シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

日本の財政−本当の問題は何か

日本の財政に問題があるということに異論がある人はいないでしょう。
ただ、その本当の問題はどこにあるのでしょうか。

今朝の日経の大機小機でも日本の財政問題をとりあげています。

「途方もない」財政赤字
 日本の財政状況が大変だ、ということは誰もが知っている。いったいどれほど大変なのか。
(中略)
 日本の財政の現状については、もちろん数字が存在する。国・地方をあわせた長期債務残高は2014年度末で1010兆円、国内総生産(GDP)に対する比率は200%を超す。現状に関する数字はこの通りだが、問題を解決するために何をしなければならないのか、ということになるとはっきりしなくなる。

 債務の対GDP比率が上昇し続ければ必ず財政は破綻する。どの水準という決まった数字があるわけではないが、200%という水準を超え、なおこの比率が上昇し続ける「発散経路」上にある日本の財政は深刻である。問題を解決するためには債務の対GDP比率の上昇にストップをかけ、時間をかけて下げていかねばならない。そのためには当然、年々の財政収支(フロー)に一定の規律が必要になる。
(中略)
先月末に公表された財政制度等審議会による「我が国の財政に関する長期推計」がようやく、この問いにひとつの答えを出した。

 内閣府の試算では消費税を10%に上げても20年度にまだ12兆円ほど基礎的財政収支の赤字が残る。これをなんとか目標どおり均衡させても、実質2%、名目3%の経済成長の下で60年度に債務残高の対GDP比率を100%の水準まで下げるためには、21年度以降に基礎的財政収支を対GDP比で8.2%改善しなければならない。消費税率に換算すれば、16%強に相当する収支改善が必要ということだ。これが日本の財政の「大変さ」である。
  日経新聞2014.05.13朝刊 「大機小機」

確かにこの大機小機でも書かれているように、日本の政府債務対GDP比は他の先進国平均からみても異常な水準ですね。 ただ、大機小機の結論は正しいのでしょうか

政府債務の対GDP比は確かに憂慮すべき水準

図表1 政府粗債務対GDP比推移
出所 IMF WEO 2014 Apr.
赤線:日本、青線:日本を含まない先進32カ国平均

政府債務の対GDP比が大きいからといって、それが直ちに「税金を上げて政府債務を縮小すべき」という結論になるのでしょうか。

■分子が大きいのか、分母が小さいのか
 政府粗債務÷名目GDPで算出される政府粗債務対GDPですが、分子の政府粗債務と分母の名目GDPの伸びを他国と比較してみましょう(図表2,3)。

日本の政府粗債務対GDP比の伸びは名目GDPの方に問題あり


図表2(上) 政府債務推移、図表3(下)名目GDP推移(2001年=100)
出所 IMF WEO 2014 Apr.
赤線:日本、青線:日本を含まない先進32カ国平均

政府債務の伸び(図表2)をみますと、日本の政府債務も伸びてはいますが、財政が健全な国々を多数含む日本以外の先進32カ国平均の方がはるかに伸びは大きく、日本の政府債務伸び率は13年間で33カ国中30番目に過ぎません。
一方名目GDPの伸び(図表3)をみますと、日本の名目GDPは2001年比で2013年現在減少しています。伸び率では当然最低の33番目。他の先進国では名目GDPが平均で1.7倍にも伸びており、日本以外には2001年比で名目GDPが減少した国などはどこにもありません。
日本の財政問題は、大機小機コラム子が断定しているように「政府債務が発散しつつある」、というよりも、名目GDPが伸びるどころか縮んでいることにこそ問題の本質が潜んでいます。

■なぜ政府債務は増える?
ではそもそも、経済が健全な国でさえ、なぜ政府債務は増大する傾向があるのでしょう。

これは現代マネー(不換紙幣)の本質と関係しています。 
現代のマネーは必ず誰かの負債を裏付けとして発行されています。
この負債ですが、1年経つと利子が発生します。 この利子はどこから来るのでしょう。

「誰かが新たに負債を作れば、その利子も払えるだろう」と思われるかもしれません。

ただ、名目経済成長が全く止まった経済圏でも、マネーの裏付けである債務には必ず利子が伴います。
民間の誰かが新たに負債を増やすのならば、それは元本を増やしているのであり、次の年には更に大きな利子の支払いが必要となります。

つまり民間の中だけで考えれば、経済が無限に成長するという仮定を置かない限り、利子の原資は尽きてしまいます。

一方、政府・中央銀行を債務の担い手として捉えると、政府は自分の意思で無限に債務を創造できます。 
また中央銀行は政府債務を受け取ることで、無限に不換紙幣を創造できます。*1

一部の資源国など、国内資産に見合う債務を海外が引き受けるという例外を除けば、国内に資産があるならば、政府はその裏付けとなる債務の一部を持たざるを得ません

図表4は家計純資産の推移と、その裏付けとなっている、政府・企業・海外の純債務の推移です。
両者には差がありますが、その部分は金融機関とNPO等の純債務(あるいは純資産)で、純資産合計は、その裏付けとなっている純債務の合計とバランスしています。

日本の家計純資産は企業・政府・海外の純債務で支えられている

図表4 家計純資産とその裏付けとなる他の主体の純債務
出所:日銀資金循環統計
家計純資産が伸びれば、それとバランスするその他の主体の純債務合計も同じく伸びる。
この20年の傾向としてはデフレで民間企業が債務を減らした分政府債務の増大が大きくなっている。

 橋本内閣が1997年に消費税を増税して以来、日本がデフレに陥った結果、企業は高い実質金利と不透明な将来売上を嫌い、投資を止め、債務返済に走りました。 

日本経済のフロー(名目GDP)が縮んでも、家計のストック(純資産)は大きいままで、その大きなストックには利子が伴います。
その利子分は誰かが新たに負債を増やさざるを得ず、図表4にみられる通り、日本では政府が債務を増やす受け皿となってきました。

 マスコミなどが「国の借金1000億円、国民一人あたり800万円」などと、あたかも政府債務は完済せねばならないように書き立てますが、現実には政府が債務を完済しようとすれば、債務を裏付けとする不換紙幣による経済は成り立たなくなるのです。

ここで現在政府が現在目論むように消費税を増税していけば、更に名目GDPが縮小し、税収も減り、ますます政府債務の対GDP比率を高めるだけでしょう。

■どうすれば良いのか
 日銀が市中銀行当座預金口座にマネーを積み上げても、資産価格はある程度上げられても名目GDPを伸ばす力は限られます。

 同じ日銀が財源となるのならば、日銀が国債を引き受けたマネーで財政を拡大すれば、名目GDPを伸ばすことができます。デフレさえ脱却すれば、企業も相応にリスクを取り設備投資をし、適正な債務を負いますから、政府債務負担は減ります。

 要するに、政府債務対名目GDP比を下げるには、日本だけの特殊事情デフレを脱却し、他の健全な先進国同様、名目GDPを伸ばす政策を採ることです。

更に言えば、デフレ状態では(インフレ経済とは異なり)税収弾性値は1よりも大きくおそらく3近くあります。

やはり現在の税収弾性値は1.1ではない - シェイブテイル日記 やはり現在の税収弾性値は1.1ではない - シェイブテイル日記

民間にマネーを回し、名目GDPを拡大する政策を採ることで、この1年の経験からも税収は大幅に増えるのですから、国家財政を本当に案じるのであれば、金融緩和+緊縮財政という今のポリシーミックスを止めて金融緩和+積極財政に転換すべきでしょう。

*1:勿論、物価指標などを無視して不換紙幣を創造して民間に配れば、インフレが起きるのは明らかですが、マネーを創りだそうと思えば作れるという主体は中央銀行以外にはありません。