シェイブテイル日記2

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経済学者にとって不都合な日本経済の真実

殆ど全ての学問なら、余程の激変が直後にない限り、専門領域での10数年後の姿が皆目わからないということはないでしょう。

天文学なら皆既日食は秒単位でも正確に予測できますし、心理学などの社会科学でも10年後の人々の心理が予想もつかないなどということはありません。 
ところが、経済学ではそうでもないようです。

もう一昔前になりますが、2003年に8人の経済学者らが、近い将来日本経済は破綻するとして提言を行いました。 提言を行ったのは東大の伊藤隆敏氏、吉川洋氏らそうそうたるメンバーでした。*1 
(元の提言は、こちらですが、既にリンク切れとなっていまして、引用はここからです。)

景気の低迷と特別減税のもたらした税収不足、さらに景気刺激のための度重なる 補正予算の発動により、政府部門の債務・GDP比率はすでに140%に達している。

毎年7%の赤字を出し続ければ、あと8年以内に債務・GDP比率は200%に達する。 この水準は、国家財政の事実上の破綻を意味すると言っていい。

たとえデフレが収束し、経済成長が回復しても、その結果金利が上昇すると、ただちに政府の利払い負担が 国税収入を上回る可能性が高いからである。もしデフレが収束しなければ、金融機関が 次々に破綻するだろうから、国民経済の破綻という意味では同じことが起こる。

財政はすでに危機的状況にあり、できるだけ早い機会に財政の健全化(景気への影響の 少ない増税乗数効果の低い公共事業の支出削減)が必要となる。残された時間は少ない。

さて、提言から12年経った現在、日本の財政はどうなったでしょうか。

>景気の低迷と特別減税のもたらした税収不足、さらに景気刺激のための度重なる 補正予算の発動により、政府部門の債務・GDP比率はすでに140%に達している。
当ブログでは何度も指摘していますように、日本の財政健全性指標(政府債務÷名目GDP)は、分子の政府債務の大きさが問題なのではなく、分母の名目GDPが伸びていないことが問題の本質です。*2

また、先進国では政府支出の伸びが大きい国ほど名目GDPの伸びが大きく、この関係に例外はありません。*3

政府債務・名目GDPの伸び率の相関
IMFで先進国とされる37カ国全てでの、政府債務・名目GDP伸び率。
2004-2013年の間の平均値。日本は赤丸。
なお緊縮財政を強制されているギリシャも名目GDP伸びはマイナス。

従って、世界的にみて伸びが乏しい日本の財政支出が財政健全性指標悪化の原因であるかのような断定は、根拠に乏しいと言わざるを得ません。

>毎年7%の赤字を出し続ければ、あと8年以内に債務・GDP比率は200%に達する。 この水準は、国家財政の事実上の破綻を意味すると言っていい。
2003年に債務・GDP比率は140%だったものが、現在では250%近くになりました。
では現在の日本の財政は、事実上の破綻といっていいのでしょうか?

現在の長期金利は0.4%程度です。 提言が出された2003年当時は1%前後。 
また、日本国債CDSから計算された、5年以内に破綻する確率は3%で、スイスの2.7%と同等、アジアでは最も低い確率となっています。 財政健全性指標が200%になれば、国家財政は事実上の破綻という予言は全く外れたと言わざるを得ません。

>たとえデフレが収束し、経済成長が回復しても、その結果金利が上昇すると、ただちに政府の利払い負担が 国税収入を上回る可能性が高いからである。もしデフレが収束しなければ、金融機関が 次々に破綻するだろうから、国民経済の破綻という意味では同じことが起こる。
2003年当時に比べれば、アベノミクスにより現在は景気が回復しています。 
そして、黒田日銀が量的質的緩和を実施しているため、金利は抑えこまれて、上昇する気配は全くありません。 利払い費は10兆円程度で、国税収入54兆円。 景気回復すれば、利払い費が国税収入を上回るという「予言」も見事に外れています。
ちなみに、金融機関は次々に破綻するどころか、最高益を享受している銀行も多いのが現状です。

>財政はすでに危機的状況にあり、できるだけ早い機会に財政の健全化(景気への影響の 少ない増税乗数効果の低い公共事業の支出削減)が必要となる。残された時間は少ない。
先に見たように、国債CDSからは日本の国債は現在世界でも安全な債券のひとつと捉えられています。
その日本国債に裏付けられた日本円は、ギリシャ債務危機などが顕在化してリスクオフの流れになれば、ユーロのみならず、ドルやスイスフランなど主要通貨全てに対して買われます。 つまり日本円とその裏付けの日本国債は危機的状況どころか、世界でも有数の安全資産とされているわけです。

提言にあるように、増税や公共事業の削減などといった政府支出削減策を実施すれば、ただでさえ伸びが小さい日本の名目GDPが一層伸びなくなり、財政健全性指標の更なる悪化を招くでしょう。

日本の経済学をリードする経済学者たちによりわずか10数年前に出された予想と提言。
当たっていたのは政府健全性指標が200%に達するという一点のみで、あとはことごとく外れています。

日本では民間の資産の多くが銀行預金の形になっており、その銀行預金の主な運用先のひとつが国債で、国債には金利がある以上、増えて当たり前なんですよね。

8人の経済学者らは、増えて当たり前の国債が、さらに増えれば国家破綻すると予言し、その予言に基き日本経済にとって有害な増税の提言をおこないました。 
財務省はその提言をありがたく省益に活用し、菅直人以降の首相たちは経済学者の主張を無視できずに消費税増税が実現してしまいました。 そして2017年には更なる消費増税も予定されています。

この8人だけが日本の財政破綻の予測を行ない、増税の提言をしたわけではありませんが、提言から10数年で予言は殆ど外れたわけですから、学者としての良心をお持ちなら、そろそろ自分たちの予測と提言を総括されてもいい頃ではないでしょうか。