シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

「政府支出による景気対策に効果はない」は本当か

最近、立命館大学松尾匡先生をはじめとする拡張財政を求める経済左派的立場の方たちが「薔薇マーク」運動というものをはじめています。

rosemark.jp

シェイブテイルも拡張財政を強く求めていますので今後とも応援していきたいと思っています。

 

ただ、松尾匡先生のサイトをみにいくと「用語解説:ケインズの経済理論」として、なぜか拡張財政に否定的な見解が載っていました。

【現代のケインズ理論の唱える政策】
 ケインズ自身ともケインジアンとも異なり、現代のケインズ理論の結論によれば、政府支出を増やすことによる景気対策の効果はあまりないということになっている。なぜなら政府支出の増加で増えた人々の所得は、流動性のわなのもとではすべて貨幣のまま持たれてしまうので、消費需要の増加として広がっていくことはないからである。

ケインズの経済理論 ケインズ経済学 ケインズ理論

松尾先生のこの結論はニューケインジアンとしての結論であり実証的な話は書かれていませんでした。 では現実にはどうなのでしょう。

 

ここに好対照の二国があります。リーマンショック前後の日本と中国です。

リーマンショックは2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した以後の経済変動を指す和製英語ですが、欧米では2008年国際金融危機という名前の方が一般的です。

実際、リーマン・ブラザーズが破綻するよりも前から、その引き金となったサブプライムローン問題が顕在化していました。

ところが、日本はといえば、当時の与党自民党与謝野馨経済財政担当大臣はリーマン・ブラザーズが破綻した直後の2008年9月でさえ次のように語りました。

リーマン破綻の影響、与謝野氏「ハチが刺した程度」

 自民党総裁選に立候補している5人の候補者は17日午前、島根県出雲市で街頭演説した。 与謝野馨経済財政担当相は米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に関して 「日本にももちろん影響はあるが、ハチが刺した程度。これで日本の金融機関が痛むことは 絶対にない。沈着冷静な行動が求められる」と述べ、日本経済への影響は限定的との見方を示した。

日本経済新聞 nikkei.net(08/09/17 13:01) 
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080917AT3S1700N17092008.html

与謝野大臣が「ハチに刺された程度」という認識で経済対策を行わなかった当年の2008年は名目GDPはマイナス2%の落ち込みでした。翌2009年はリーマンショックの悪影響は誰の目にも明らかとなり、麻生太郎総理大臣の元、緊縮日本には珍しく対前年比6%もの歳出増の大盤振る舞いを実施したのでした。

一方、中国では、2008年11月には、リーマンショック対策として4兆元(当時のレート換算で約56兆円)規模の財政出動を決めて直ちに実施しました。4兆元といってもパッと見当がつきにくいですが、前年の財政規模を46%増しにしたということですから、現在の日本の財政規模は一般・特別会計合わせると200兆円なのでこれを300兆円とし、国民一人当たり100万円余計にバラまいたというイメージです。

 

下図に両国の歳出の伸びと名目GDPの伸びをプロットしてみます。(2005-2017年)

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歳出・名目GDP伸び率

リーマンショックの影響を限定的とみた日本は経済危機の最中何の対策もせず(青丸内)、2008年マイナス2%、歳出を6%伸ばした2009年でさえマイナス6%のマイナス経済成長となった。一方2008年に歳出規模を46%伸ばした中国は、リーマンショック最中にもかかわらず名目GDPを対前年比18%も伸ばした。翌2009年には早くも財政を緊縮側に転換、2010年以降は元の通常成長モード(赤い楕円)に回帰した。

 

日本では2009年に財政出動してもマイナス成長だったことから「財政出動しても効果は限定的」という認識が広まった可能性もあります。しかし上の図をみると日本の2009年の財政出動は単にtoo little too late だったのではないでしょうか。

2008年の中国同様、国民一人当たり100万円をバラ撒く規模の財政出動をしていたら、リーマンショック当時発生した大量の失業者もその後数年間の就職氷河期も実際とは違う状況となっていたのではないでしょうか。