シェイブテイル日記2

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消費税増税は2年目こそ恐い

消費税が上がって8ヶ月余り。 経済アナリストの多くは2015年は消費増税後の駆け込み需要の反動より、ゆるやかな回復に向かうとみているようです。
ただ、5%に消費税が上った1997年前後の各指標から推測すると、そうした見通しは楽観的過ぎるように思われます。

 東レ経営研究所がまとめたレポートによると、GDPの実質成長率は1.7%のプラスに転じると予測しており、消費増税による個人消費の冷え込みもこなした2015年は再増税延期、大規模な経済対策、原油安、円安が各方面への追い風となり、日本経済を下支えするという見通しを示しています。*1 このレポートに限らず、最近の民間アナリストの今年の経済見通しはゆるやかな回復を予想する声が少なくありません。

2015年度は増税2年目となりますが、97年増税の翌年度はどのような年だったのでしょうか。

図表1は、ちょっと煩雑ですが、97年消費税増税前後の各指標をまとめたものです。

97年国内外の経済危機にもかかわらず各指標が動いたのは98年
図表1 97年消費税増税前後の経済指標
(上)企業と政府の資金過不足。出所:日銀資金循環統計。
棒グラフ=企業の資金過不足。 赤線グラフ=政府の資金過不足
企業部門は98年以降一貫して資金返済中。
(ストックとしては今もマイナス)。 
政府部門は増税翌年以降は増税前より税収が減ったため、
資金不足が酷くなって、未だ97年水準迄回復していないことに注意。

(下)棒グラフ=自殺者数。 黒線グラフ=物価(GDPデフレーター
自殺者は月次*2でみると増税翌春から激増している。
月次増加率では増税翌春は東日本大震災後を上回る。
物価は増税翌年以降、一貫して下がっている。

1997年は4月に消費税が上った後、7月にはアジア通貨危機が始まりました。
更に11月には三洋証券、北海道拓殖銀行山一證券と、立て続けに金融機関の破綻が続きました。

ただ、図表1で示した各指標で危機の最中の97年に特に大きく動いたものはありませんでした。
ところが消費税増税翌年の98年になると、一転して各指標が動き始めました。

まず、普通は資金不足が当たり前の企業部門ですが、バブル崩壊によりバランスシートが傷んだ企業はバランスシート圧縮に動き、資金需要は均衡するようになりました。
それが消費増税の翌年以降、更に借りていたお金を返す動きが強まり、以後現在に至るまで、企業は資金の返済を続けています。

一方、政府部門は97年に増税し、それ以外にも橋本構造改革と称し、各種の緊縮財政政策を打ち出しています。 増税して緊縮財政するならば、政府部門は資金余剰となりそうですが、97年には特に大きな動きはありませんでした(図表1上、赤線)。

ところが翌98年には4月に総合財政政策、小渕内閣政権交代した11月には緊急財政政策、更に99年11月にも経済新生対策と、2年で20兆円近い財政出動をせざるを得ないほど、経済状態が悪化しました。 その結果、政府部門は増税以前よりも更に資金不足が拡大し、国債発行額が急増し始めました。

その時以来、世界的なバブル景気に沸いた2000年代半ばを除けば、97年増税以前より、緊縮財政の意図とは逆に、大きな資金不足が続くようになりました。

図表1(下)には自殺者数を示しています(棒グラフ)。自殺者数は増税アジア通貨危機金融危機発生当年の97年には前年と同程度でしたが、翌98年春、突如として前年同月比で6-7割増となり、以後12年間も年間自殺者数3万人時代が続くことになります。 この自殺者増をアジア通貨危機金融危機のせい、という珍説を唱える向きもありますが、2つの危機が去って10年ほど経ってもなおかつ高い自殺者数をそれで説明できるとは到底思えません。

また、物価(GDPデフレーター)も98年以降、下げ足を速めました。

97年消費税増税の年も確かに「酷い年」だったのですが、翌年からはもっと酷かったのです。

消費税を増税すると確かに消費税単独の税収は増えます。
ところが消費税が名目GDPに対して懲罰的な税であるため、名目GDP(≒企業売上)抑制により法人税が減り、結局消費税創設以来の累積でみて、この法人税減収分に相殺されて消費税増税分は消えてしまっています。その他にリストラや非正規雇用化が進み、雇用者賃金は右肩下がりですから所得税収も減ってしまい、結局、消費税率を上げても総税収は減るという関係になっています。

政府当局者やマスコミらの「消費増税分は社会保障充実に充てる」という常套句は、消費税が総税収を減らしている実態からみて、まやかしとしか言いようがありません。

報道によれば昨日、経済同友会から消費税を10%どころか17%まで上げるべき、という提言がでたそうです。

経済同友会ではナイーブにも「消費増税分は社会保障充実に充て」られると信じているのかもしれません。 しかし97年増税の前後をつぶさにみてみれば、今回以降の消費税増税についても、そもそも消費税増税により社会保障費財源などは出るはずもなく、逆に10兆円単位の経済対策を要する不況が予想されます。

財界の有力団体、経済同友会から日本経済を潰すような提言が出されることには暗澹たる気持ちにさせられます。