シェイブテイル日記2

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日本ではピケティでr>gより大事なこと

ピケティの本の話題は多少下火になってきましたが、ピケティが編者となって今も構築が続いている世界各国の所得の詳細がわかるデータベース、The World Top Incomes Database があることをご存知でしょうか。

そのデータベースから、世界主要国での上位10%、下位90%の所得の変化をみるといくつも興味深い知見を得ることができます。

まず私達の多くが属する下位90%(つまり普通の成人)の2009年時点の所得を、1995年=100とした実質水準で比較してみました。(図表1)


図表1 各国下位90%の所得水準変化
出所:The World Top Incomes Databaseに収録されている
2009年時点での実質所得金額を、1995年=100として筆者が指数化したもの。

図表1からわかることを列挙してみますと、比較可能な14カ国の下位90%の所得については、
・所得が大きく増加した国は北欧諸国が多い
・1997年にアジア通貨危機の当事者国だったマレーシアが所得伸び率で第二位。
・日本の実質所得が最も減少していて、2005年時点の71%になっている。
・日本の他、米国・韓国・スイスの実質所得水準も低下している。
などです。

同様に、上位10%の2009年所得水準を1995年=100として比較したのが図表2です。
図表2 各国上位10%の所得水準変化
出所、算出方法は図表1に同じ

こちらからわかることは所得上位10%群では
・欧州通貨危機当事者国アイルランドで最も実質所得が伸びている。
・韓国・マレーシアといったアジア通貨危機当事者国でも上位10%群所得は大きく伸びている。
・韓国・シンガポールでは所得増加率が高く、下位90%群の伸びの低さと対照的。
・所得上位10%群では日本は唯一所得が減った国になっている。
・デフレに近いスイスでも所得増加率が低い。
といったところでしょうか。

それにしても日本は所得低位90%だけでなく、上位10%でさえ実質所得が減っている唯一の国というのは衝撃的な結果ですね。

なお、日本の一人あたりGDPは1995年を100とすれば2009年は105.3。しっかりプラスです。*1
分配面でみれば、 GDP ≡ 家計の収入 + 企業の収入 + 政府の収入で、
家計の収入が実質減っているのですから、日本経済は、企業が従業員給与を抑制し過ぎ(新自由主義の蔓延)、政府が税金を取り過ぎ(財政再建至上主義の蔓延)、その結果お金が回らないデフレとなって、国の経済全体を縮めているというまったく馬鹿げた状態と言えるでしょう。

日本以外については、米国・韓国では上位10%の所得は伸びているのに、低位90%は所得が伸びす、企業にとって賃金はコストと捉える新自由主義型資本主義の結果が出ているのではないでしょうか。

財政破綻国でもその後経済がV字型に回復する例は多く、特にマレーシアではアジア通貨危機に際してマハティール首相がIMF指導を拒否して、ケインズ型財政政策と資本規制を伴う金融緩和を実施した結果、所得格差が小さく国民全体の所得が向上している点で、緊縮財政を好むアメリカ型新自由主義国と好対照をなしています。

また世界で最初に債務ブレーキ制度を導入し、憲法で財政健全化を謳ったスイスでは、政府財政はまったく健全である代わりに、日本ほどではないですが所得上位・下位とも所得の伸びは大きくありません。

昨今、日本の憲法改正で財政健全性条項を入れようとする動きがあるようです。

一家庭の場合、倹約することで家計は健全化します。
ところが、国家の場合、まず民間が潤うことで名目GDPが伸び、各種の税収も伸びて財政健全性が保たれるというのが本来の姿です。それを逆転させてまず政府の財政健全化を狙って、消費税増税を繰り返せば、デフレを脱していない日本の所得伸び率は世界最低を続けるだけでしょう。

また法人税減税といった政策でも、視点は人件費をコストとして税前利益を増やすという投資家視点に立つもので、法人税を減税したから、それを原資に人件費アップにつなげるということはあり得ません。

日本で個人の実質所得が減りだしたのはバブル崩壊後の1992年以後ですが、その後の97年消費税増税小泉内閣での雇用非正規化促進策、昨年のさらなる消費税増税、それと引き換え(?)の法人税減税で、日本の経済力はどんどん落ちていくばかりです。

まず多くの人の賃金を上げる。そのためには政府は緊縮ではなく拡張財政に踏み切ることです。
それにより、日本の自爆的な経済力低下に歯止めがかかり、国内に活力が戻り、結婚できる経済力を持った若者達が増えて少子化にも好影響があるでしょう。

日本では財政破綻論者という国賊どもが多すぎます。
為政者は現実に経済破綻した国々よりも、杞憂の経済破綻を恐れる日本の経済政策がはるかに劣っていることをもっと自覚すべきでしょう。

*1:IMF統計による。