シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

現代日本の政府債務膨張は異常か

日本の政府債務の危機的状況が言われるようになって久しくなります。
しかし歴史的あるいは国際的に見て、日本の債務膨張が異常とは言えません。
もし努力して政府債務を減らそうとすれば、思わぬ結果が待っているでしょう

最近の日本政府の粗債務残高は対GDP比で200%超とされています。


図表1は日本政府債務の超長期推移です。これを見ますと、1970年頃から政府債務が急増したようです。実際1965年から、戦後初の国債発行が始まっています。

日本政府債務は近年危機的に増えた?

図表1 日本政府債務超長期推移
出所:太線=内閣府統計局(1880-2002)、細線=IMF(1980-2012)
政府債務の定義の差から、同じ年でも両者は一致していない。
枠囲い部分は図表2に再表示。

ただ、1929年に遡り、浜口雄幸首相が国民に危機的財政状態を訴え、デフレ下の緊縮財政政策を決断した当時は政府債務の長期推移はどのようだったでしょうか。

1929年当時でも、政府債務増加は危機的にみえる

図表2 1929年時点での日本政府超長期推移
出所:図表1(太線)の枠囲い部分を1929年を終年に再描画したもの。
図表1ではまったくのフラットに見えるが拡大すると急増している。

当時のGDPは1996年ドルベースで一人当たり2000ドルとされています。これから算出すると、1929年当時のGDPは70億円。*1 当時の政府債務は対GDP比で丁度100%位だったのでしょう。

財政規律を重んじる浜口首相としては、日露戦争あたりから止めどもなく激増しているようなこのグラフを見れば、緊縮財政不可避と思えたのでしょう。
  ただ、その緊縮財政の結果は、といえば悲惨なものでした。
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さて、図表1を縦軸対数で再描画してみましょう(図表3)。

政府債務は指数関数的に増加してきた

図表3 日本政府超長期債務推移
図表1の縦軸対数表示。

対数表示で見れば、日本政府の債務も単なる単調増加であり、超長期の増加トレンド(破線)との比較では、1980年代後半以降はむしろ増加率が小さい位であることも分かります。 

図表4、図表5は、米国政府債務の通常表示と対数軸表示です。

米国政府債務も指数関数的に増えている


図表4(上) 米国政府債務推移 図表5(下) 同対数表示
出所:Wikipedia(History_of_the_United_States_public_debt)Tab7.1より筆者作成
第二次世界大戦前後での政府債務増加突出はあるが、
全体的には米国債務も指数関数的に増えている

資源国のように、政府債務が全くない国も多少ありますので、どこの国でも成り立つ法則とまでは言えませんが、日米だけでなく多くの国の政府債務は指数関数的に増えています。(図表6)

多くの先進国でも政府債務は指数関数的に増えている

図表6 先進国の政府債務推移
出所:IMF 縦軸:政府債務(自国通貨建)、1990年=1、対数表示。
先進国19カ国。赤線=日本、18カ国は緑濃淡線。
先進国の中で、日本の政府債務増加が突出しているわけではない。

ではどうして多くの政府債務は指数関数的に増加するのでしょうか。

これは数学的な話ではなく社会科学的な話ですので、単純な回答はないでしょう。
ただ、まず名目GDPが年率数%つまり、(1.0X)^Nといった具合に、指数関数的に増えます。

すると、同時に税収などの政府歳入と政府歳出も並行して指数関数的に増えざるを得ません。
もしも指数関数的に増えなければ、長期的にはその部門の比率は限りなく0に近づいてしまいます。

別の言い方をすれば、政府支出に係わる、社会保障費や政府職員給与が一国経済の中で0に向かうことになり、持続可能ではないでしょう。

政府支出の一部が国債など政府債務で賄われる場合(つまり普通の場合)、政府支出の増加が指数関数的であれば、政府債務(単年度)も指数関数的に増えます。そしてその累積値、政府債務残高には金利がつくことでやはり指数関数的に増える、ということになります。

裏返してみれば、これら政府債務にはマネーの貸し手がいて、貸したマネーには金利がつくことが当然とされていて、政府債務は(1+0X)^Nといった具合に、債権者からは無意識に指数関数的に増えることが元来期待されています。 

従って、指数関数的に増えることが多くの政府債務の性質である以上、多くの政府ではいつの時点でも「政府債務は過去最悪で危機的状況」と言えば言えるわけです。

◇政府債務の危機的状況を救うには
 財政健全性の一般的指標が政府債務の対GDP比率であることを考えれば、財政の健全性を保つには、分母の名目GDPを増やすことがひとつの解でしょう。


図表7 日本国の純資産・純負債ベースバランスシート
出所:日銀資金循環統計。 一旦日本全体のバランスシートを作成し、
純資産・純負債だけをのこしたもの。(2013年6月末時点、単位兆円)

図表7は、日本国全体の純資産・純負債バランスシートです。
家計資産が政府・企業・海外の債務を支えている様子が分かります。
ただ、見方を変えれば、政府・企業・海外が債務を負うことで家計に資産があるとも言えます。
バランスシートですから片側の資産だけ残し、債務を消すなどということは原理的に不可能です。

また図表7から分かることとしては、政府が債務肩代わりをせずに済むよう、企業が借り入れを増やせるように、インフレ転換して実質金利を引き下げる、円安誘導して輸出を増加させ、海外の債務、つまり対外純資産を増やすなどの方策も有効と考えられます。

アベノミクス第一の矢・金融緩和や第二の矢・財政出動はこれらの方策に合致しています。

一方、消費税増税といった、直接に政府の純債務を減らす努力をした場合、その努力とはつまり左側の家計純資産を減らす努力にほかならないことが分かります。 マネーは債務とともに生じ、債務が消えればマネーも消えるのです(図表8)。


図表8 資産と負債
家計・企業・政府日銀・海外の資産と負債の模式図。
これら四者のうち誰かが資産を持つためには同じだけ他の誰かが負債を負う必要がある。
また誰かの負債を削減すれば他の誰かから同額の資産が消える。

*1:日本の人口を7000万人、当時のドル円レートを2.32として算出。