シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

わずかな経済対策と消費増税という、いつかきた道

 マスコミでは消費増税の景気への悪影響を緩和する景気対策の規模について2兆円、あるいはそれ以上などと報道されています。*1
ただ、過去の2度の消費増税の影響について詳しく見てみると、わずか2-5兆円程度の経済対策で大丈夫という見方が「いつかきた道」であることが分かります。

まず、政府債務の推移と、消費税増税の過去の経緯を見てみましょう(図表1)。

財政危機が煽られて、消費増税への道がつく、の繰り返し
図表1 政府債務対名目GDP比と、消費税増税
出所:IMF WEO より筆者作成
1997年の消費増税では、金融危機を引き起こして58兆円もの経済対策が必要となり、
政府債務累増に弾みをつけた。

1989年の3%消費税新設は、もとを辿れば1982年の鈴木善幸内閣での「財政非常事態宣言」から始まっています。 

鈴木内閣は不況で税収不足なのに景気対策に迫られる窮地に立った。大蔵省は、鈴木政権の公約である1984年の赤字国債からの脱却を断念した。さっそく朝日新聞は「財政、サラ金地獄に」(1982年9月2日)とこの方針転換を批難した。
      経済コラムマガジン10/1/18(599号)

今から見れば、赤字国債を発行して、政府財源に充てるという全く当たり前の政策をやらざるを得なくなったに対して、時の鈴木善幸内閣は財政危機と捉えたわけです。*2

その後紆余曲折を経て、1989年に消費税3%が導入されました。ただ、5.4兆円の負担増とそれまでにあった物品税廃止(△3.5兆円)とが相殺され実質1.9兆円の増税にとどまったことと、当時がバブル期でプライマリーバランス(図表2)がプラスであったことから政府債務はその後数年間減りました。*3


図表2 日本のプライマリーバランス対GNP比推移
出所:IMF WEO

一方1997年の橋本内閣での3→5%消費税増税では経済環境はより悪化した状態での増税となっています。(図表3)

消費増税前年の経済状況は、創設時→橋本増税→今回と次第に悪化。
図表3 消費税増税前年の日本経済比較
出所: IMF WEO

図表3から前回の橋本増税、今回の消費税増税案は、デフレの中での増税という、経済原則に反したものであることが分かります。*4

この橋本増税前後で、プライマリーバランスに影響を与える要因をグラフ化すると図表4のようになります。

緊縮財政を目指した橋本内閣はすぐに方針を転換せざるを得なくなった。

図4 橋本増税前後のプライマリーバランスに影響する要因
出所: 定率減税の縮減とその影響 国会図書館 調査と情報第471号他から筆者作成

1997年の橋本内閣の消費税増税時には、消費税で5.2兆円、特別減税廃止で2兆円、社会保険料引上げと医療費負担増で1.4兆円、計8.6兆円もの増税を行っています。これと併せて公共事業も4兆円削減した結果、拓銀山一證券と立て続けに大きな金融機関が破綻する金融危機が発生しました。

慌てた橋本内閣は総合経済対策として16兆円規模の経済対策を策定せざるを得なくなります。(1998年4月実施) 経済政策に失敗した橋本内閣は98年に退陣し、後を受けた小渕内閣でも緊急経済対策(経済規模24兆円、98/11)、経済新生対策(同18兆円、99/11)と結局三回、58兆円もの経済対策が必要となりました。増税による税収増を期待した橋本緊縮財政でしたが、これほどの増税をして、国民を経済危機に追いやり、現在まで続くデフレを顕在化させたにもかかわらず、経済危機を乗り切るための財政政策を合算すると、1997年から2001年までの5年間で殆どプライマリーバランスへの影響としては行って来いで殆どゼロでした。

なお、今回の増税を支持する向きから、橋本増税で税収減だったのは当時減税を行ったから、という理屈を聞くことがあります。
確かに村山内閣で、消費税増税前の飴玉として5.5兆円減税がありましたし、経済危機に陥った1998年にも3.3兆円の減税がありました。しかし98年減税は橋本緊縮財政が引き起こした経済危機があまりに厳しかったために実施されたものです。減税が先行したならば、当時は景気がよかったかもしれません。しかし実際のところは、減税にもかかわらず日本の名目GDP成長は1997年で折れたように止まり、デフレが顕在化しています。

さて、もう一度図表1を見てみましょう。 今から思えば、1975年、1982年を「経済危機」と思う人は誰もいないでしょう。
時の政権はそれぞれ財政危機だと思ったし、1929年には一人あたり90円の政府債務でさえも十分緊縮財政の理由と思ったわけです。
  (昭和恐慌は「一人当り90円の借金」を返済しようとして発生した - シェイブテイル日記 昭和恐慌は「一人当り90円の借金」を返済しようとして発生した - シェイブテイル日記

しかし、必要と思われた緊縮財政の結果、1929年には浜口雄幸首相が昭和恐慌を引き起こしましたし、1997年にも橋本首相が金融危機を引き起こしました。

そして、現在の経済状況は橋本首相が消費増税に踏み切った頃より一層悪くなっています(図表3)。 *5
それなのに、今から数年以内には多くの増税が予定されています(図表5)。 *6

では政府は本当はどうするべきなのでしょうか。

図表6は日本国全体のバランスシートです。家計・企業・政府・海外の四者の資産と負債がバランスしています。
更に分かりやすいように図表6から純資産・純負債だけのバランスシートを作ってみました。(図表7)
 
図表7日本国全体のバランスシート、図表8同純資産と純負債で見たバランスシート
出所:日銀資金循環統計から筆者作成

図表8のように、家計の純資産が、政府と企業と海外の純負債とバランスしています。 

現代のおカネは負債を背景に発行されているのですから、家計純資産が残り三者の負債を支えているという見方の他に、「家計純資産があるのは残り三者が負債を負っているお蔭」、という考え方もできます。両者は同じことの裏表です。
緊縮財政、つまり政府負債を減らす努力とは、結局家計純資産を減らす努力に他ならないのです。

デフレ脱却のために必要なのは強力な金融政策と同時に強力な財政政策です。
経済危機を引き起こした後で数十兆円の経済対策をするくらいなら、デフレ脱却のために数十兆円の経済対策をするべきです。景気が回復するならば、名目GDPという分母を大きくして、税収を増やすので、政府債務対GDP比は下がります *7 。

現在が高インフレ気味で、家計資産を犠牲にしてでも景気を冷やす必要がある時期なら増税・緊縮財政は理解できます。
ですが、今は全く逆に、デフレ不況脱却のために何でもすべき時です。そのためのアベノミクスであり、ここで増税に踏み切れば、デフレ経済でのリストラ、賃下げ、自殺多発は更に後10年覚悟せねばならないでしょう。失われた20年を失われた30年にしないためには、安倍首相はたとえ消費増税1%であっても、増税にゴーサインを出してはならないのです。

*1:消費増税対応、補正の規模が焦点 上積み求める声 政府が景気下支え策検討 日経新聞 2013/9/11,消費増税「2%」分実質還元…首相、苦肉の判断 読売新聞2013/9/11など

*2:更にその前の1975年の大平内閣でも財政危機宣言が出されています。

*3:http://www.bk.mufg.jp/report/ecorevi2013/review_20130417.pdf

*4:2013年GDPデフレータIMFの予測値です。直近8月時点でののコアCPIは+0.7%、コアコアCPIは0.0%です。CPIに上方バイアスがあることから現在のGDPデフレータは実際にもマイナス圏内と考えられます。

*5:橋本龍太郎内閣時代と比べた場合のプラス要因、黒田日銀の異次元緩和が当初予定の成果は上がっていない点については、物価:異次元緩和に黄信号点灯? - シェイブテイル日記 物価:異次元緩和に黄信号点灯? - シェイブテイル日記を参照ください。

*6:全角度取材「家計崩壊に備えよ」次は復興増税!あなたの預金が狙われている 現代ビジネス 2012年06月27日(水)

*7:2003−2007年頃がそうでした;図表1参照