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消費税増税有識者アンケートにみる有識者らの姿

今日の日経新聞朝刊に、「消費税、予定通り10%」が6割 有識者アンケート と題した記事が載っています。消費税が8%に増税された4月以後、多数の経済指標が大幅悪化していますが、これは字句通りに受け取って良いのでしょうか。

アンケートの対象は、昨年8月に政府が主催した消費税増税集中点検会合のメンバー60名です。

昨年の集中点検会合では、8%への消費税増税について、メンバー中賛成が44名、条件付き賛成が5名、反対が10名、意見保留が1名でした。(図表1)

これに対し、今回の日経新聞が実施した同じメンバーへのアンケートでは、賛成が26名、どちらとも言えないが8名、反対が9名、未回答が17名です。 (図表2) 

有識者の意見も昨年8月からかなり変化した

  
図表1(上)昨年8月集中点検会合でのアンケート結果
図表2(下)今回の日経新聞によるアンケート結果

アンケート先は内閣府こちらに記載。 *1

一見しただけでも、昨年8月の集中点検会合から意見が変わった人々が少なからずいることが見て取れます。

増税賛成から反対に回った方々の意見は次の通りです。(前回→今回の順)

阿部 眞一 (岩村田本町商店街振興組合理事長)
一気に10%に増税を。
→各省庁に予算枠を設け真剣に歳出削減に取り組んでほしい。

西田 陽一 (おんせん県観光誘致協議会会長)
地域振興の政策を。
→地方では景気回復の実感がわかない。財布のひもが締まっている上に、燃料費や原材料費が上昇し、利益が縮小している。もっと地方が元気になる施策を打ち出してほしい。

吉川萬里子 (全国消費生活相談員協会理事長)
社会保障制度をしっかり作り上げいく必要があり、そのための消費税の増税はやむをえない。
→景気回復は鈍く先行きは不透明だ。

樋口武男(住宅生産団体連合会会長、大和ハウス工業株式会社代表取締役会長兼CEO)
住宅の購入者に対してローン減税の拡大や給付措置などによって、実質的な負担がかからないような措置をしてもらっているので賛成。
→住宅業界は、反動減から回復していない。新設住宅着工戸数も低調で、先行きも不透明感が強い。

青山理恵子 (日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会副会長)
粛々と実施すべきだと発言した。『仕方がないけどやるべきだ』という世論もすでに形成されている。
日銀短観を見ても中小の景況感は弱い。社会福祉法人や宗教法人等への課税強化を視野に入れるべきだ。

昨年8月には淡々と増税に賛成された方の中でも、特に生活の実感が得られ易い方々については4月以後の景気凋落を見て反対にまわらざるを得なかったようです。

これらの方以外でも、賛成からどちらとも言えないに回った方もいらっしゃいます。

清水信次 (日本チェーンストア協会会長、株式会社ライフコーポレーション代表取締役会長兼CEO)
10%までの引き上げに協力するのは国民や業界の責任であり、義務
→「自分の業界だけは優遇してほしい」という要望を招く軽減税率は導入すべきではない。将来の人口動態を見据えた財源と給付の関係をわかりやすく国民に示すことが大切。

永濱利廣 (第一生命経済研究所主席エコノミスト
景気への配慮は必要。
→8%に引き上げる際の景気対策が効果的ではなかった。家計や地方経済の購買力を高めるべきだ。

岸宏 (全国漁業協同組合連合会代表理事会長)
漁業者は弱者なので、漁業、漁村が生き延びられるように対策を。
→ 現状、水産物では、流通の川下側が価格決定で強い力を持っている。増税された場合に、生産者が増税分を水産物の価格に転嫁することは難しい。

林文子 (横浜市長)
来年4月がいいと言い切ることはできない。景気の状況を見ながら。
→景気が腰折れして財源が確保できなければ意味がない。実施時期は慎重に判断すべきだ。

小松万希子 (小松ばね工業株式会社取締役社長)
一時的な痛みを伴うことを覚悟で賛成だ。
→8%に引き上げた結果、どう使われたかが国民に周知されていない。

これらの意見からは、政府の増税に対する景気対策や対応への不信感も垣間見られます。

一方、槍が降ろうが増税賛成だ、という方たちもいらっしゃいます。

菅野雅明(JPモルガン証券チーフエコノミスト
円安・株高の今を逃したら次にいつ消費税率を引き上げられるか不透明で将来に禍根を残す。10%は通過点で最終的には20%かそれ以上に引き上げる必要がある。

熊谷亮丸(大和総研チーフエコノミスト
増税の先送りはアベノミクスの1本目の矢と3本目の矢を台無しにする恐れ。法人税引き下げには将来的に恒久財源が必要。

土居丈朗 (慶大教授)
大企業の正社員の実質賃金は既に上昇傾向に転じている。

西岡純子 (アール・ビー・エス証券会社東京支店チーフエコノミスト
社会保障関連の収支を安定させるには、10%台への引き上げでは足りない。長期的に見て20%台への引き上げは必要。

井伊雅子 (一橋大教授)
景気動向に関係なく予定通り上げるべきだ。予定通り上げないことが今後の日本経済の最大のリスク。


稲野和利 (日本証券業協会会長)

消費税率の引き上げが延期されるとアベノミクスへの信認が揺らぎマーケットにはネガティブだ。

 
 菅野氏の「円安・株高の今を逃したら次にいつ消費税率を引き上げられるか不透明」というのは財務省の心中を良く代弁していますが、8%増税でもこれほど経済が疲弊していることなどお構いないようです。

熊谷亮丸氏の「増税の先送りはアベノミクスの1本目の矢と3本目の矢を台無しにする恐れ」というのも、アベノミクスというのが元来日本をデフレの淵から救いたいということで実施されていて、増税でデフレを強化することで、アベノミクスに悪影響など、一体何を言っているのか意味不明です。

土居丈朗氏の「大企業の正社員の実質賃金は既に上昇傾向」というのも、日本のサラリーマンの大半は中小零細に勤めていて、その4割は非正規雇用で、8%への消費税増税でも実質賃金減という実態は無視して、あたかも「大雨でも雨粒の間は晴れ」といった具合の我田引水ぶりには辟易します。

西岡氏、井伊氏らも財務省の意見を代弁するだけの意見しかないようです。

こうしてみますと8%増税後の経済実態の急速な悪化を目の当たりにした、経済実態に近い人々は消費税増税に反対する立場に廻り、その一方で財務省の影響を受ける人々については、経済実態の悪化などは眼中になく、ひたすら財務省恭順10%への消費税増税を主張し続けているという形に見えます。

こうしてみますと、冒頭の日経新聞の「消費税、予定通り10%」が6割 有識者アンケート というタイトルからは、日本経済悪化などは眼中になく、ただ大本営発表を唯々諾々と垂れ流す御用新聞の姿が浮き彫りになっていると言えるでしょう。

*1:なお、この有識者会議のメンバーなるもの自身が、内閣府により7割以上が消費税増税に賛成するようにバランスを取ったメンバー構成であることには注意が必要です。