シェイブテイル日記2

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NHKスペシャル「#老後危機」で語られなかった問題

昨夜のNHKスペシャルでは「私たちのこれから #老後危機 あなたの備えは大丈夫?」と題して、年々厳しくなる年金問題が取り上げられていました。

これまでは余裕があるとされてきた年金受給世代でも、ここ数年は年金削減、税負担増、低所得の子ども世代への扶養などの要因から、美容院・ゴルフ・海外旅行といった贅沢をする余裕がなくなり、年金支給日には年金生活者たちが特売場に群がる様子が映されていました。

また、以前は支払った額の数倍が年金で戻ってくることが常識だったのに、現在では65歳で支払いに対して給付がわずかにプラス、60歳以下の現役世代では若年層になればなるほど、支払いが給付を上回るという予想も示されています。

年金問題悪化の原因
番組では、こうなってしまった原因のひとつとして、平均寿命が1965年の男68歳、女73歳から、2014年には男80歳、女87歳と大幅に長寿化したことが挙げられていました。

ただ、かつての定年年齢は現在より低く、データが閲覧できる最も古い1977年では56歳程度でしたが、現在は高年齢者雇用安定法により65歳までの雇用義務化が進められていて、平均寿命につれて退職年齢が上昇していますから、人口高齢化だけで年金問題の悪化を説明するのはやや無理があるでしょう。

また、財政健全性指標が財政破綻に直面したギリシャの177に対し、日本は246と、ギリシャを超え世界一悪化していることも指摘されていました。

この点はこのブログで何度か指摘してきましたが、財政健全性指標(=政府債務残高÷名目GDP)で、指標の分子である日本国債に象徴される日本の財政には問題はなく、指標の悪化は、分母の名目GDPが近年のギリシャに次いで世界で二番目に伸びないことに原因があります。

日本国債のような内債については、一部での主張のように、破綻の危険がないとはいえません。過去にも多数の破綻事例があることがロゴフ・ラインハートらの研究からもわかっています。

ただ、これら事例を分類すると1)内戦などの政情不安、2)通貨発行権がないギリシャのユーロ債破綻のような、実質外貨建て国債の破綻、3)あまりに高いインフレ率による意図的な内債破綻 の三種しかなく、少し考えれば、日本国債はこれらどれにも該当せず、見通せる将来にギリシャ型の破綻など日本国債の破綻は考えられないことが分かります。 

NHKスペシャル「日本国債」の本当の問題 - シェイブテイル日記 NHKスペシャル「日本国債」の本当の問題 - シェイブテイル日記

また日本国債は日銀券の主な裏付け資産として生まれているため、これを無理に返そうとすると、民間の資産を毀損することになります。
そもそも日本国債を裏付けとして創られた日銀券については、現在のギリシャ債務・中国バブル問題といったリスクオフ局面で、安全通貨とされるスイスフランを含む全ての通貨に対して買われたように、市場関係者は日本国債は極めて安全な資産と捉えていることも分かります。 

日・中・ギリシャの財政健全性指標 - シェイブテイル日記 日・中・ギリシャの財政健全性指標 - シェイブテイル日記

■解決策としての緊縮政策
現在の安倍政権では、年金などの社会保障費問題を解決するためと称して日本の消費税率アップが挙げられています。
しかし昨年の8%への増税では、実際の消費税増税分の使途として、社会保障費関連は子育て対策に増税分の1割程度が使われているだけです。

 鹿児島大学伊藤周平教授によれば、消費税が創設された1989年以来、消費税増税で増えた税収282兆円は、財界から取引材料にされた法人税減税税源と景気後退による法人税減収分255兆円でほぼ相殺されてしまっています。

「社会保障、別の財源模索を」伊藤周平教授 - シェイブテイル日記 「社会保障、別の財源模索を」伊藤周平教授 - シェイブテイル日記

逆進性があり低所得者に実質負担が重い消費税増税は名目GDPへの直接賦課税では、日本の問題名目GDPの伸びの低さを一層悪化させるのですから、他の手段の方が効果的でしょう。

さて現在、一般財政で歳入のうち税収等は54.5兆円、国債などが36.9兆円となっています(H27年度当初予算)。
これに対し、公務員等625.8万人への人件費は給与分だけで34.7兆円、一人あたり555万円となっています(労働運動総合研究所 2011.05資料による)。

この数字は、公務員数、人件費とも政府公表数字(財務省H26年度)の289万人 26.3兆円よりそれぞれ多いですが、人数の違いは独立行政法人化により公務員の外にカウントされるようになったみなし公務員らの人数の差ではないでしょうか。
また一人あたり人件費(26.3兆円÷289万人=910万円)は労働運動総合研究所の給与分よりはるかに多額ですが、この差は公務員への手厚い福利厚生費などによるのでしょうか。

いずれにせよ、財政破綻を国が叫び、家計への負担を増税・給付減の両面から進めている今、一般税収の過半を占める公務員人件費に手を付けないのはいかがなものでしょうか。

また、公務員以外にも医療関係者や医薬品メーカー等では労働者の平均からみればはるかに多額の年収を得ており、現在1点10円の健康保険料などを1点9円にするだけで、医療関係費は1割減になるので、緊縮財政を目指す立場なら、早急に検討すべきでしょう。

ただし、筆者はこれら緊縮策が最善手とは捉えていません。

消費税を上げた場合、どれだけ消費税を上げようが、法人税減収分に消えるだけで、社会保障費財源になるどころか、増税による景気後退、給与所得減により所得税減を生み出し、消費税で増収した分以上に総税収は減っています。

税収を増やすには景気向上しかないと言えるでしょう。

ギリシャに学べ!
EUトロイカの圧力により、消費税増税、年金カットなど、日本よりはるかに厳しい緊縮財政を開始したギリシャでは、激しいデフレに陥り、若者の失業率は5割を超え、ホームレスが街にあふれ、名目GDPはピークの2008年比で14年は26%も縮みました。

それで財政健全性が向上したかといえば、2009年以降、緊縮財政をやればやるほど悪化しました。(図表1)

厳しい緊縮財政をおこなったギリシャでは財政健全性は悪化した

図表1 ギリシャでの政府支出伸び率と財政健全性悪化率
出所 IMF 
2007-14年での政府支出と財政健全性指標の対前年比推移

■解決策としての財政拡張策
日本の「財政危機」の解決に、拡張財政とは奇異に聞こえるかもしれません。

しかし日本はリスクオフで円貨がどの通貨に対してさえ買われるように、日本は財政危機と呼ぶのには程遠い状況にあります。
何が問題視されているかといえば、政府債務残高対名目GDP比、いわゆる財政健全化指標が悪化していることで、その原因は名目GDPが伸びないことにあることは上述しました。

その課題となる名目GDPの伸びを伸ばすには何をすべきかが図表2に示されています。

現実の先進国では政府支出の伸びが大きい国こそ、名目GDPの伸びが大きい国であって、この関係はインフレ国・デフレ国も関係なく、ここに丸で示した先進36カ国内には例外国はひとつもありません。

政府支出の伸びが大きい国が経済成長が大きい国

図表2 政府支出と名目GDPの関係
出所:IMF WEO Apr. 2015
IMFが先進国に分類する全36カ国で、2005−2014年の
10年間で政府支出と名目GDPの平均伸び率

経済の成長が大きれば、税収も伸びるし、年金財政も豊かになるので、増税も不要ですし、年金の給付を絞る必要もありません。 

しかも、政府支出の伸び率と財政健全性指標を、2001-14年の日本・ギリシャ・ドイツ・中国で比較すると、政府支出の伸びが大きい国ほど、財政健全性指標の悪化していません。(図表3)

政府支出が伸びると財政が健全化する場合が少なくない

図表3 政府支出伸び率と財政健全性指標悪化率
出所:IMF WEO Apr. 2015 から筆者作図。
日本・ドイツ・中国は2001-14年の平均値。
ギリシャは緊縮前(2001-09)と緊縮後(09-14)に分けて表示。

こうしたデータをみてもなお、「財政健全性指標が悪化している時に国債を発行して拡張財政をするのはいかがなものか」という向きに更に推奨すべき策は、財政ファイナンスにより、日銀を財源に拡張財政を行うことでしょう。

実際、過去のデフレ脱却局面の多くの場合、財政ファイナンスに相当する通貨発行権保有者による市中への通貨供給によって起こっているのですから、世界一安全と市場でみなされている円貨を減価することで、何の問題も生じないでしょう。