シェイブテイル日記2

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デフレ脱却の果実は大きいが問題は単純ではない

1997年にもしデフレに突入しなければ、10数年後の今、国民の所得は5割ほど伸びていたでしょう。
デフレ脱却もしていない今、更に消費税を上げるのは正気の沙汰ではありません。
ただ、消費増税を巡る現状を考えるとデフレ脱却も公務員制度改革なしには達成できないのかも知れません。

昨日の記事で、日本は世界で数少ないデフレ国であると同時に世界で唯一の名目GDP減少国だという事実を書きました。
   自ら名目GDPを減らす不思議の国・日本 - シェイブテイル日記 自ら名目GDPを減らす不思議の国・日本 - シェイブテイル日記

今デフレを脱却できたとしたら、名目GDP、ひいては国民の所得はどうなるのでしょうか。
これを考える上で、デフレが顕在化した1997年、もし消費増税しなかった等の理由で、日本がデフレに陥らなかった場合のシミュレーションが参考になります。

1997年以降日本経済はデフレ経済という異次元に突入

図表1 日本の物価と名目GDP推移
出所:物価(GDPデフレーター)、名目GDPとも、IMF WEO
1991年頃バブルが崩壊したが、まだ物価は維持・回復しつつあった。
1997年の増税により完全にデフレ経済に突入し今もまっただ中。

デフレ経済が15年以上続くなどというのは現代世界全体のみならず、世界金融史上にも殆どない事例です。

もしも、1991-97年の低いながらもプラスの物価上昇・名目GDP成長が現在も続いていたら、一体どうなっていたでしょうか。

デフレになっていなければ、名目GDPは現在の5割増し

図表2 日本がデフレでなかった場合のシミュレーション
作図(赤丸):図表1の1991-97年の年平均物価上昇率、名目GDP伸び率
を2013年まで外挿したもの。

図表2の簡単なシミュレーションから、1997年の消費増税をせずに日本がデフレではなかった場合、現在では名目GDPは現状の480兆円ではなく、700兆円足らずにまで増えていただろうと思われます。この間の増加率は1.3倍です。これでも日本(0.9倍)につぐ世界第二に名目GDP伸び率が低かったドイツ(同1.4倍)と同等以下です。

この状態であれば、雑駁な話、年収が480万円の人は700万円、240万円の人なら350万円もらえているはずです。いかに消費増税の負のインパクトが大きかったか分かります。

なお、この場合の年収増は正味の年収増に近い感覚でしょう。なぜならば、増税がなく、通貨が民間に留まり今よりも需要が大きければ、失業者や遊休設備も生産活動に従事できます。そして数量増よりもむしろ質(付加価値)が増加する方向で名目GDPが増加するでしょうから*1

◇どうすれば消費税増税が回避できるのか
もし、国民が消費税反対を叫び、首相官邸にデモをかければそれで消費税増税が回避できるのなら、これほどたやすいことはありません。

現実の政治の世界をみますと、あれほど消費税増税に反対をしていたリフレ派の山本幸三議員や、西田昌司議員でさえ今は増税派に堕ちています。

国会周辺のみならず、首相官邸内までも官僚が入り込んで、消費増税画策を続けていますから、ここを何とかしないと消費増税は止まらないかも知れません。

ここで一つの朗報は、首相官邸では以前放棄された「内閣人事局」制度を復活させようとして、10月の国会で制度化を図ろうという動きがあることです。

 人事院は先月8日、平成25年度の国家公務員の月給とボーナスを前年度から据え置くよう国会と政府に「報告」した。「勧告」を見送った異例の対応が注目されたが、人事院はその際に公務員制度改革に関する報告も提出し、内閣人事局に激しくかみついた。
…。
稲田朋美公務員制度改革担当相は先月6日、自民党行政改革推進本部の総会で、内閣人事局の設置について「安倍首相が第1次政権で目指した改革の再チャレンジだ。議論は尽くされており、政治を前に進めるべきだ」と述べ、改革を「後退」させない考えを表明した。
 稲田氏は、内閣人事局が管理する公務員の対象を、審議官級以上の約600人にする方針だ。与党側は、労働基本権が国家公務員に付与されていないことから官邸の人事権が強大化すると警戒する声があり、600人よりも減らすことで調整している。
  「内閣人事局」−公務員制度改革の柱、人事院は徹底抗戦 産経ニュース2013.9.17

記事によれば、現在は内閣人事局制度に対し、「政権VS人事院」と「稲田氏VS与党」というふたつの抵抗勢力が戦いを挑んでいるようです。

人事院や、官僚の息のかかった「与党」は、公務員制度は決していじってほしくないようですね。

ただ、今の、誰がやった不始末なのか、まったくわからない「空気で進める」官僚主導政治はもう長くは続けられないのではないかと私は思います。

例えば今後の官僚提出資料には日時だけでなく、作者・承認者の名前を入れ、後日良い政策につながれば、1年昇進を早め、逆にダメな政策を打ち出したら、1年昇進を遅らせるなど、インセンティブをつけることで、官僚たち自身のやる気が出る制度にもできるのではないでしょうか。

先日、大蔵省出身の御年82歳の元官僚氏が国の借金1000兆というのは誇大だと、当事者としてカミングアウトされていました。ちょっと長いですが、衝撃的な内容ですので全文を引用します。

 安倍晋三首相が来年4月に消費税率を予定通り8%に引き上げる方針を固めたと相次いで報じられた。財政再建社会保障のために増税やむなしとのムードが強まっているが、これに待ったをかける元大蔵官僚がいる。財務省が旧大蔵省時代に始めた増税キャンペーンの内幕を暴露し、「国の借金が1000兆円というのは過大な表現だ」と訴える。

 消費税をめぐっては国際通貨基金IMF)も13日に20カ国・地域(G20)首脳会合に提出した報告書で、消費税増税など財政健全化の取り組みを加速するよう訴えた。

 IMFは日本の財政問題増税の必要性について言及することが多いが、その裏側を告発するのは、大蔵官僚から衆院議員を務め、現在は東北福祉大特任教授の宮本一三(いちぞう)氏(82)。

 1966年から6年間、大蔵省からIMFに出向した宮本氏は「当時の対日勧告文は私が作成していた」と語る。その内容について「大蔵省の局長から直接命じられることはなかったが、意向は配慮していた」。現状についても「財務省の意見はIMFにも反映されているだろう」とみる。

 財務省はウェブサイト上で「国の財政は大赤字」「日本は厳しい財政状況」と強調するが、宮本氏は渡辺美智雄蔵相の大臣官房審議官当時、「財政危機」キャンペーンの基本政策を作った張本人でもあるという。

 当時のキャンペーンでは財政の健全性を最重要の政策目標とする方向で議論を展開したというが、宮本氏は「当時は景気も良く、インフレだった。デフレの現在も同じ路線を続けているのはおかしい」と批判する。

 「国の借金が1000兆円というのは実態より過大すぎる。為替介入に利用される借入金や、財政投融資特別会計の借入金なども含まれているし、普通国債の発行残高705兆円についても、100兆円分程度は年金基金など国の機関から借りたものが入っている。正味の借金は500兆〜600兆円程度」と宮本氏は分析する。

 宮本氏が財務省のデータなどを元に作成した日本政府の貸借対照表(バランスシート)=別表=をみると、国の負債は1000兆円を超えるものの、600兆円超の資産を差し引くと、実質的な赤字(純債務)は459兆円となっている。

 「米国の純債務は14兆7850億ドル(約1467兆円)もあり、日本の方が健全といえる」と指摘する宮本氏。それでも増税は必要なのだろうか。

   借金1000兆円は誇大表現! 元大蔵官僚の増税キャンペーン担当者が内幕を暴露  ZAKZAK2013.09.20

財政破綻キャンペーンの旗振りをした官僚氏本人だって、嫌なことをしたと思い、今のうちに身ぎれいにしたいと思われたのでしょう。やりたくもない財政破綻キャンペーンややりたくもない増税キャンペーンを省内の空気にやらされている面もあるのでしょう。こうした省内組織の力学にも配慮できないと、デフレ脱却は机上の空論に終わるのかもしれません。

*1:デフレの今は、その逆で数量はそう減らず、価格コンシャスで付加価値が減って質の低い製品が人気ですね。