シェイブテイル日記2

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混ぜるな危険!

ビットコインの取扱量世界一で有名になったマウントゴックスが破たんした理由が最近報じられています。

- 2月末に破たんした仮想通貨「ビットコイン」取引所、「Mt.Gox(マウント・ゴックス)」(東京都渋谷区)の経営実態が次第に明らかになってきた。同社は顧客拡大のため、少なくとも海外7地域にペーパーカンパニーを設立する一方、資金取り込みや決済は銀行を通じた既存システムに大きく依存。さらに顧客資産と自己資産を分別管理していなかった可能性を指摘する声もある。同社急成長の裏には、規制官庁が不在のまま「ビットコイン天国」とも皮肉られる日本の行政対応があったことも否定できない。
[東京 12日 ロイター] マウント・ゴックス、既存の決済システムに依存 資産の分別管理を疑う見方も 

金融取引所が自己資産と顧客資産を分別せずに管理していたら、危ないことは目に見えていますね。
マウントゴックスからみれば、自己資産は資産ですが、顧客資産は本来は負債ですから。

日本の銀行の銀行、日本銀行の黒田総裁が商業銀行での資産と負債の区別が曖昧だとしたら大変なことですが、講演を読むとその懸念が拭えません。 多少長いですが、量的質的緩和を開始した直後の黒田総裁の講演の一部を引用します。

【講演】量的・質的金融緩和 読売国際経済懇話会における講演 日本銀行総裁 黒田 東彦 2013年4月12日  
量・質ともに次元の違う金融緩和

■強く明確なコミットメント
まず、その内容の第1は、さきほどお話しした強く明確なコミットメントです。今回の決定で、日本銀行は、「消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」と明確に表明しました。これは委員会における決定、すなわち、組織としての日本銀行の意思ということになります。

■量・質ともに次元の違う金融緩和
次に、このコミットメントを裏打ちする手段として、量・質両面の金融緩和を行うことを決めました。

具体的には、まず、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、これまでの無担保コールレート・オーバーナイト物という「金利」から、マネタリーベースという「量」に変更し、これを年間約60〜70兆円のペースで増加させることにしました。マネタリーベースとは、日本銀行が経済全体に供給する通貨(お金)の総量のことであり、具体的には、市中に出回っている銀行券(お札)と貨幣(コイン)の残高に、金融機関が日本銀行に預けている当座預金の残高を加えたものです。 昨年末のマネタリーベースは138兆円ですが、これが今年の年末には約200兆円、来年末には約270兆円と、2年間で約2倍になります。これは、名目GDPの6割に迫るものであり、先進国の中でも群を抜いて大きな額です。

マネタリーベースを増加させる具体的な手段として、日本銀行は、長期国債保有残高が年間約50兆円のペースで増加するよう買入れることとしました。この結果、長期国債保有残高は、昨年末の89兆円から、来年末で190兆円と2倍以上になります。市場からの買入れ額は、これまで買入れた国債の償還に見合う分も買う必要があるため、毎月7兆円強に上る見込みです。

質の面では、長期国債の買入れ額を増やすに当たり、買入れ対象を超長期の40年債を含めて全てのゾーンの国債に拡大したうえで、買入れの平均残存期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しました。これまでのような短めの金利だけでなく、イールドカーブ全体の金利低下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくためです。さらに、資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETF(指数連動型上場投資信託)とJ-REIT不動産投資信託)の保有残高が、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円のペースで増加するよう買入れを行うことも決定しました。

■わかりやすい金融政策
「量的・質的金融緩和」の実施に当たっては、先ほど申し上げたように、市場や企業、家計に対する「わかりやすさ」という点も意識しました。

これまで、日本銀行による長期国債の買入れは、2010年10月に導入された「資産買入等の基金による買入れ」と、それ以前からあった「金融調節上の必要から行う国債買入れ」(いわゆる輪番オペ)という2つの方法を通じて行われていました。これは、これまで日本銀行が、経済情勢の変化に対応していろいろと挑戦してきた結果という面があります。実際、両者は、その目的に応じて、買入れ対象となる国債の種類も、買入れの方式も異なっていました。しかし、こうした仕組みはやや複雑でわかりにくく、金融緩和に対する日本銀行の本気度が市場や国民になかなか伝わらないという問題がありました。このため、今回、「資産買入等の基金」を廃止したうえで、長期国債の買入れ方式を一本化しました。また、先行きの買入れ目標を年間約50兆円という国債保有残高の増加分で示すこととしました。こうした工夫によって、私どもの金融緩和の意図が、よりストレートに市場に伝わるようになったと考えています。

先ほど申し上げたように、今回の決定では、量的な緩和を行う場合の指標として「マネタリーベース」を選択しました。これも、日本銀行が経済全体に供給する通貨(お金)の総量であるマネタリーベースが、私どもの積極的な金融緩和姿勢を対外的にわかりやすく伝えるうえで、最も適切であると判断したからです。

黒田総裁は講演で”市場や企業、家計に対する「わかりやすさ」という点も意識しました。”と述べています。

ただ、第二段目で、
”マネタリーベースとは、日本銀行が経済全体に供給する通貨(お金)の総量のことであり、具体的には、市中に出回っている銀行券(お札)と貨幣(コイン)の残高に、金融機関が日本銀行に預けている当座預金の残高を加えたものです。”
とも述べています。

この文章の後半に定義が書かれていますが、マネタリーベースとは市中に出回っている銀行券・貨幣の残高と、金融機関が日本銀行に預けている当座預金の残高の和です。

つまり、マネタリーベースとはほぼ日本銀行が商業銀行に供給するお金の総量であって、その先で商業銀行が経済全体に供給するお金(≒マネーストック)とは全く別です。 

商業銀行から見ればマネタリーベースは自分のお金で資産側、マネーストックは顧客のお金で負債側ですね。 

黒田総裁は、失礼ながらマネタリーベースとマネーストックを混ぜて議論している気配があります。 図示しますと…。

商業銀行ではマネタリーベースは資産、マネーストックは負債

量的質的緩和前後の商業銀行と民間非金融部門のバランスシート模式図
左から緩和前、緩和後、右は日銀の想定する緩和後2年目(?)の状態。
商業銀行と民間非金融部門のバランスシートは最小限に簡略化して示した。
マネタリーベースは赤枠で囲い、マネーストックは黄枠で囲った。
商業銀行からみればマネタリーベースは資産で、マネーストックは負債。
民間非金融部門からみれば、マネーストックが資産。
煩雑さを避けるため中央銀行のバランスシートは示していないが、
中央銀行ではマネタリーベースは負債。
量的質的緩和では、主に商業銀行保有国債を日銀当座預金に変換した。(中央図)

量的質的緩和では、主に商業銀行保有国債を日銀当座預金に変換しました。(図左Aから中央Bへ)
それによって、実態経済を担う民間非金融部門のバランスシートには何ら変化はありません。
ところが、その後2年経つ間に(図中央Bから右Cへ)、何らかの未知の力が作用し、民間非金融部門はローン(負債)を抱えて代わりにマネーストックが増えるという想定がなされています。 

一体何の力が働いて、デフレ下に債務返済に勤しむ民間がローンを抱え始めるというのでしょう。
想定に相当無理があると言わざるを得ません。

ただ、万一…。
黒田総裁が経済学者のマネタリストのように、お金は単にお金として、マネタリーベースとマネーストックとを混同しているとすれば、黒田総裁の説明の間違いとともに量的質的緩和の意味するところが理解できます。 

日本の金融の元締め機関の長がこんな単純な誤解をしているとは思いたくありませんが、先に示した黒田総裁の講演は今も日銀のウェブサイトに掲げられたままです。

ここで述べましたが、日銀が本当にマネーストックを動かしたいと思うのであれば、直接関係のないマネタリーベースの量を動かすのではなく、マネーストックに直接つながる、民間非金融部門資産、例えばETF,J-REITの買入れをさらに規模拡大するか、政府とのアコードで、政府が新発国債を市中発行して、財政政策を行い、日銀は同程度の量の国債を市中買入れするか、あるいは消費税増税を止めて消費税減税ほうが「分かりやすい」のではないでしょうか。 

なぜなら、民間のお金マネーストックとつながりを持つのは日銀の向こうの商業銀行と政府であり、その商業銀行もその先の民間もデフレでお金の貸借を拡大するインセンティブは何もないのですから。