シェイブテイル日記2

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貨幣と財政からみた経済学派分類

安倍首相は昨晩(5月28日)、現在はリーマン・ショック級の経済危機という認識から、10%への消費税増税を2019年10月まで2年半先送りする方針を麻生副総理らに伝えたとのことです。 会合後の報道ではその方針に異論も出たとのことで最終的な落とし所はまだわかりません。

ただ、コンセンサスが得られてきたことは、どうやら金融政策中心のアベノミクスでは限界があり、デフレ脱却・景気好転のためには財政出動も必要だろうということです。

このブログを読んでいただいている方々からみれば、なるべくしてなった結果ということかも知れません。

それにしても、デフレ脱却・景気好転を願う目的は同じでもこれほどのアプローチに対する選好がことなるのでしょう。 今日はこの点を改めて考えてみたいと思います。

下の図は、貨幣(細かく言えば民間を巡るマネーストック)の生まれ方に対する認識(横軸)と財政政策の役割に対する認識(縦軸)の二軸で、マクロ経済に対する認識をグルーピングしたものです。*1


現代の主流派とよばれる経済学派は、全て貨幣外生説側、つまり図の左側にグルーピングされます。 左側のグループには新古典派系の経済学、ヒックス以後の新古典派総合、あるいはアメリカンケインジアンとよばれる新古典派の土台にケインズのトッピングを載せたような経済学もこちらに入るでしょう。

中央銀行がマネタリーベースを増やせば、民間のインフレ期待が高まり、民間を巡るおカネ、マネーストックも増えるという考え方は、中央銀行がコントロールするおカネマネタリーベースにより民間のおカネマネーストックが操作可能と考えていることになりますから、これまでの金融政策中心のアベノミクスを理論的に支えた岩田規久男日銀副総裁らのいわゆるリフレ派もこのグループになります。

ただこれらの主流派に属する経済観でも財政政策の重要性についてはかなりの幅があるようです。
財政破綻不可避であり、増税をすべきで財政出動はあり得ないという左下のグループ(財政破綻派としましょう)も現在の日本の学者では相当数いるでしょう。

一方、20年ほど前のアメリカンケインジアンは金融政策が主体であるべき(それに倣ったのが現在のリフレ派本体)ですが、クルーグマンなど現代のアメリカンケインジアンは、財金併用に大きく居場所を変えています。*2

さて、今後の安倍政権の経済政策と関わりが深いのは図の右側です。
こちらは主流派ではないので、画一的なグループ名は思いつかないのですが、仮に「貨幣非中立系」としましょう。

民間を巡る貨幣(≒マネーストック)は、民間銀行で負債と同時に生成し、中央銀行が生み出すマネタリーベースではコントロールはできないという貨幣観が共通しています。

ここには、例えば、旧日銀派例えば白川前総裁以前の日銀)、あるいはポストケインジアン系、現代金融理論(MMT: Modern Monetary Theorists)、そして日銀の実務を知った上で昭和初期にデフレ脱却を果たした高橋是清など、幅広い考え方がありますが、全て「貨幣非中立系」グループに一緒くたに属しています。

とはいえ、財政政策に対する選好性は大差があり、旧日銀派は財政政策にはネガティブもしくは無関心であり、今も欧州にいる現代のポストケインジアンは貨幣の内生性には関心が強そうですが、財政政策について統一的な見解は私が知る限りはありません。

さて、ケインズ経済学に名を残しているケインズですが、著書は難解で比較的早世したこともあり、位置づけが明確ではありません。
ただ、ケインズ経済学をモデル化したとされるヒックスは、新古典派の考え方をベースにモデル化したため、ケインズ自身の考えとはかなり距離がある「ヒックス経済学」とでもよぶべきものになっており、貨幣に対する考え方はいわゆる主流派のそれと考えて良さそうです。

ケインズ自身は貨幣の内生性にも気がついていたようですが、それをモデル化するには至らずこの世を去りました。ということでケインズは財政政策重視の、左右にまたがる広い帯で示しました。

前フリ?が非常に長かったのですが、シェイブテイルとしましては、デフレ脱却を目指し財政政策を打ち出そうという安倍政権が最も参考にすべきなのは右上に赤い◯で示した高橋是清の経済政策ではないだろうかと考えています。

以前も示しましたように、高橋是清は財金併用、特に単年で財政規模を急増させて、わずか1年以内にデフレ脱却を果たし、その翌年には早くも財政規模の縮小に舵を切っています。

アベノミクスと高橋財政を比較してみた - シェイブテイル日記 アベノミクスと高橋財政を比較してみた - シェイブテイル日記

高橋是清がいち早くデフレを脱却できたのも、是清が貨幣とは流動性をもった負債だということを実務経験から知っていたからでは、とシェイブテイルは思っています。 そういう私は、自称高橋是清派ということですね。

*1:もちろん経済学派の分類がこの二軸に限るなどということは全くなく、便宜的な分類です。

*2:経済学が専門ではない筆者は、主流派経済学には殆ど関心がないので記載が間違っている部分があるかもしれません。 その点はご指摘いただければありがたいです。