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黒田総裁とバーナンキ議長の資産購入目的の違い

日銀・黒田総裁とFRBバーナンキ議長はいずれも大量の資産を購入しています。ただ、両者が資産を購入する目的はかなり異なっているようです。

バーナンキ議長が資産の大量購入(Large-Scale Asset Purchases;LSAP) を行ってきた理由は、講演で議長自身が語っていますが、要するに長期国債と、ファニーメイフレディマックといった住宅金融分野での政府支援機関(GSE)が発行した債権、GSE債の金利低減策、換言すれば価格維持策でした。

   バーナンキはなぜ大量の債券を買ってきたのか - シェイブテイル日記 バーナンキはなぜ大量の債券を買ってきたのか - シェイブテイル日記

一方、黒田日銀でも、大量の資産を買い入れています。その買い入れ中の資産の内容は、図表1のようになっています。

日銀が購入している資産の大半は日本国債

図表1 今後のマネタリーベースと、日銀バランスシートの見通し
出所:日銀 2013.4.4 量的・質的緩和」の導入について 

黒田日銀がデフレ脱却を目指して購入される資産の大半は長期国債となっています。

では、同じく長期国債を大量に買い入れているバーナンキ議長は物価に対する影響をどう捉えているのでしょうか。

<マネーサプライと量的緩和

「印刷(printing)」という言葉をめぐって議論があるのは認識している。実際には、これらの(主要中銀による量的緩和のような)政策によっては流通する通貨量に影響は出ていない。起きたのは、FRB保有する電子的な準備預金量の大幅な増加だ。それら(増加した電子的な準備預金)はそのままそこにあり、大した影響はない。今のところ、インフレを誘発したという兆候は出ていない。
   バーナンキFRB議長議会証言要旨 (ロイター2012年2月29日) *1

極めて興味深いことに、黒田総裁の期待するところとは異なり、バーナンキ議長は国債GSE債の大量購入しても、単に電子的準備預金はそのままであり、流通する通貨量に影響は出ず、物価上昇への影響は軽微と判断しているようです。

 そもそも、黒田日銀の狙いは、長期国債を大量に買い入れることではなく、その結果、日銀当座預金が膨らみ、デフレを脱却する何らかの効果を発揮することにあるのでしょう。 

 一方のバーナンキ議長の狙いは、恐慌経済では暴落しかねなかった国債GSE債の価格維持であって、増加する電子的な準備預金については、すでに目標レンジにある物価を維持する上で好ましくない副産物という捉え方をしているのではないでしょうか。

 筆者もリフレ派であり、黒田日銀の現行の方法でデフレ脱却が実現するのであれば、それに越したことはないのですが、今月始めに安倍首相が消費税8%への増税に踏み切ってしまったこともあり、実際のところ、量的質的緩和の効果は現在のところ2年で物価2%に向けて順調に推移中、とは言い難いところでしょう。

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 筆者としては、金融政策はデフレ脱却の手段として、非常に重要と考えています。

 ただバーナンキ議長も指摘するように、「単に電子的準備預金はそのまま」でインフレ期待に訴える手法では効果に限界があるように思います。 

 現実の黒田日銀の選択肢として考えてみれば、より有効なのは、物価上昇・地価上昇を目指してETFREITの購入額を増やすことかも知れません。これらの方法では日銀当座預金に積み上がるわけではなく、直接民間にマネーを供給できます。

ただ、その方法での問題点は、これらの市場規模がそれほど大きくはないことです。また、一般物価上昇を引き起こす前に、資産インフレを起こす点も懸念されます。

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 過去のデフレ脱却事例をひとつひとつみても全て財金併用でのみデフレ脱却は可能だったと捉えています。(浅学のため、私が認識していないだけの、そうでない事例があれば是非ご教示ください)

財金併用でなければデフレ脱却は困難という古今東西の金融史に学ぶならば、インフレ防止のための法規を改正して、国債の日銀直接引受けか、政府紙幣を発行して日銀に両替してもらうかが妥当な方法ではないでしょうか。