シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

日米の財政問題を通貨発行益が救う

アメリカではデフォルトリスクが再浮上し、巨額政府貨幣の発行も考えざるを得ない状況に近づいているようです。
この機会に政府貨幣について再考してみましょう。

現在アメリカでは基軸通貨のデフォルトという通常あり得ないリスクが顕在化し始めています。

ルー米財務長官は25日、連邦政府は10月17日までに借り入れ手段が尽きる見込みで、手元資金はわずか300億ドル程度になるとの試算を明らかにした。

ルー長官は米議会指導部に当てた書簡で「政府が支払い不能に陥れば、壊滅的な結果を招く」とし、債務上限引き上げに向け迅速に行動するよう要請した。

米政府は5月以降、連邦職員の年金基金への拠出凍結などの緊急措置でデフォルト(債務不履行)を回避している。

財務省はこれまで、こうした手段が10月半ば頃に尽き、その時点での手元資金は500億ドル程度になるとの見通しを示していた。
ルー長官は最新の試算について、四半期ごとの税収や一部の大型政府信託基金の動向などを反映したものと説明した。

     [ワシントン 9月25日 ロイター]

アメリカのデフォルト危機は単に共和党の一派(茶会党)による、オバマ政権の公的医療保険創設絶対反対という態度により引き起こされていますので、Xデー、10月17日までに何らかの妥協が図られるでしょう。

ただ、共和党の態度が最後まで頑迷であるならば、アメリカ政府が不足する財源を、例えば1兆ドルプラチナコイン発行による、通貨発行益に求めざるを得なくなる可能性はあります。

さて、この政府貨幣発行については、日本でも2003年にはスティグリッツ氏が政府が採るべき処方箋として提案したことは有名です。
スティグリッツ氏はデフレ脱却のみならず、政府債務削減についても期待効果を挙げています。

そしてその後、政府貨幣に関する議論は多々ありました。

その中で、財務省出身の大久保和正氏のペーパー *1 は必要な議論の多くを含んだ、どちらかと言えば政府貨幣発行否定派の意見ということで耳を傾けるに値するものです。

大久保氏の議論はかなり詳細にわたっていますので、その結論から考えてみましょう。 以下、政府貨幣について、大久保氏の表現に合わせて、内容は同一の「政府紙幣」と呼ぶことにします。

なお、政府紙幣の発行方法として、大久保氏は三種上げていますが、その中でも有力と思われる政府紙幣を市中には出さず、日銀に日銀券と両替してもらう」方法を軸に考えてみます。

政府紙幣発行の効果を分析するには、(1)実質的に国債日本銀行引受けであること、(2)その国債が無利子永久であること、および(3)それ以外に生ずる効果の三つに分けて考えるとわかりやすい。

(1)については、日本銀行はその効果をいつでも相殺することができる。引き受けた国債を市中に売却するなどすればよい。

しかし(2)については、日本銀行の財務面に与える影響が大きく、日本銀行の業務の運営には大きな制約となる。

(3)は、政府紙幣は国の債務残高に含まれないという特徴や、政府が直接紙幣を発行する場合には一時的な現金の過剰状態が生じ、その間に景気や物価に良い影響が及ぶ可能性があることなどを意味する。

  政府紙幣発行の財政金融上の位置づけ―実務的観点からの考察―
  大久保 和正 2004年4月  PRI Discussion Paper Series (No.04A−06)

論点は以下の3点です。

(1)政府紙幣は日銀による国債の直接引受けと実質同じ
 大久保氏は政府紙幣発行と日銀による国債直接引受けは実質同じと指摘した上で、日銀による国債直接引受けの場合、市中からの買いオペと同じ国債であることから市中売却の容易性があるとしています。
これは指摘の通りでしょう。

(2)政府紙幣は無利子永久
このことが大久保氏の指摘するようなデメリットなのでしょうか。
大久保氏は本論部分で、政府紙幣には利子がつかないため、日銀の資産劣化を招くとしています。

ただ、日銀の資産から収益が上がったところで、その大半は政府への国庫納付金となるのですから、国債として政府・日銀が相互に相手に金利相当を払おうが政府紙幣として双方が相手に支払わなかろうが結果は同じと考えられます。 

大久保氏の政府紙幣は無利子だから問題というのは日銀からの国庫納付金という面を見落とした誤った結論ではないでしょうか。

ただ、日銀にとって国債は市中消化ができるのに、政府紙幣はそうではない、という点は熟考が必要です。

とは言いましても、現在の日銀はすでに大量の国債を保有しているのですから、将来日本がデフレ脱却して、市場の過熱を防ごうと思えば、金利を上げることもできるし、また保有国債を売却することもできます。

更に言えば、景気が過熱するほどの状況であれば、政府の歳入も相当に増えているはずですから、日銀が保有する政府紙幣を政府に日銀券と交換するように請求することもできるでしょう。

「政府にはそんな現金がない」というのであれば、政府に新発国債を発行してもらい、日銀保有の政府紙幣で日銀が「買い入れ」ても良いわけです。

(3)政府紙幣は国の債務残高に含まれない
政府紙幣は名実共に債務性がありません。従って、政府が国債を新規発行して日銀に引き受けさせた場合に比べると、政府債務の増加を引き起こさないという点は政府紙幣国債発行に対する大きなメリットと言えるでしょう。

こうして、大久保氏の議論をベースに考えてみますと、政府紙幣は、デフレ脱却の財源として、また政府債務削減の切り札として大変有効であることが分かります。 唯一課題として考えるべきことは政府紙幣の出口戦略をどうするかということ位ではないかと思いますが、上の考察の通り、それも決して大きな課題とは言えないでしょう。

現在財政問題を議論する場合、その殆どの場合、議論の前提として政府財源は税収もしくは国債などの債務という二元論で語られています。しかし実際には第三の財源として政府紙幣などの通貨発行益があります。

ここで見てきたように政府紙幣などからの大きな通貨発行益はデフレ脱却にも有効なのですから、最善手となる可能性のある通貨発行益を無視した財政論はそろそろ止めた方がいいのではないでしょうか。