シェイブテイル日記2

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日銀が購入する資産は長期国債がベストか

黒田日銀はアベノミクス第一の矢として、2%のインフレ目標を掲げて、長期国債などの大量購入により、2年程度でのデフレ脱却を目指しています。ただ、この方法がデフレ脱却への最善の金融政策かと言えば、やや疑問が残ります。

アベノミクスが実質スタートして1年近く経ちました。その後、コアコアCPIは昨年10月の△0.5%から今年9月の±0.0%までゆっくりと上昇を続けています。 

とはいえ、黒田日銀が想定する2年で2%の物価上昇を考えると、これまでの1年で0.5%上昇というパフォーマンスは手放しで素晴らしい、とまではいえません。

アベノミクス第一の矢、金融政策では、日銀岩田副総裁の「量的・質的金融緩和」のトランスミッション・メカニズムー「第一の矢」の考え方ー」などからみると、円安・株式等資産高を通じて民間にマネーを供給しデフレ脱却する、というルートが想定されているようです。

長期国債などの債権大量購入→マネタリーベース(MB)大幅増加→期待インフレ率上昇→円安・資産高→物価上昇

この、MB増加から物価上昇に至る、という経路について、データが豊富な米国について考察してみましょう(図表1)。

米国BEIは、マネタリーベースにではなく、VIX(恐怖指数)に連動している
図表1 マネタリーベース(MB)、BEI、VIXの推移(米国:2008年5月−2013年4月)
出所:上段・MB=FRB、中段・BEI=米国10年債券(BEI、 下段・VIX=シカゴ・オプション取引所Volatility Index
上段:細線=MB残高(右軸;10億ドル)、太線=MB対前年比(左軸;%)、下段(VIX):逆目盛

FRB量的緩和QE)を実施した時、QE1(2008年11月〜2010年6月)、QE2(2010年11月〜2011年6月)、QE3(2012年9月〜現在)と、MBは大きく増加しました(図表1・上段)。

QE1の時にはMB増加により、BEIも上昇し、VIX(逆目盛)は低下しました。
ところがQE2、QE3では、更なるMB増加に対してBEI上昇やVIXの低下はそれほど明確には現れませんでした。

岩田副総裁の想定波及経路によれば、MBが増加する毎に期待インフレ率BEIが増加しそうですが、実際にはそうはなっていません。 このことはどう解釈すべきでしょうか。

FRBは、特にQE1では「中央銀行の資産が劣化する」という一部の声も顧みず、不動産担保証券(MBS)を中心に大量の債権を購入し、住宅ローン市場のそれ以上の崩壊を抑止しました。 また、MBS市場が復活することで、FRB自身も結果的には2009年の純利益が前年比47%増の521億ドル(4.8兆円)の史上最高記録となったとのことです。

 このことと、期待インフレ率BEI(図表1中段)が、MBの増加よりむしろ恐怖指数VIX(図表1下段)とよく相関していることから考えると、QEで生じた効果とは、MBの増加とは関係なく、金融機関や投資家にリスク・オンの心理を生んだことという仮説が成り立ちそうです。

日銀・岩田副総裁のトランスミッションカニズムの説明では、MBから期待インフレ率BEI、更には資産価格上昇というルートが明確ではありませんでした。

ただ、FRBの経験から考えると、シェイブテイルとしては日本でも金融機関・投資家にリスク・オンの心理を生むことは重要で、最も安全な資産である長期国債の大量購入という方法よりも、リスク資産のTOPIX連動ETFJ-REITの購入の方がリスク・オンの心理を生む効果は大きそうです。 

ただ、TOPIX連動ETFJ-REITなどの資産はその規模が小さいことから、購入規模がそれぞれ100億円や1億円といった程度に留まるため、これらの資産購入では象徴的な意味しかなさそうです。 そうであれば、例えば売買規模が現物市場以上に大きい日経平均先物を、物価上昇が明確になるまで買い続けるといった方法のほうが、物価上昇へのインパクトは大きいのではないかと思います。

 FRBがリスク資産を購入すると決断した時、「中央銀行の資産の劣化を招く」という批判がありました。
日本でも日銀がリスク資産を購入することで、一部の人々から日銀の資産劣化について批判が生じることは確かでしょう。

 ただ、日銀は劣化資産と引き換えに、原理的には無限にマネーを創造できる立場ですから、劣化資産が更に劣化(価格の値下がり)が生じたならば、さらなる買い増しが好きなだけできます。 また日銀の購入したリスク資産が値下がりした状態とは、まだ日本がデフレ経済の中にあるはずですから、結果的には日銀も劣化資産の売却で必ず利益が出るはず、という推論もできます。