シェイブテイル日記2

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歴史は繰り返さないが韻を踏む

ギリシャで選挙に勝利したチプラス政権は、欧州連合との対決姿勢を鮮明にしています。 ギリシャとEU・ECBの経済的対立。 これにはある種の既視感が漂っています。

欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャ財政再建方針に反対するチプラス政権が勝利したことに対し、ギリシャ財政再建を強化する策を打ち出しました。

ヨーロッパ中央銀行は4日、ギリシャ財政再建などの取り組みが後退するおそれがあることを受け、格付けが低いギリシャ国債を担保に金融機関に資金を供給してきた特例措置を解除すると発表し、ギリシャの銀行の資金繰りに対する懸念が一段と広がりそうです。

ヨーロッパ中央銀行はこれまで、ギリシャが財政緊縮策を続けることを条件に、特例として格付けが低いギリシャ国債も担保として認め、金融機関に対して低い金利で資金を供給してきました。
しかし、ギリシャで財政緊縮策の見直しを掲げる新政権が誕生し、財政再建構造改革が後退するおそれがあることを受け、ヨーロッパ中央銀行は4日、この特例措置を解除すると発表しました。
今回の決定によって、ギリシャの銀行は事実上、ヨーロッパ中央銀行から資金供給を受けられなくなります。
ギリシャの銀行では、このところ金融支援を巡る不透明感から預金の流出が進み、自力で資金を調達できない状況に陥っていて、資金繰りの大半をヨーロッパ中央銀行からの資金供給に頼っていました。今後はギリシャ中央銀行から資金を調達することになりますが、今回の決定を受けて、ギリシャの銀行の資金繰りに対する懸念は一段と広がることが予想され、金融支援を巡るギリシャとEU=ヨーロッパ連合の協議にも影響を与えることになりそうです。
 欧州中銀 ギリシャ国債を担保と認めず  NHK NEWSウェブ 2月5日

一方、ギリシャは対EU・ECBの方針に対する対決姿勢を強めています。

- ギリシャのチプラス首相は5日、欧州連合(EU)の緊縮財政政策を永遠に終わらせると表明し、支援プログラムの合意順守を迫る欧州諸国との対決姿勢をあらためて鮮明にした。

首相は今週、緊縮路線に代わる新たな合意を求め、欧州首脳らと相次いで会談したが、大きな成果もなく帰国した。

しかしチプラス首相は議会グループへの演説で「ギリシャはもう命令には従わない。宿題をやりなさいとの説教を聞き入れる惨めなパートナーでもない。わが国にはわが国の意見がある」と主張した。

また「ギリシャを脅すことはできない。なぜなら欧州の民主主義が脅迫されることがあってはならないからだ」と述べ、欧州中央銀行(ECB)などがギリシャに対し厳しい姿勢を維持していることを暗に批判した。
  ギリシャ首相「もう命令に従わない」、欧州と対決姿勢 ロイター2月5日


ただ、現在EU側の中核としてギリシャに負債の返済を強硬に求めるドイツは、歴史を振り返ると、第一次世界大戦後には敗戦賠償金を求められる立場でした。

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1914年−19年まで続いた第一次世界大戦終結した後、敗北したドイツに対してはヴェルサイユ講和条約が締結され、莫大な賠償金が課せられることになりました。
 フランスは自国の損害を1320億金マルクに達すると算出し、戦勝国全体では2690億金マルクという総額が暫定的に定められ、またもしドイツが賠償支払いを履行しない場合にはルール地方またはドイツ全土の占領が定められました。

一方、ドイツ側が総額を500億金マルクとする対案を提出しましたが、連合国側は却下。 最終的な賠償案の総額は、1913年のドイツ国民総所得の2.5倍という1320億金マルクで、ドイツはこの金額向こう30年間にわたって分割払い、しかも外貨で支払うことになりました。

ケインズは1919年12月に「平和の経済的帰結」を著して、予算問題とトランスファー問題によってドイツの賠償支払いが著しく困難なものであると警告しました。

予算問題とはドイツ政府が賠償を支払うためには、政府財政で毎年黒字を計上せねばなりません。 黒字達成のためには増税や支出削減が必要で、賠償額が大きくなればなるほど国民生活を圧迫し、生産力も低下するというものです。

またトランスファー問題とは、ドイツが賠償支払いを外貨で行わねばならないことから生じる問題で、ドイツが自国の財政黒字を外貨に両替するためには経常収支が黒字であることが必要ですが、現実的にはその達成が困難だと指摘したものです。
ケインズはこれらの理論により、イギリスとアメリカに対連合国債権をすべて放棄させた上で、ドイツに賠償額を30年賦で12億6000万金マルクずつ支払わせるのが妥当と算定しました。

ドイツ政府の賠償資金調達の結果、マルク為替は下落し始めました。このため賠償支払いが困難となり、ドイツは支払い延期を求めましたが、フランスはほとんど応じず、マルクは一ポンド=5575マルクまで下落しました。
しかしフランスのアレクサンドル・ミルラン大統領やレイモン・ポアンカレ元首相は対独融和に強硬に反対し、その後もマルク暴落は続き、ドイツ政府は7月12日に6ヶ月の賠償支払い停止を求め、さらに1923年と1924年の賠償支払い不能を宣言しました。

1923年1月、フランスはルール地方占領を宣言し、フランス軍・ベルギー軍は11日からルール地方を占領を開始し、ルールの労働者はストライキに入りました。ストライキに入った労働者にはドイツ政府が賃金を支払いましたが、財源がなかったために紙幣増発で対応しました。

占領によってドイツ産業界の心臓であるルールを失ったことと、ライヒスバンクによる紙幣増発で状況をさらに悪化させました。
またフランスとベルギーは、ルールにおける抵抗がやむまで交渉に応じないと強硬な態度を続けたため、インフレはますます悪化し最終的に物価はおよそ一兆倍の規模に達し、ドイツ国内の政情は不安定化し、極左・極右勢力が伸張しました。
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 かつて第一次世界大戦はフランスなど戦勝国に支払い不能の巨額賠償金を課されたことで、ハイパーインフレを経験し、いまだに財政拡張を極度に嫌うドイツが、いまやギリシャに対してかつてのフランスが自国に迫ったように巨額の借金返済を迫る構図。

マーク・トウェインは「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と言ったとか。

かつてのドイツとは異なり、独自通貨を持たないギリシャは紙幣増発での債務返済は無理ですので、近い将来ギリシャハイパーインフレになることはないでしょう。 EU諸国に手持ちのユーロを引き上げられれば、ギリシャは極端なデフレへの傾向を強めるか、あるいはロシアのような第三者の救済を待つしか手がなくなるのかもしれません。