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日銀決定が告げた「出口なき撤退戦」の始まり

前回の記事同様、私が自分で思いついたことからなる、発信情報としてはもう余り書くべきことがありませんので、いろいろな側面では同様の思いを持っている方(プロなど)の記事を全文のせて記事に代えたいと思います。 本日は日銀政策の迷走ぶりに関する田渕直也氏の、四季報オンラインへの投稿記事です。

田渕直也氏は債権運用のプロですから、積極財政派の私とは考え方が全く異なりますが、日銀の出口戦略については同じ懸念を持たれているようです。
=以下四季報オンラインからの引用記事=
日銀決定が告げた「出口なき撤退戦」の始まり
金融政策の修正はいつできるのか

田渕 直也
2018/08/03 18:00


 7月30〜31日の金融政策決定会合で、日銀は金融政策の方針を示す“フォワドガイダンス”を新たに導入して「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」方針を明示する一方で、長期金利の変動をある程度(±0.2%程度とみられる)は許容するというわずかな修正を加えた。

 日銀が掲げる年率2%の物価上昇目標に遠く及ばない現状で大幅な金融政策の変更はまず考えられない状況下ではあるものの、今回の金融政策決定会合は事前にマーケットの注目を大いに集めた。結局、予想の範囲内の微修正にとどまったわけだが、なぜ大幅な政策変更が予想されていないにもかかわらず、今回の金融政策決定会合がそれほど注目を集めたのだろうか。

 今の日本の金融政策の起点は、2013年の「質的・量的金融緩和政策」(いわゆる異次元金融緩和、もしくは黒田バズーカ砲)の導入にある。前年比2%程度の望ましい物価上昇を実現するために、これまで試みられなかった手段も含めて金融政策をフル活用しようとするものだった。しかし、質的・量的緩和の拡大策やマイナス金利の導入など、その後なんどもテコ入れを図ってきたにもかかわらず、現在に至るまで物価目標実現の道筋は見えていない。

リフレ派による壮大な実験の行方
 「なりふり構わぬ金融政策で物価上昇を引き起こせる」といういわゆる“リフレ派”と、「金融政策だけでは不可能だ」とする“伝統派”の政策論争が何年にもわたって繰り広げられた末に、その論争にリフレ派が勝利して実現したのが今の金融政策だ。だが、リフレ派の壮大な歴史実験は、結局失敗に終わったことが明らかとなりつつある。

 また、国債を年80兆円程度、ETF(上場投資信託)を年6兆円程度買い続ける政策をいつまでも続けることは物理的に不可能だという問題もある。物価目標が実現できず、金融機関の収益を圧迫するなどの副作用も表面化する中で、積極的な金融緩和政策からの脱却が選択肢に上がったとしても不思議ではないだろう。

 だが、こうした一連の金融政策は、本当に失敗だったのだろうか。物価目標の実現という点ではその通りだが、為替レートを円安方向に大きく動かし、株価を押し上げた効果は非常に大きかったとみられる。そしてそれこそが、日銀の金融政策のわずかな修正に対してもマーケットが神経過敏になる理由なのである。


グラフに示したのは、主要通貨に対する円レートの割高さ、割安さを示す実質実効為替レートの推移である。現在の円レートはかなり円安に振れ過ぎていると考えることができるが、その主因が積極的な金融政策による円安効果にあると考えられるのだ。

 もし日銀が金融政策を“正常化”すれば、25%程度の円高シフトが起きてもおかしくない。株式市場においても同様だ。日銀はすでに20数兆円のETF保有しており、株価の押し上げ効果はそれなりに大きかったと推測される。その効果がはげ落ちれば、株価への影響は相当なものになるだろう。

いつまでも続けられないが、どうするのか
 結局、いつかは止めなければならない現在の金融政策だが、それを止めるときには、大幅な円高と株安を覚悟しなくてはならないのである。もちろん、金融政策の修正は、大混乱を招かないように、長期にわたり、緩やかに行うことになろう。今回の金融政策決定会合は、いわばその撤退戦の第一歩となるべきものだったのだが、結局テクニカルな微修正しか打ち出すことはできなかった。もちろん、それによって市場の混乱を未然に防いだわけだが、問題は、今できないことを一体いつできるのかということだろう。

 現在の日本経済は、恐らくこれ以上は望み得ない良好な状態にある。企業利益は過去最高を更新し、失業率はバブル期以来の水準にまで下がりつつある。実感には乏しいかもしれないが、だれもが実感できるような景気拡大は基本的にもう訪れることはないと考えるべきである。

 つまり、現在のように経済がベストに近い状態にあっても政策を修正できないのなら、そうでないときに修正することはもっと難しい。現在中国経済は減速にさらされ、好調さが続く米国も来年以降の減速を予想する声が上がっている。日本経済にも減速の波が押し寄せたとき、今の日銀には着実な効果が期待できる追加の政策がほとんど残されていない。

 一見、単なる微修正にとどまった今回の日銀の決定は、長く続く、出口の見えない撤退戦の始まりを告げるものと言えるだろう。

田渕 直也(たぶち・なおや)/1985年、一橋大学経済学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)で主にデリバティブのトレーディング、ポートフォリオマネジメントに従事。UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ投信)債券運用部チーフファンドマネージャーとして、社債やストラクチャード・プロダクトへの投資運用体制を構築。『ファイナンス理論全史』、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』など著書多数。現在、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表。

=以上引用終わり=
著作権法では引用は物理的に1/2までは不問として運用されているようなのですが、それは十分理解した上で当を得た日銀政策批判だと思えましたので今回のみは敢えて全文を引用しました。 四季報編集部様申し訳ありません。以後はルールを守る所存です。 シェイブテイル