シェイブテイル日記2

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CPIの歪みで高止まりする医療費

ふたつの物価指標、消費者物価指数(CPI)とGDPデフレーターに差が出る原因は統計手法の差からくる計算式の違いという総務省の説明は不完全で、デフレ状態での差のかなりの部分は下級財シフトの反映です。
デフレの実態を表す物価指標は消費者物価指数(CPI)ではなく、GDPデフレーターや東大日次物価指数です。
正しい物価を反映しないCPIで公定価格が決まることで医療費はデフレでも高止まりしています。

9月8日の日経新聞で、ふたつの物価指標の乖離について書かれています。

 安倍晋三首相は20カ国・地域(G20)首脳会議で「日本経済はデフレ状況ではなくなりつつある」と説明した。消費者物価指数(CPI)が7月まで2カ月連続で前年同月比プラスになったことが大きい。一方で経済の総合的な物価動向を示すとされる「GDPデフレーター」は4〜6月期まで15四半期連続のマイナスが続く。物価を巡る2つの指標の違いは、何を意味するのか。
…。
デフレ脱却へ向け「2年で2%上昇」の物価目標を掲げる日銀。採用する指標は、家計の実感に近い物価動向を示すCPIだ。国内の幅広い品目の価格動向を調べ変化を指数化して表す。生鮮食品を除いた総合指数で、7月には前年同月比0.7%増と2008年11月の1.0%以来の高さとなった。ガソリン価格や電気代など円安によるコスト上昇が効いている。

 これに対して、GDPデフレーターは計算方法が異なる。GDPが「内需」と「輸出」の合計金額から「輸入」金額を引いて計算するのと同様に、GDPデフレーターも「国内物価」と「輸出物価」指数の合計から「輸入物価」指数を引いて出す。

 つまり原油高など輸入物価の上昇は、CPIとは逆にGDPデフレーターの下落要因になる。輸入物価上昇に伴うデフレーターの下落は、輸入物価の上昇分を国内物価と輸出物価に全て転嫁しなければ解消しない。
   デフレ脱却探るニッポン、相反する2つの指標 消費者物価プラス、GDPデフレーターは下落
日経新聞 9月8日朝刊

総務省ではふたつの物価指標の差について次のように説明しています。

消費者物価指数GDPデフレーターの最近の動きを比較すると、GDPデフレーターの方が下落幅が大きくなっています。この乖離については、対象の違いによる要因が大きく、他に算式の違いなどの要因も考えられます。

(1)対象の違い
 消費者物価指数は家計消費に対象を限定している一方で、GDPデフレーターは家計消費の他に設備投資なども対象となっています。設備投資は品質向上が著しいIT関連財の比率が高いことから、これらの下落による影響が大きくなります。このため、GDPデフレーターの変化率の方が、CPIの変化率より低くなっています。
 また、石油製品などの輸入品価格が上昇している中では、消費者物価指数はその分上昇するのに対し、GDPデフレーターでは製品価格に全て転嫁されない限り、下落に働くため、両者の乖離幅は大きくなります。
 なお、両指数をできるだけ同じ対象範囲にして比較するため、消費者物価指数の総合とGDPデフレーターを家計最終消費支出に限定した指数の間で動きを比較すると、両者はほぼ同じ動きをしています。

(2)算式の違い
 消費者物価指数はラスパイレス算式、GDPデフレーターはパーシェ算式を採用しています。一般に比較時点の数量ウエイトで加重平均するパーシェ算式は指数が低く、基準時点の数量ウエイトで加重平均するラスパイレス算式は指数が高くなる傾向があります。また、品質向上は数量の増加とみなされるので、パー シェ算式の場合、品質向上で下落した品目のウエイトは拡大します。このため、パーシェ算式を用いているGDPデフレーターは下落率が大きくなります。
 なお、GDPデフレーターはできるだけ指数算出に伴うバイアスを軽減することができるようにウエイトを毎年更新する連鎖方式により作成されています。消費者物価指数についても参考系列として連鎖方式による指数を作成・公表しています。
  総務省統計局 消費者物価指数に関するQ&A

では、実際にこれらふたつの物価指標は日本ではどの程度差があったのでしょう。(図1)
CPIには上方バイアスがあり、それはデフレ期に拡大する

図1 日本のGDPデフレーターとCPI推移
出所:IMF
45度線(破線)と比較すると、インフレ期(1980−1995)では
CPIがGDPデフレーターを上回る上方バイアスはあるものの、それほど大きくはなく、
デフレ期(1995−2012)では上方バイアスが拡大している。

総務省が挙げたふたつの物価指標の差、いわゆるCPIの上方バイアスの原因は、インフレ期・デフレ期に関係がないはずですが、実際には明らかにデフレ期に物価指標の差が拡大しています。

要するにデフレ期にはCPIはあまり下がらないが、GDPデフレーターは大きく下がっていくのです。
その意味とは何なのでしょう。

CPI、消費者物価指数では、同じ商品の組み合わせを翌年買うならいくらかかるか、という考え方で指標化しています。
一方、GDPデフレーターの場合、買われる商品の組み合わせは、経済実態の通りとして計算します。

デフレでは高級衣料品が売れず、代わりにユニクロがはやり、高い野菜の代わりにモヤシが売れます。 レストランに行く代わりに食堂で済ませ、食堂の代わりにコンビニ弁当で済ませ、更には手弁当で済ませてデフレで減った所得に応じて買われるものが変わっていきます。
パチンコ・競馬などに行く人が減り、変わってお手軽な

経済学ではデフレで買われなくなる方の商品・サービスが上級財、代わりに買われる方の商品・サービスが下級財と呼ばれています。
デフレでは下級財シフトが起きているわけですね。つまり、デフレ期のCPIの大きな上方バイアスのかなりの部分は下級財シフトで説明できることになります。

デフレ→企業売上減→給与所得減→下級財シフト→デフレ
というサイクルでデフレが進行しているわけです。

一方、勤労者の負担が重いといわれる医療費は、公定価格として国が決めています。
物価指標ふたつと、医療費、平均サラリーマン所得を並べて表示すると図2のようになります。

サラリーマン給与はGDPデフレーター並に下がるが、医療費はCPI以上に高止まり

図2 物価推移と診療報酬・サラリーマン給与推移
出所:物価=IMF、診療報酬= 診療報酬の推移、サラリーマン給与=サラリーマン平均年収の推移(年収ラボ)
いずれも1998年を100として指数化。

サラリーマン給与はデフレを正しく反映するGDPデフレーターに沿って下がっていくのに、CPIは指標の問題からデフレを正しく検出できず、高い数値となっています。 診療報酬は、医師会の政治力もあってか、そのCPIより更に高止まりしてしまっています。

政府支出に対する医療費の負担が大きいと言われて久しく、その原因は単に高齢化進展と決めつけられています。
しかしデフレ日本では、政府・日銀が主に指標として用いるCPIよりも、GDPデフレーターや物価の歪が現れにくい東大日次物価指数*1の方がデフレの実態を表しており、政府が決める診療報酬などの公定価格では、デフレの実態を反映して大幅下方改定が必要でしょう。