シェイブテイル日記2

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消費税の赤信号も皆で渡れば恐くない?

政府は4日、消費税率を来年10月に10%に引き上げるべきかの判断のため、有識者に意見をきく点検会合を首相官邸で開きました。 
その中で、中小企業が属する514の商工会議所の元締め日本商工会議所と700万人近い労働者が所属する労働組合の元締め連合が消費税増税に賛成したことに違和感を感じた方は少なからずいるのではないでしょうか。
そこで日本商工会議所と連合はなぜ消費税に賛成したのかを考えてみました。

昨日の点検会合で増税に反対したのは荻上チキ・シノドス編集長、河野康子・全国消費者団体連絡会事務局長、浜田宏一内閣官房参与の三人です。

一方増税に賛成したのは伊藤隆敏・政策研究大学院大教授、加藤淳子・東大大学院教授ら御用学者の方たちの他、震災復興財源を求める須田善明・宮城県女川町長、そして古賀伸明・連合会長、三村明夫・日本商工会議所会頭でした。

増税賛成者のうち、先生二人と女川町長にはそれぞれのご事情がありそうです。

ただ、労働者の代表連合と、中小企業の代表日本商工会議所が消費税増税に賛成した点に首をひねる向きは少なからずいるのではないでしょうか。*1 ということで、今日はこの謎解きにトライしてみましょう。

■みんなで無視した赤信号1:経済見通しと16年前の記憶
昨年8%への消費税増税の是非を問う点検会合の際にも、連合も日本商工会議所も消費税賛成を主張しています。
 その際、古賀連合会長は8%増税に賛成した理由について次のように述べていました。

消費税引上げにより、言うまでもなく、可処分所得の減少や駆け込み需要の反動で消費が抑制され、内需が減少する恐れがある。…。一方では、我が国は急激な少子高齢化・人口減少社会に突入しており、社会保障制度改革の実行は待ったなしの状況であると認識している。したがって、成立した社会保障・税一体改革関連法に基づき、現下の厳しい財政状況も踏まえて、基本的には、法律に沿って粛々と実施すべきであると考えている。

古賀会長としては、どうやら消費税増税の経済への影響は駆け込み需要と反動減、つまり行って来い程度の影響との認識だったようです。

こうした認識になってしまった原因のひとつとして、2012年2月野田内閣が閣議決定した「社会保障と税の一体改革大綱」が出される直前の内閣府によるシミュレーション結果 *2が影響した可能性があります。

シミュレーションは内閣府の計量モデル(「経済財政モデル」)を使って行われています。
それによると、消費税を8%→10%と引き上げた場合と、引き上げなかった場合のGDP成長率を比べると年平均でわずか0.1%の差という結果でした。(図1)

内閣府モデル「消費税増税は景気に影響なし」

図1 内閣府モデルによる消費税増税の影響
出所:経済財政の中長期試算(2012年1月24日・内閣府)
2013〜2016年度の成長の姿(p12)の”成長シナリオ”。
縦軸は兆円。
これによれば2012−16年の実質GDP成長率は、
増税なしで年平均1.9%増税ありでも年平均1.8%。

もしこのように、増税しても単に駆け込み需要と反動減だけしか影響がないという御託宣があるなら、増税に反対する理由に乏しいことになります。

ただ実際増税する前の当時でも少し考えれば分かったことですが、8%増税でも年8兆円、10%増税なら恐らく年13兆円が政府に召し上げられ、その大半は戻ってこないのですから、「駆け込み需要と反動減だけしか影響がない」わけがありません。 

そして、現実に今年は1.8%成長どころか、増税後の4-6月期成長率では年換算マイナス7.1%といった有り様です。

 内閣府が明らかに間違ったシミュレーション結果を作り出し、それを日本商工会議所と連合は信じこまされた可能性は高いのですが、わずか16年前の1998年以降、5%に消費税を上げたことによる中小企業や労働者の惨状をふたつの組織は全く記憶していないのだとすれば情けない話です。


■みんなで無視した赤信号2:世論
今年5月19日、厚生労働大臣宛にひとつの要望書が出されました。題して「医療保険制度改革に関する被用者保険関係5団体の要望について」。
提出した5団体とは健康保険組合連合会全国健康保険協会経団連、そして今回消費税増税に賛成している日本商工会議所と連合です。

以下はその内容−

(前略)
被用者保険は医療保険制度の中核として国民皆保険を支えてきたが、高齢者を中心に医療費が増加する中、かつてない厳しい状況に追い込まれている。…。我々被用者保険関係5団体は、現役世代の納得性を確保するとともに、重い拠出金負担を軽減し、将来にわたり持続可能な制度の構築を目指して、一致して以下の要望事項を取りまとめた。

 医療保険制度改革にあたっては、現役世代の納得性を確保すると共に…、またこれらの負担構造の改革に要する財源としては、消費税の税率引き上げ分を活用、充当すべきである。
(以下略)

 何のことはない、経営者の代表経団連日本商工会議所としては、会社が負担する医療保険料負担が重いので、消費者や勤労者に肩代わりしてほしいという要望な訳です。*3

こうした経営者の都合での要望書に、”現役世代の納得性”などと書かれていますが、最近の報道では、アベノミクスによる景気回復の実感については、9割近くの人が「実感はない」と答え、また来月安倍総理が決断を迫られる消費税率10%への引き上げについては、「反対」が71%、「賛成」が25%という結果も出ており、現役世代が消費税増税に納得していないのは明らかです。*4

 更にいえば、97年に消費税を増税した際には当年こそ税収は増加しましたが翌年には増税前の総税収を下回り、消費税を上げたことで税収を減らす結果となっています。(図2)

図2 1997年消費税増税後の税収推移
出所:財務省データから作図
増税した1997年(平成9年)こそ税収は増えているが、
翌年平成10年には早くも増税前の平成8年税収を下回った。

 「関係5団体」としては、現役世代の声も代表して医療保険制度の持続性のために要望書を提出したということですが、恐らくは中小零細企業が所属する日本商工会議所や労働者が加わる連合などには、「なぜ我々の不利益になる消費税増税に賛成するのか」という抗議の声が多く届いていることでしょう。

 こうした批判を無視して消費税増税に賛成する日本商工会議所や連合は、消費税を10%まで上げた結果、5%への増税時と同様の経済停滞、企業破綻、自殺者増、税収減、財政問題拡大、デフレ拡大などが起こった時、その責任を取る覚悟はあるのでしょうか。 それとも単に「消費税みんなで渡れば恐くない」と安易に考えているだけなのでしょうか。

*1:シェイブテイルもそのひとりです。

*2:経済財政の中長期試算平成24年1月24日

*3:ここに勤労者の代表のはずの連合までもが関係5団体に名を連ねているのは、連合には会社の御用組合しかないということなのでしょうか。

*4:http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2338847.html