シェイブテイル日記2

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今更ながら「信用創造のナゾ」

社会人なら誰でも知っていそうな信用創造とよばれる銀行の機能。
これにふたつの全く異なる説明があることはご存知でしょうか。

例えば、日本のウィキペディアでは…。

銀行は預金を受け入れ、その資金を誰かに貸し出す。その過程で信用創造は発生する。以下は、そのプロセスの例である。
1.A銀行は、X社から預金1000円を預かる。
2.A銀行は、1000円のうち900円をY社に貸し出す。
3.Y社は、Z社に対して、900円の支払いをする。
4.Z社は、900円をB銀行に預ける。

この結果、預金の総額は1900円となる。もともと1000円しかなかった貨幣が1900円になったのは、上記2.の結果として、Y社が900円の債務を負い返済を約束することで900円分の信用貨幣が発生したことになるからである。この900円の信用貨幣(預金)は返済によって消滅するまでは通貨(支払手段)としても機能する。このことはマネーサプライ(現金+預金)の増加を意味する。

さらに、この後B銀行が貸出を行うことで、この仕組みが順次繰り返され、貨幣は増加していく。このように、貸出と預金を行う銀行業務により、経済に存在する貨幣は増加する。

まず、銀行に本源的預金があって、A銀行はそのうち預金準備率とよばれる部分を除き、貸出に当てるために信用創造される、という説明です。 日本語で検索すると、まずこのタイプの説明が出てきます。

もうひとつ。英語版ウィキペディアでは…。

Most money is in the form of bank deposits in the contemporary economic system. The main way in which those bank deposits are created, is through loans made by commercial banks. When a bank makes a loan, a deposit is created at the same time in the bank account held by the borrower. In that way, new money is created.
(拙訳)貨幣は現代経済システムでは銀行預金の形になっている。 銀行預金で信用創造される主経路は、商業銀行での貸出を通じたものである。 銀行が貸出をする時、預金が同時に創造されて、借り手の口座に振り込まれる。こうして貨幣は創造される。


とても不思議な話ですね。 ウィキペディアの日本語版は英語版を単に訳したものも多いのですが、信用創造については全く異なる説明がされています。

日本語のウィキペディアでの信用創造の説明に従えば、銀行が貸出すると、銀行からは実際に預金が流出していくことになりますね。 これってサラ金でも可能な、単なる又貸しなんでは?

現在の日本での法定準備率は1%程度ですから、A銀行がB企業から100億円預金を受け入れ、すぐに90億円貸し出しても何ら問題はありません。 ところが、この場合B企業が翌日必要になって50億円引き出そうとするともはや銀行には10億円しか残っておらず、この銀行は破綻してしまいそうです。

ただ実際にはそんなことはなく、信用創造の説明として英語版が妥当だということがこの簡単な思考実験からも判断できます。

要するに銀行での信用創造とは借入に対して単に預金の数字を書き込んでバランスさせただけだということです。
これは預金を持つ銀行だけの機能で、同じ金融機関でも証券会社や生命保険会社にはこんな便利な機能はありません。

上記英語版の信用創造の解説の通り、現在の貨幣は貸出(負債)と同時に生まれ、負債が返済されれば消失します。
従って政府が単に政府負債を返済しようとするならば、それは誰かの貨幣を消失させることにしかなりません。

それはともかくとして、信用創造に関して教科書やネットでは主におかしな説明がまかり通っているのは不思議ですね。
どなたかこの経緯、ご存じないでしょうか。