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経済学者からお叱りを受けそうなピケティ本「書評」

現在ピケティの「21世紀の資本」が話題だそうですね。
正直な話、私はこの本は読んでいないし、読むほどの興味も持っていないんです。
なのに読んでいないこの本の書評という無謀なチャレンジをしてみたい気になりました。

第三の波平氏のブログで、ピケティの「21世紀の資本」の紹介がなされています。

ピケティの「21世紀の資本」が自由主義に与えた衝撃
自由主義は、自由競争を徹底すれば機会の平等が得られるという思想である。誰にでも均等に成功のチャンスはある。格差は結果でしかなく、敗者は再び成功に向かってチャレンジすればよい。その象徴がアメリカンドリームだ。現在の経済学は単なる科学ではなく、このような思想をもとにしている。
ピケティの「21世紀の資本」(ISBN:4622078767)はここに楔を打ち込んだ。過去の資本を分析した結果、資本主義は原理的に固定した格差を生み出す。金持ちはより金持ちに貧乏人は貧乏人のままで、それが資本主義の原理であると。それは、ピケティが資本主義の第一法則と呼ぶもので単純に表せた。資本の平均年間収益率r>経済成長率g
さらにピケティは、なぜ現在の経済学がこのような間違いを犯したか、説明する。それは戦争である。世界大戦で、金持ちの資産は解体した。そのために戦後は、一からのスタートし経済が急成長した。このために自由競争の機会が生まれ、機会の平等が広がった。経済学者たちはこれが資本主義の当たり前だと勘違いした。

なぜ格差は広がっているのにアベノミクスが指示されるのか - 第三の波平ブログ なぜ格差は広がっているのにアベノミクスが指示されるのか - 第三の波平ブログ

  • ピケティの「資本主義の第一法則とも呼ぶべき」資本の平均年間収益率r>経済成長率g から考えて、貧富の差はどんどん拡大する方向になる。
  • 近年の経済学はデータを離れて数式をいじることで過去のデータに合わせるといった努力をしているが、それに対して経済の生データ自身を見つめることで豊かな示唆が得られる。

これらは仰るとおり、というところでしょうか。
ただ、資本の平均年間収益率r>経済成長率gという事実があれば、貧富の差は自動的に拡大するのか、という点には疑問が残ります。

私自身はオールドケインジアンの学者ではありませんが、安倍首相の方針を含めた日欧の金融政策+緊縮財政という組合せには相当の違和感を感じます。

経済状況を向上させるには、政府が積極介入し、消費性向の大きな低所得者におカネを渡して名目GDPを大きくするならば、ピケティの資本の平均年間収益率r>経済成長率gであろうと関係なく、中産所得層の厚みを持たせて経済を成長することはどこの国でも可能だと思います。

ただ、現代ではそもそも財政政策を曲がりなりにも積極採用しようとしている大国は米国と中国位です。*1

これら両国はそこそこ順調な経済発展を維持していますが、金融政策+緊縮財政の日欧はいつまで経ってもデフレ気味の不景気から離陸する気配がありません。 格差を埋めるための原資は日欧の現行政策からは、いつまで経っても見えてこないでしょう。

ただ、現在の金融政策と同じ熱意で財政政策を実施するなら、日欧のデフレ気味の長期不況は解消し、また貧富格差も緩和することは可能のように私には思えます。

ピケティは現代資本主義が誤っているという認識のようですが、誤っているのは単に現代世界で流行している経済学というだけの話なのではないでしょうか。

日本でも金融政策+積極財政(+成長戦略)の三本の矢というキャッチフレーズのアベノミクスが開始されましたが、どこをどう間違えたのか、安倍首相は金融政策+緊縮政策という変質アベノミクスの継続を問うて選挙を行いました。

単に国債を発行し、数十万円の給付金を国民に配る政策をしても、一時的にでも政府債務は数%しか増えません。 

ましてやデフレ日本では税収弾性値が3以上もあり、昨年の変質前のアベノミクスでは予想以上の税収があったわけで、今からでも金融政策+消費税減税などの政策を実行すれば、ピケティの憂鬱な資本主義観など吹き飛ばせるのではないでしょうか。

ところで。
上で少し触れたケインズは多様な局面(銀本位制のインドでの金融問題、デフレや戦時経済など)で、それぞれの背景に適した経済政策を案出しました。

かならずしも「ケインジアン」と呼ばれる巷間イメージされる積極財政オンリーの経済学者ではなかったようです。


ジョン・メイナード・ケインズ
ケインズはいわゆる経済学としてはわずか1年しか学ばなかったといわれています。
ケインズは数学に高い能力を有し、またキングス・カレッジでは政治にも関心を持ち、名を成した後年、経済学者の資質については次のように述べたそうです。

「経済学の研究のためには、非常に高度な天賦の才といったものは必要ない。経済学は哲学や自然科学に比べればはるかに易しい学問といえるだろう。にもかかわらず優れた経済学者は非常に稀にしか生まれない。

このパラドックスを解く鍵は、経済学者がいくつかの全く異なる才能を合わせ持たなければならない、という所にある。
彼は一人にして数学者であり、歴史家であり、政治家であり、哲学者でもなければならない。個々の問題を一般的な観点から考えなければならないし、また抽象と具体を同時に兼ね備えた考察を行わなければならない。未来のために、過去に照らし、現在を研究しなければならない。」

*1:とはいえ、どちらの国も再配分は全く不十分で、オバマ大統領はレイムダック化してとても高度成長期の日本のような「三億総中流時代」をもたらす力はなさそうですが。