シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

上座部(小乗)MMTと大乗MMT

よく知られていますように、仏教には大きく二つの流れがあります。

ひとつは小乗仏教(現在では上座部仏教という方が普通のようです)、もうひとつは大乗仏教です。

 

上座部仏教(小乗)の方は、悟りを開こうと努力したわずかな人だけが悟りを得られ、悟りを開く努力をしていない一般人は救われませんが、悟りを得た人は一般人から尊敬を集めます。現在でも東南アジア諸国スリランカでは上座部仏教が広まっています。

 

一方、大乗仏教の方は、悟りを得た人のみならず、一般大衆を救済しようとする思想から生まれた仏教で、現在、東アジアやチベット地域に広まっています。

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さて、先日にはランダルレイのMMT現代貨幣理論入門の日本語訳(鈴木正則訳、島倉原氏監訳)が出版されました。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 さっそく、シェイブテイルも購入して改めて読んでみました。全体が500ページを超える大著ですから、まだ全部読み切ったわけではありませんが、もしMMTについて何も知らない読者として、この「入門書」を読んだ気になって読むと、あちらこちらに始めてMMTに接した読者の理解を越えそうな表現にであいます。例えば…。

 

商品貨幣論のような素朴な貨幣論を未だに信じている社会科学はもはや主流派経済学のみなのではないか。(巻頭解説p3)
 
貨幣(money)は一般的、代表的な計算単位をいう。特定のモノ--硬貨や中央銀行券--を指す言葉としては使用しない。(定義p18)
 
MMTは、言わば「巨人たちの肩を踏み台としてなりたっている」のである。(序論p38)
 
政府は支出のために自らの通貨を借りる必要がない!(同p42)
 
ハイマンミンスキーは「誰でも貨幣を創造できる。問題はそれを受け取らせることにある」と言った。(同p46)

等など…。

 

ランダルレイはMMTの開祖のひとりですから、レイのMMT入門書はまるっきり一般人向けに書かれたというよりも、主流派経済学者だとか、経済学部の学生だとか、ある程度の経済学の素養をもった人々に向けて書かれていたとして不思議はありませんが、もし、『この「入門書」を読めば、MMTについて、広く社会的な共通認識が広まる』というものであったならば、次のような「論戦」もなかったのかもしれません。

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最近ツイッターランドで、MMTの立場から日本経済を救いたいと考えている(らしい)I氏と、MMTを極めたいと考えている(らしい)M氏との論戦を目にすることがありました。その論戦に対する正直な感想として、I氏の大乗MMTとM氏の上座部MMTの論戦のようなもので噛み合っていないな、と思ったものです。*1 

 

MMTに対する正確な理解としてはM氏は「MMT四天王の一角」といわれる位ですから、日本でMMTについて詳しく理解しているという点では全ての経済学者を含めてもM氏を上回る人は数えるほどでしょう。

 

一方のI氏の方は、日本が長年患っているデフレ不況を根治したいという願いから積極財政を唱え、MMTの「こうである=descriptive」という面を活用したいという考えがあるように思います。

 

論戦のひとつに「無税国家はあり得るか」というものがありました。I氏は「(自身が関与した?)経済シミュレーションの結果から無税国家はあり得る」という立場でした。一方のM氏は「租税貨幣論MMTの1丁目一番地。無税国家なんてあり得ない」という立場でした*2

 

 MMTでいう「税」とは広義に、税金、年金納付、罰金、政府系企業への支払いなど、政府が自ら発行した貨幣が還流する過程全てを指しているのですが、I氏は狭義の税金を無税化したシミュレーションでも(おそらく高インフレにならず)問題は起きなかったという話をしていて、M氏は広義の税金(=税金、年金納付、罰金、政府企業への支払い等など)を全て止めたとした場合、国内での安定的な通貨の流通が可能かどうかという議論をしているように思えました。

 

両氏で議論している内容がそれぞれ違うので、建設的な結論が出せそうな雰囲気ではなかったのですが、まぁ、細かい話に入り込むのは今回のエントリーの本意ではありません。

 

要はM氏にしてもI氏にしても、MMTを日本で活かしたいという思いは一緒なのだと思うのですが、M氏はどちらかといえば上座部MMTを目指していて、I氏は大乗MMTを目指しているため、議論が噛み合っていないのではないのでしょうか。

 

もしシェイブテイルの推測通り、両氏が「日本でMMTを活かしたい」という思いでは共通なのであれば、それぞれが相手の立場の違いに配慮して協力関係を形成するというのはそう難しいものではないように思うのですがいかがでしょう。

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シェイブテイルもMMT現代貨幣理論入門の入門のような電子書籍を出版しました。Amazonで、Kindle Unlimitedを利用すれば無料で読めますし、読む時間も1時間半程度です。

 

*1:この大乗MMT,小乗MMTという用語はツイッター上でのbw氏の命名です。https://twitter.com/018BW018/status/1168408547215859712

*2:レイのMMT現代貨幣理論入門でいえば、2章自国通貨の発行者による支出3節「租税が貨幣を動かす」と、3章国内の貨幣制度2節「決済と負債ピラミッド」に関係した議論が書かれています。