シェイブテイル日記2

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アベノミクスと高橋財政を比較してみた

アベノミクスのパフォーマンスを、80年前昭和恐慌のデフレからの脱却を実現した高橋財政と比較してみました。
その結果、高橋財政に比べると、現在のアベノミクスのデフレ脱却効果は限定的のようです。
高橋財政に比べてアベノミクスの効果が弱い理由も考えてみます。

第二次安倍内閣と同時にアベノミクスが始まって1年半ほどが経過しました。
ここまでのアベノミクスのパフォーマンスを、80年前昭和恐慌のデフレ経済から脱却を実現した高橋財政と比較してみました。 
アベノミクスは、大胆な金融政策(第一の矢)、機動的な財政政策(第二の矢)および成長戦略(第三の矢)から成り、その中でもインフレ目標と日銀による長期国債買い入れを中心とする量的質的緩和が主力の政策となっています。
一方、高橋財政では、日銀が国債を政府から直接引受けました。 

アベノミクスと高橋財政では、日銀の保有国債比率と物価はどのような関係になっているでしょうか。 
図表1がこれをみたものです。

日銀の保有国債比率拡大はアベノミクスで著しいが、
物価上昇は高橋財政ほどではない。

図表1 日銀の保有国債比率と物価
出所: アベノミクス 物価(GDPデフレータ)=内閣府GDP統計、日銀国債保有比率=日銀資金循環統計
高橋財政の物価・日銀国債保有比率は「昭和恐慌の研究(2004)」図5-1から改変

白川日銀時代にも2010年10月の包括的金融緩和政策により、日銀による国債買い入れは始まっていましたが、2012年12月の第二次安倍内閣発足からアベノミクスがスタートし、2013年4月からは黒田日銀による異次元緩和により2%のインフレ目標のもと、日銀が長期国債を年50兆円市中から購入し、マネタリーベースを年間60-70兆円積み増しています。
この異次元緩和により、日銀による国債保有比率は昨年以来急速に上昇しつつあり、現在では20%を超える水準に達しました。

しかし、アベノミクスがスタートして1年以上が経過した2014年3月末時点でも、物価(GDPデフレータ)はマイナス圏です。*1

一方、高橋財政は1931年12月に始まり、32年11月に日銀による国債引受けが開始されるより前から、既に著しい物価上昇が始まりました。 これは浜口内閣(井上蔵相)による金本位制がもたらしたデフレのかなりの部分は、犬養内閣(高橋蔵相)が政権を取ると同時に金本位離脱を離脱したことで、かなり改善していたことによります。

この金本位制離脱により円の対ドルレートは49ドル/100円から数ヶ月で32ドル/100円まで円安に振れました。
ただ、この金本位制離脱による卸売物価の上昇は32年4月には再び下落に転じています。

そして32年11月からは日銀による国債直接引き受けが始まりました。
ただし、日銀が引き受けた国債の9割方は結局市中消化されました。 従って、図表1にもみられる通り、日銀の保有国債比率上昇は限定的でした。

次に財政政策も比較してみましょう。


図表2 高橋財政期の政府経常支出+粗国内固定資本形成(政府分)の対GDP比の前年差
縦軸はポイント。

高橋財政といえば、財政なら積極財政だけというイメージがありますが、物価が低い32年には財政規模を大きく引き上げ、物価が上昇しはじめた翌33年には早くも政府支出を抑制し始め、必要以上の物価上昇を抑えたようです。 

これに対しアベノミクスでは(図表3)、第二の矢として機動的な財政政策を謳うイメージとは裏腹に、緊縮財政に終始した民主党政権時代から財政規模の変化はわずかしかありません。

図表3 アベノミクスでの政府支出の対GDP比の前年同期差
出所: 内閣府SNA 名目GDP季節調整系列 縦軸はポイント。
今年4月以降は消費税が3%上がったが、それに対応して政府支出が増えたわけではなく、
民間のマネーを政府が吸い上げただけになっている。

このように財政規模の拡大が極めて限定的であるのは、第二の矢の主力政策が国土強靭化計画であり、公共投資は過去に抑制されてきた経緯から、供給制約が強く、公共投資は増やそうにも増やせないという事情もありそうです。
ただ、本気で財政政策も強化したいのならば、国民全体に給付金を十分額渡すこともできそうですが、安倍内閣では財政健全化に配慮した意見は多く聞かれても、財政規模を拡大すべきという意見はどの閣僚からも殆ど聞こえてきません。

開始から1年半経ったアベノミクス

その成果をみてみると、東大日次物価指数では、今年4月まで上がっていった物価がその後は下落しているようにさえ見えます。(図表4)。

東大日次物価指数は、上昇ののち4月以降下落に転じたようだ

図表4 東大日次物価指数と総務省指数
出所:東大日次物価指数プロジェクトウェブサイト
東大日次物価指数(赤線)はスーパー等のPOSシステムで
集められた消費実態に近い物価指標。
総務省指数(青線)は東大日次物価指数が対象とした
商品のみに対する消費者物価指数

今年4月に3%の消費税増税が行われました。 これは国民の実質所得を2%ほど減らすデフレ強化策です。
現在のアベノミクスつまり強力な金融政策+わずかな財政政策ではこの3%の消費税増税の悪影響さえ抑制できていないように見えます。

 1932−33年のわずか2年でデフレを完全脱却した高橋財政と、強力な金融政策にもかかわらずいまだデフレを脱却できないアベノミクス
高橋財政と比較してみると、アベノミクスでは既に金融政策は相当程度になされており、現在デフレ脱却に不足しているものは財政政策だと考えられます。*2

消費税増税自身が国民から政府に所得を移転する負の財政政策ですから、今のままのアベノミクスでは何年待ってもデフレ脱却は困難でしょう。 それにもかかわらず、甘利大臣ら政府関係者からは来年10月の10%への消費税増税への意欲だけ伝わってきます。
10%への消費税増税などやれば、民間から政府へのマネー吸い上げが更に強化されるのですから、安倍政権が最大の課題としていたデフレ脱却は更に遠のくことでしょう。

13日に発表されたGDPの一次速報では家計消費などを中心に消費税増税の悪影響が強くでた結果となりました。 

前期比年率で見れば、恐らく次の7-9月期には改善したように見えるかもしれません。しかしそれで経済が好転したと勘違いして消費税10%増税に踏み切れば、日本経済は悲惨な状態になるのは明らかです。 安倍内閣がデフレ脱却を本当に望むのなら、国民への巨額の給付金、あるいは消費税そのものの凍結など、デフレ脱却に本当に必要な財政施策を準備すべきではないでしょうか。

*1:4月以降のGDPデフレータは前年比2%上がっていますが、これは消費税のゲタを履いていて、図表4でみられるように、実質的な物価上昇は殆ど観察されていません。

*2:金融政策でも、株式ETFREITなどの資産購入であれば、長期国債購入とは異なり、銀行以外の民間にマネーを渡す効果が期待できます。ただ、ETFREITの市場そのものがGDP規模に比べると小さく、購入可能な資産規模が小さすぎる点が問題です。