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消費税とデフレの一見不思議な関係

日本では1997年の3%から5%への消費税増税後はっきりとデフレ化しました。
しかし、1989年の3%消費税創設時にはなぜデフレ化しなかったのでしょうか。
また消費税を創設したフランスは現在標準税率19.5%。でもデフレではありません。
これはどう捉えるべきなのでしょう。

1.消費税のインパク
まず日本の消費税についてです(図表1)。

日本の消費税は増税するたびに重税感が大幅増

図表1 消費税のインパク
出所:財務省 財務省一般会計税収の推移
1989年消費税創設時には税収増収額は1.1兆円だった。
1997年の消費税増税時には消費税増収額は3.2兆円。
2014-15年、消費税が5%→10%に上がれば増収額は約10兆円と予想される。

1989年消費税が創設された時には、抱き合わせで物品税が廃止されました。*1
1989年の消費税税収が3.3兆円で、前年の物品税税収が2.2兆円ですから差額は1.1兆円に留まりました。

これに対し、1997年の消費税3%から5%への増税の際には前年の消費税6.1兆円から9.3兆円に税収が増加しました。 来年、再来年に消費税が5%から10%まで上がるとすれば、単純計算では現在の倍の消費税税収となります。

消費税創設時にはデフレ化しなかったのに、5%への増税時にデフレ化した理由は、その増税インパクトが5%への増税時の方がずっと大きかったことがひとつ、また消費税創設時は時代が資産バブルの時代だったこともあり、1997年の橋本増税時とは経済的背景が大きくことなっていたこともあったでしょう。

2.消費税率が高いフランスはデフレではない理由
標準税率だけを比較すれば、日本が5%に対し、フランスが19.5%ですからフランスの方が消費税負担は大きいはずです。

しかし、フランスはデフレに陥ってはいません。
その理由はフランス人がよく分かっています。

 何よりも、フランス人が高い消費税をおとなしく払うのは、それを支出ではなく収入の道と見ているからだ。フランスでは日本よりもはるかに、国民の日々の暮らしに国家が関与している。無償の医療制度や教育制度が整備され、社会的セーフティーネットも万全だ。日本では勤続20年で年収600万円の40歳のサラリーマンが失業すると、月額21万円の失業手当が9カ月間給付される。信じ難いかもしれないがフランスなら給付期間ははるかに長く、給付額はその3倍だ。

 要するにフランス人にとって消費税は「未来の収入」のようなもの。就職前の教育費、病気で働けないときの薬代、退職後の生活費を賄う。納めた税金は日本では信頼を失った年金制度に消えていくが、フランスではいずれ納税者自身に戻ってくる。日本政府がもっと納税者のことを考える姿勢を見せない限り、日本の納税者は納得しない。

  コラムニスト:レジス・アルノー「消費税の国」フランスが教えるその功罪 ニューズウィーク 2012年05月28日(月)09時00分

要するに、フランスでの消費税は、国民にちゃんと返ってくる仕組みになっているんですね。
かたや日本は、1997年の橋本増税にしても、今回の安倍増税にしても、実質は財政再建狙いの消費税です。

日本の場合、払った消費税が国民に返らないんですから、民間に回りにくいマネーが更に吸い上げられてしまうことになります。

同じユーロ圏でも財政再建目的に消費税を増税したギリシャでは近年デフレ化しました(図表2)。

ギリシャでは消費税を上げてデフレとなった

図表2 日本・フランス・ギリシャの物価推移
出所:IMF WEO 物価=GDPデフレーター(%)
ギリシャの折れ線グラフには付加価値税(VAT) 増税経緯を記載した。

VAT19%時代のギリシャでは物価は2-5%程度のインフレでした。
それが財政再建を目的に、21%、23%と増税していったところ、2012年よりギリシャはデフレ転換してしまいました。 

よく、日本が近いうちギリシャ化する、などといった俗説がありますが、現実には緊縮財政によって、ギリシャが日本化してしまっています。

フランスの消費税は、国民に還付される消費税なのに、日本や近年のギリシャの消費税は財政再建に消えてしまう消費税というわけです。

安倍首相の発言からは消費税の増税が国民に還付されない増税だという点は理解されていないように思えます。
   安倍首相の増税決断とトコロテン理論 - シェイブテイル日記 安倍首相の増税決断とトコロテン理論 - シェイブテイル日記

また日銀の黒田総裁はといえば、「現在の金融政策のままで近いうちにインフレ転換する」という自信を見せているようです。 

しかし2014年、2015年の消費税増税では1997年の橋本増税を大きく超えるマイナスインパクトがあることを考えると、安倍首相や黒田総裁の発言を聞いても、日本のデフレが更に悪化しないか、相当懸念が残るところです。