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’98年の自殺者数異変は消費増税以外には考えられない

昨日、賽は、振られた - シェイブテイル日記 賽は、振られた - シェイブテイル日記 という記事で、先の消費税増税(橋本増税)で10万人を超える自殺者が増加した、という記事を書いたところ、疑問の声をいただきました。 今日はその検証をしてみましょう。

1998年に消費税増税での自殺者数が増加したという説に対する疑問には次のようなものがあります。

(1)自殺者はそもそも増えていない
(2)自殺者増はバブル崩壊によるもの
(3)自殺者増はアジア通貨危機によるもの 

(1)自殺者はそもそも増えていない説
日本の自殺者を年齢で標準化すると自殺者は増えていないという説があります。 この説の不合理性については日本では本当は自殺は増えていないというウソ - シェイブテイル日記 日本では本当は自殺は増えていないというウソ - シェイブテイル日記 で書きました。

(2)自殺者増はバブル崩壊によるもの説
日本で、91年ころにバブルが崩壊して、タイムラグを置いて自殺者が増えた、というのはちょっとありそうな気もします。
確かにバブル崩壊後の自殺者数の対前年比率は91-93年頃には増加しました。(図表1)ただ、このグラフで98年に自殺者増加の鋭いピークが生じていることが説明できません。

98年にはバブル崩壊後を大きく上回る自殺者急増が起きた。

図表1 日本の自殺者数・対前年比
出所:警察庁「自殺統計」から筆者作成
バブル崩壊後の91-93年には経済的理由での自殺者が20%ほど増えた。
ただ、自殺者総数としてはほぼ横ばい。
一方98年ころは経済的理由での自殺者が70%増。自殺全体でも35%増。

もう少し詳しくみてみましょう。
図表2は自殺者数月次調査を前年同月比にしたものです。

98年の自殺者急増は春に発生している。

図表2 月次自殺者数対前年同月比
出所:図録・失業者数自殺者数の推移;1次情報は人口動態統計。

図表1では98年に自殺者総数が35%増えたことがわかります。図表2の月次では、98年春には総数として60%以上の対前年比増加があったことが分かります。

98年春に限った自殺者数激増がその5年以上も前のバブル崩壊で説明できるでしょうか。

なおこれらの図表は対前年比で示していますが、実数では98年以降2011年まで自殺者数は14年間も3万人台に高止まりしました。

(3)自殺者増はアジア通貨危機によるもの説
 これは増税推進派の人々が、橋本増税以降のデフレ不景気をアジア通貨危機によるものとしていることと軌を一にするものです。

しかし、図表3の日本・タイでの自殺増加率を比較していただければ、アジア通貨危機当事国のタイよりもはるかに日本での98年の自殺増加が大きいことが分かります。 

アジア通貨危機があった当事国よりも自殺者数が急増した日本

図表3 日本・タイ自殺者数対前年比
タイ自殺者数出所: 論文「タイにおける自殺者数

アジア通貨危機説では、当事国タイよりもはるかに激しく日本の自殺者が増えた理由の説明ができるのでしょうか。

(4)番外
・なぜ消費税を創設した89年から自殺が増えなかったのか

これはひとつには消費税がそれまでの物品税からの切替であり実質負担は余り増えなかったこと、また免税業者が少なくなく重税感がすくなかったこと、更には当時はバブル期で多少自腹の消費税を払わせられてもまだ企業の体力も十分あったことなどが理由あげられられるでしょう。

また5%への消費増税を決めた96年当時、GDPデフレーターを見るとすでにデフレの兆しが出ています。97年にはデフレ下の増税となったことも大きな悪影響があったことでしょう。

・消費税には重税感があり、社会保障費負担はまだマシなのはなぜか
社会保障費負担は個人や法人の所得の一定割合から納める、直接税的な負担です。

一方、インボイス制ではない現行消費税は、名目上消費者が支払った税を納税業者が預かって支払うとなっているのに、実際にはバイイングパワーが強い購買者に値切られ、消費税を自腹で払う業者が多数いることが全く違います。 もらってもいない税金を払わせられる悪税、ということです