアラフィフ主婦が、経済とお金の情報を収集しています。
興味範囲にスティグリッツジョージ・ソロスビル・ゲイツ、ハンス・ロスリングなどなど。
(サイト管理人:ありす)
お問合せは下記までお願いします。
info@econmoneycafe.net

タグ: サンダース
投稿日: 2016-04-28
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(拙訳)長年無視されてきた経済理論が見直されている
2016年3月14日づけで、Bloomberg Businessサイトに掲載された記事を拙訳し、ご紹介します。※元はhttp://alicewonder113.blog.fc2.com/blog-entry-92.htmlに掲載していたものをこちらに移転しました。

長年無視されてきた経済理論が見直されている

伝統的信念が焚火に投げ込まれる大統領選の時期にも、あるタブーが生き残っている。国家債務が危険だという信仰だ。

反体制派の経済学者たちが、この信仰をも焚火に投げ込もうとしている。

いまこそそれにふさわしい時期だ。また、これは米国に限った話というわけでもない。マイナス金利や、新規発行貨幣を直接消費者に届けるヘリコプターマネーなど、中央銀行は、何かしら役に立つものが残っていないかと、道具箱をのぞき込んでいる。中銀のあらゆる工夫にも関わらず、先進国の経済はなかなか回復していない。

政府がリリーフに立てという声が高まっている。多くのエコノミストや金融のトップがその声に合流しはじめた。世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターのトップであるレイ・ダリオ、そしてジャヌス・キャピタルのビル・グロスは、政策が曲がり角に来ており、より大きな債務に頼るべきだという。

「投資家かいわいでさえ、金融政策は一種のタマ切れと認識されている」と、NYのスタンダード・チャータード銀行エコノミスト、トーマス・コスタグは話した。「いまや財政政策が焦点になっている」

独自通貨

現代貨幣理論(MMT)からすれば、最初からそうすべきだった、というところだ。独自通貨を持つ国家の政府支出について、非伝統的な意見を持ち、経済思想の片隅にいた、20年以上前からのそれなりに古い理論がいま、見直されてきている。

MMT理論家によると、そうした国家は財政危機のリスクを持たない。債務はドルや円になるだろうが、ドルも円も、自分たちで独自に作り出すことができる。つまり、債務に見合った金を作れる。だから、徴税も、国債発行すら必要ない。

これによって長期的にどうなるかということを、多くのエコノミストは懸念している。

「自分が債務を消費することについては何の問題もない」と、ソシエテ・ジェネラルの主任エコノミストであるアネタ・マルコウスカはいう。「しかし、政府が無限に金を刷って、無限の、莫大な債務を運用するとなると、あっという間にタガが外れるのではないか」

そうした懸念に、MMTはこう答える。「無限ということにはならない。今度は、実質的なリソースが制約となる。道路をつくるのに、どれだけ労働力が必要かということだ。徴税は、通貨への需要を確保し、経済の過熱を冷ますのに有効なツールだ」しかし、MMT理論家の考えでは、インフレが引き起こされることにまでならない。

米国は、2008年の危機以降、劇的に財布のひもを緩めてきた。翌年には、GDPの10%の国債を発行した。これは昨年までに、GDPの2.6%、4390億ドルにまで縮小した。

議会予算局は、今後数十年で、ベビーブーマーが引退するにつれ、社会保障費が増えるため、ギャップが広がると予想する。このリスクは、財政タカ派に良く言及される。

主流派のハト派は、長期的な警告は受容するにせよ、歴史的な低金利について指摘する。投資家は債務について今のところ心配していない。それならどうして遣わないのか?と。

MMTはもっと踏み込んでいく。問題は、誰が耳を傾けるか、だ。

「彼らは中央銀行や、財務関係の大臣や省庁から排除されている」と、ワシントンのピーターソン世界経済研究所の特別研究員、ジョー・ギャニオンはいう。ギャニオンは、すべてのMMT理論に同意しているわけではないが、世界景気は「MMT勢が影響力を持つには良い時期だ」と思える程度に弱含んでいる。

理解者を両手両足で数えた日々

MMTは今、異端扱いされているように見えるが、ミズーリカンザス市立大学の経済学教授ランディ・レイによれば、この理論がほとんど認定されなかった時代があった。

1998年に「現代金融解説」を書いたレイは、同意見の同僚の中で、どれだけの人がこの理論を理解したか数えたものだと語る。「10年後には、両手両足も使わないといけなかった。」

いまでは、ブログのおかげで、世界中に何千人もの理解者がいるという。特に、イタリアやスペインのような、経済難に見舞われている国々で。MMTは、統一通貨の宿命について早くから指摘してきた。金融の国家主権がなければ、危機において国家は役に立たなくなる。

米国では、少なくとも一人の大統領候補が、MMT理論に耳を傾けている。バーニー・サンダースのアドバイサーの中に、MMTのリーダー的存在がいる。サンダースが上院予算委員会に雇ったステファニー・ケルトンとジェームズ・K・ガルブレイスである。ガルブレイスの父親は、ジョンソン大統領の「偉大なる社会」構想に貢献したジェームズ・K・ガルブレイスである。

普及へのハードルは高い

この組み合わせは合理的だ。サンダースは、医療、教育、インフラに巨大な投資を約束している。財政のゆるみよりも緊縮の方が危険と見るエコノミストとは、相性が良い。

しかし、選挙運動に行ってみると、このバーモント州議員が「債務のタカ派」であり、支出計画は増税とドル単位で合わせられていることがすぐにわかる。

「彼は理論には興味がない」と、サンダースの政策ディレクターであるウォレン・ガンネルズは話す。「彼は、中間層を立て直し、賃金を上げ、他の先進国のどこよりも高い貧困率を必ず下げられる方法に興味がある」

つまり、MMTエコノミストを抱えた左派の候補でさえも、この主義主張を支持するにはいたっていないということだ。かようにこの理論の普及は難しい。

家計と政府債務のアナロジー

反論する人々は、金を刷れば国は最終的に、ジンバブエのようなワーストケースシナリオに陥ると論じる。貨幣発行が通貨価値を毀損し、紙幣から0がはみ出してしまうというのだ。

ベネズエラの過度な消費は、昨年、180%のインフレをもたらした。日本の場合はもっと複雑だ。長年の債務は、国債購入者を脅かしてもいないしインフレの発散も起きていないが、経済成長ももたらしていない。

バージニア大学政治学教授ジム・サベージによれば、アメリカには特に、財政規律へのこだわりがある。これは米国の初期からみられるもので、「長年にわたり、英国にさかのぼる中央集権政治への恐れ」が、組み込まれているという。

レイは、アメリカ史には、それとは異なる考えが広まった時代があるという。第二次世界大戦では、米国の権力者は、長年忘れられていたことを学んだ。「常に労働可能な失業者はいて、彼らを働かせることができる」

サベージは、アメリカ人は歴史的に、家計と国家債務を結びつけて考えがちだという。このカテゴリーエラーはいまでもはびこっている。

2010年、政府職員への給料凍結を決定したとき、オバマ大統領は「中小企業や家庭は節約している。政府もそうしなければ」と語った。

このコメントに顔をしかめるのは、MMT理論家だけではない。多くのエコノミストが、家計が節約しているときには、需要の落ち込みを防ぐために、政府は逆のことをしなければならないと考えている。

しかしながら、この論議は、議会ではあまり影響力がない。連邦政府が、回復を持続するために、あまりにも多くの重荷を負ってきたからだと、ソシエテ・ジェネラルのマルコウスカはいう。

「金融緩和の決定をする場合には、一握りの人々の決定で済む。財政刺激に政治的合意を形成するとなると、もっと苦労することになる」

レイは、前回の景気の落ち込みの後、世論が変化することを期待した。大恐慌の後に、ケインズ経済学が台頭し、ニューディール政策が実施されたように。しかし「政策立案者に関していえば、実質的には何も変わっていない」という。

「国民の方に、変化が起こったと思う」と彼はいう。サンダースと共和党ドナルド・トランプの反体制運動は、考え方を変える一打となると。

「稀な経験」

ほとんどのエコノミストは、米国が直近で不況になるとは予想していない。しかし金融市場の混乱や、アメリカ政治の大騒ぎが加わり、誰も経済の不調に処方箋を見出していないという認識は強化されている。

超党派制作センターの副センター長である共和党のビル・ホーグランドは、議会予算局と上院予算委員会で、40年にわたり、米国の財政政策形成に携わってきた。

彼は、インディアナの農場での厳しいしつけによって、「ベルト地帯の外側の多くのアメリカ人に、いかに支出と収入をバランスしなければならないという考え方が染みついている。」かわかるという。政府債務は違うものだということは、彼は認める。長期的にバランスする限りにおいては、現在は需要を支えるため、債務を増やしてもいいだろうと考えている。

ホーグランドは、何よりも、根本的な変化が水面下で起こっていることがわかるという。2008年の「破壊的なイベント」は、過去に10回も起きていないような形で、アメリカの政治を変えつつある。経済学の正統派もヒットをくらっている。

「我々は、すべての経済理論が試されるという、非常に稀な経験をしつつある。」と彼は語った。

ビットコインは本源的価値を持つか


ビットコインと1780年銘マリアテレジア銀貨

近年、ビットコインの流通をアシストするといったビジネスが脚光を浴びています。
それをみるまでもなく、ビットコインは大変な高額で取引されているのですから、ビットコインに「本源的価値」があってもおかしくはなさそうです。

そもそも貨幣がもつという「本源的価値」とは一体何なのでしょうか。
これ自身経済学者らの間で議論の対象となっていますが、私 シェイブテイル個人がどう捉えているかといえば、「本源的価値とは誰かに確実に受容されること」だと考えています。

1780年銘のマリアテレジア銀貨
かつて、中東で流通していたコインで、1780年銘のマリアテレジア銀貨というものがありました。これがオーストリアから遠く離れたエチオピアの西部にあるカファ地方(コーヒーの語源にもなったところ)で200年もの間流通したということがりました。
    

この例では、このマリアテレジア銀貨がカファ地方ではエチオピア政府への税金として納付が認められていた(というより納付を求めた?)ということだそうです。

  詳しくはこちら 1780年銘のマリア・テレジア銀貨

ビットコインには確実な受容者はいない?
ではビットコインにはこうした確実に受容する政府のような主体があるか、といえば、今のところ確実な受容者はいないとしか言えません。

ではなぜビットコインが100万円以上もの高値で取引されているのか。シェイブテイルは単なるバブルだと考えています。

皆さんはどうお考えでしょうか。