シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

アベノミクスの方法論は再考が必要

デフレ脱却に向けたアベノミクスの主軸は日銀による長期国債大量買い入れを中心とする金融政策です。 ただ、これまでのパフォーマンスを考えると、デフレ脱却の方法論は再考した方が良いかもしれません。

現在の消費者物価指数(CPI)は、日銀が強調するようにコアCPI(生鮮食品除く)で0%後半ですが、コアコアCPI(生鮮食品エネルギー除く)はほぼ0%。寄与度をみても公共料金上昇が牽引する、いわば質の伴わない物価上昇に留まっています。景気回復が実感できる財については、ようやく7月に08年以来の上昇に転じたばかりです。
    物価:異次元緩和に黄信号点灯? - シェイブテイル日記 物価:異次元緩和に黄信号点灯? - シェイブテイル日記

また、消費税の影響を除いたブレイクイーブンインフレ率(BEI)の検討結果によれば、現在のBEIは消費税により0.5%程度のゲタを履いているようです(図表1)。それを踏まえれば現在のBEI約1.2%は消費税抜きなら0.7%程度でしかなく、市場関係者も現在のアベノミクスによる短期での2%インフレ率達成には懐疑的ということでしょう。

消費税の影響を除いた現在のBEIは1%を下回る。

図表1 BEIに対する消費税の影響
出所:消費税の引き上げと市場のインフレ予想
―消費税の影響を除いたブレーク・イーブン・インフレ率の算出 ― 日本総研 2013年8月13日 No2013-021
現在のBEIは更に下がって、1.2%程度。

消費税増税がなかったとしても市場では短期でのインフレ率2%達成が困難視されているわけです。 

このBEIにどこまでの政策が織り込まれているかも問題となりますが、現在進行中の異次元緩和について言えば、黒田日銀では月平均7兆円の国債買い入れ額や、2年後までに190兆円といった国債買い入れ額まで開示し、5月以降の決定会合ではそれを追認しているだけですから、毎月の決定会合後の記者会見で示される日銀の自信とは裏腹に、消費税抜きBEI0.7%には日銀の相当先までの緩和策まで織り込み済と見ざるを得ないのではないでしょうか。

来年4月に実施される可能性がある5→8%への消費増税は見た目はインフレを起こすように見えますが、実際はデフレ要因ですから、安倍首相が消費増税にゴーサインを出しでもすれば更にデフレ脱却は遠のくと考えられます。

そもそも、アベノミクスでのデフレ脱却経路は明確ではありません。
ひとつには円安・株などの資産高を通じた経路はありそうです。ただ、この円安資産高経路もその駆動力となると、安倍首相や黒田日銀総裁の「やる気」がメインエンジンなのかもしれません。

「今日銀が着々と積み上げつつあるマネタリーベースが円安資産高の駆動力だろう。」という方もいらっしゃるかもしれませんが、現実には日銀当座預金に積み上がったマネーの量と株価が直接相関しているわけではありません。 また、日銀当座預金には0.1%もの付利がなされていますから、銀行は安心して当座預金にブタ積みを続けているだけであり、株に投資をしてリスクを取ろうという銀行はありません。

なお、積み上がる日銀当座預金について「あれはブタ積みではない。日銀が買入れた国債からは巨額の通貨発行益が生じている。」という議論もありますが*1、市場から買いオペで買われた国債から生じる通貨発行益はその金利収入分だけであり、政府から日銀が直接買った国債から生じる通貨発行益(≒その額面)と「現在価値に直せばほぼ同等」と言う議論は乱暴過ぎるといえるでしょう。
    通貨発行益とは何か - シェイブテイル日記 通貨発行益とは何か - シェイブテイル日記

では、どうすれば政府日銀は高いインフレ期待を醸成してデフレ脱却ができるのでしょうか。
図表2は現在の黒田異次元緩和での物価推移と高橋財政期の物価推移を重ねたものです。

高橋財政では国債の日銀直接引受けにより大幅にインフレ率を上げることに成功した。

図表2 黒田異次元緩和と高橋財政期の物価推移
縦軸:物価(%) 出所:(高橋財政期の物価推移)東京小売物価指数、昭和恐慌の教訓:昭和恐慌前後の株価、生産指数、為替レートの推移(安達誠司・田中『平成大停滞と昭和恐慌』)
高橋財政期での国債直接引受け政策に比べると黒田異次元緩和政策での物価上昇ペースは緩慢。

高橋財政の中核政策は1932年11月に実施された日銀による国債の直接引受けです。
この政策によりマイナス域にあった物価は一挙に10%弱にまで急騰します。

同じ日銀による国債買入れでも、市場からの買入れではマネーは金融機関の日銀当座預金に積み上がったままですが、政府から直接買い入れた場合、マネーは直接政府に渡り、財政政策の原資となります。

通貨発行益の大きさから見ても、市場からの国債買入れは買入れた国債金利分に留まるのに対し、政府からの国債買入れではほぼ額面が通貨発行益となります。

要するにデフレの今、マネタリーベースという死に金を積み上げても、実質金利高という壁を越えて家計・企業に出て行く経路がないのです。 一旦政府にマネーを渡し、政府が積極的にマネーを民間に渡してこそデフレ脱却が可能となります。

それに対して現在のアベノミクスでは、金融緩和ではマネーブタ積み、財政政策では前年度並、そして消費税増税という大きな負の財政政策の組合せが実態ですから、インフレ期待に強く働きかける新たな政策を打ち出さない限り、デフレ脱却は夢に終わりそうになりつつあります。