シェイブテイル日記2

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石弘光氏死去という機会に思う

石弘光氏が亡くなりました。 財政再建に命を捧げた人生だったでしょう。

政府税制調査会長時代、増税を主張した時には「庶民の敵」と罵られ、ワイドショーに取り上げられ、自宅にはイヌの糞をばら撒かれたとか。
まったく頭が下がります。石弘光氏を批判した人々、ワイドショーを企画した人。一生懸命イヌの糞を集めて石氏の自宅にばらまいた当時の人たちには。

時代は移り、現代では石氏は日本のために命を捧げたようなマスコミの書きぶりです。 
増税を主張すると罵られるという当たり前の時代から増税を主張するのが当たり前という現代。わずか2-30年の間、この間一体何があったというのでしょう。

政府粗債務と家計純資産の比較!?
皆さん次の図1にイチコロで殺られてしまったようです。


図1 政府粗債務と家計純資産の比較
日銀資金循環統計から筆者作成
このグラフで意味があるのは政府粗債務から政府粗資産を引いた政府純債務と家計純資産との比較のみ。

「もうすぐ家計純資産をすべて費やしても政府粗債務を賄えなくなり、ハイパーインフレが皆さんを襲うようになります。」
「国民一人あたり900万円弱の借金が−−」
政治家、マスコミ、そして石氏ら財政学者は本当にクローン人間のように突然このように訴え始めました。
なぜクローン人間のようなのか。全員が同じ間違いを犯しているからですね。なぜ政府粗債務と家計純資産という比較しても意味がないものを比較し、なぜ国民一人あたり900万円弱の債権を持っているのを逆に債務と言い張る大間違いを根拠に、全員が一斉に比較して危機を煽るようになったのか。*1

まぁ、死んだ人に石を投げても、というより、石に石を投げても虚しいだけですね。

資産は負債と同時に生まれる


図2各主体別純資産・純債務
日銀資金循環統計から筆者作成

上の図2で、日本の家計純資産は現代では1500兆円に達していることが分かります。 面白いことに、この家計純資産は、(政府粗債務ではなくて)政府純債務、企業純債務、海外純債務をすべてカバーした金額と常にほぼ等しいことも分かります。 *2

簿記3級を習った人ならば、資産と負債が両建てで増え、両建てで消滅するというのはすんなり受け入れられる話ですね。*3

要するに家計純資産1500兆円の正体は、政府純債務・企業純債務・海外純債務がそれぞれ発生すると同時に同額発生した資産ということなんですね。

従って、石氏のように、政府粗債務が家計純資産に追いつきそうだという理由で消費増税にも大賛成という立場の人々(現代日本人の大多数というのが恐れ入ります)は政府債務がつくられたと同時に発生した家計資産を用いて、その資産を生んだ政府債務を自らの資産と対消滅させようとしている上、その方法論としては成長の最大のエンジン、内需(消費と投資)に懲罰税を課すことで内需を抑制し、真綿で首を絞めるに日本経済を絞め殺す(賃金抑制の結果、結婚も抑制され生まれてくるべき赤ちゃんが生まれられない)というおぞましい方法を選択しているということです。

石氏らの「活躍」により内需を抑制された日本では内需に向けた投資は意味をなさず、企業は生み出した資金を対外投資と純債務の返済に回し、内需が抑制されることで売上は将来に渡って頭打ちのためにかつてのように定期昇給や終身雇用は夢となり、非正規雇用の従業員の賃金も抑制するようになり、その結果。

法人税収・所得税収減を介して、政府の財政のバランス上、歳入と歳出の差「ワニの口を広げ」不足する税収文は国債で補わざるをえなくなった結果政府債務は、特に橋本政権下の増税(1998年)あたりから急増するようになりました。急増する政府債務をみて更に財政学者たちは我が意を得たりとばかりに消費税増税に積極的な姿勢となりました。 もはやマンガですね。

誰が描いたのかはもはや定かではありませんが、増税をしたい自分たちの私利私欲に資するとして描かれたたった一枚の図(図1)、政府粗債務と家計純資産とを比較するという欺瞞に満ちた図により政治家もマスコミも財政学者も踊らされ、今やそれが国民の常識と化してしまっています。

石氏が亡くなったいまこそ、家計純資産と比較するのならそれを生み出した相手である、企業純債務、海外純債務、そして政府純債務と比較してこれらがあるからこそ今の私達の資産が存在するのだという事実(図2)をしっかり頭に入れ、石氏のような日本を滅ぼすような大間違いは今後決してしないと政治家・マスコミ・財政学者は心に誓うべきいい機会なのではないでしょうか。

*1:一体どこの誰のクローンなんでしょうね?

*2:完全に一致しないのは、その他に金融機関などマイナーながら経済主体が存在するためです。

*3:企業の自己資本については返済を求められない負債と捉えればよいでしょう