シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

通貨発行益とは何か

政府の収入、いわゆる歳入の源はどこにあるのでしょうか。
歳入=税収+国債ですか? いいえ。ちょっと違います。
歳入=税収+国債通貨発行益です。
ではその通貨発行益とは一体何なのでしょうか。
この重要な政府歳入源を知るか知らないかで、政府の財政に対する考え方は大きく異なってくるのは間違いありません。

(今回は少々難しい内容ですので、細かい点は省いています)

通貨発行益については、経済学者の間でも合意に達しているわけではありません。
(1)通貨を増やせばそれが通貨発行益だ派
 リフレ派の論客、高橋洋一嘉悦大学教授(大蔵省出身)は通貨発行益は、政府貨幣でも日銀券でも通貨を増やせばその殆どが通貨発行益だという主張をしています。

金利がゼロなら貨幣と国債は完全代替物となるといえるが、実際には金利はゼロでない。だからこそ、マネタリーベースのところはシニョレッジ(通貨発行益)が発生するが、国債には発生しないのだ。これをイメージしやすくしたものが、実は政府通貨のアイデアである。会計上の違いによって、シニョレッジ(通貨発行益)の計上は、日銀の量的緩和では各期の利払い相当額、政府通貨発行では当期に全額となっているが、現在価値ベースでみれば両者は同じ。要するに、マネタリーベースの増加額がシニョレッジ(通貨発行益)になる。
   【シニョレッジ(通貨発行益)を見落としている量的緩和「懐疑論」の誤り

もうひとつはこちらです。
(2)通貨を増やしても通貨発行益は金利分しかない派
 一方、國枝 繁樹・一橋大学准教授(こちらも大蔵省出身)は、通貨発行益とは、日銀が増やした通貨で買い取った国債などの資産の金利だけだと主張しています。 
   【「政府紙幣発行で財政再建可能」のウソ
 

 更にはもうひとつの考え方も。
(3)コインと日銀券では異なる派
 深尾光洋・慶應義塾大学教授(日銀出身)は、通貨発行益とはコインの場合のように「通貨を増やせばそれが通貨発行益」という場合と、日銀券の場合のように「通貨を増やしても通貨発行益は金利分しかない」場合の両方があるとしています。
  【深尾光洋の金融経済を読み解く 9月1日 通貨発行益とは何か

大蔵省や日銀出身の大学の先生でもこれほど意見が違うのは、通貨発行益というものが普段私達がほとんど見聞きしない概念だからでしょうか。

仮説として筆者が考えた定義ですが、通貨発行益について、次のように考えればスッキリするのではないでしょうか。
 「通貨発行益とは、通貨を発行したことで政府がその年に得た利益」  *1
読むとこれでもまだ少々ややこしいですね。でも具体的に考えればすぐに分かります。


【1】政府がコイン(政府貨幣)1億円を発行し、通貨発行益を得た。
この場合、大変単純で 通貨発行益=額面−製造費用です。例えば500円玉(製造費用43円)を1億円発行すれば、9,140万円と、ほぼ1億円近い通貨発行益が政府に入ります。先ほどの仮説の考え方にもあっています。

【2】日銀が市中から国債を買って、紙幣(日銀券)を払った。
これが意見の別れるところです。 日銀が国債を買うと、日銀券で(買った国債金利)が1年間の日銀の利益です。そしてその大半を政府に国庫納付金として納めます。
従って、通貨(日銀券)を発行したことで、政府がその年に得た利益はコインの場合とは異なり、おおよそ(買った国債金利)です。国債を1億円買って、金利が1%なら年100万円の通貨発行益となり、先ほどのコインの場合より随分発行益が小さいことがわかります。

なお、同じ通貨発行益といっても、コインと中央銀行券ではここで説明したように内容が異なるにことついては先日少し触れたカナダ銀行の一般向けパンフレットでも説明されています。*2

 高橋洋一氏の主張は、日銀券で1億円分国債を買った場合、未来永劫持つとすれば通貨発行益は合計1億円になるという主張ですが、未来永劫持つという前提や、会計の原則が1年単位なのに、無限の金利収入を先取りする、という部分に無理があります。

 逆に國枝氏の主張では、通貨発行益を高名な学者が言うから(名目金利)×(実質貨幣残高)だ、と決めつけていますが、大蔵省出身なのに、中学生でも直観で理解できるコインの通貨発行益を無視しています。

 結局、ロジックとして正しいのは3人の中では深尾説(コインと日銀券では異なる)だと言うのが私の結論です。

 ただ、深尾氏は日経新聞の経済教室*3では国債とは全くことなる政府紙幣を、必ず回収せねばならない実質債務とみなす、無理な前提をおくことで、政府紙幣による通貨発行益は実際にはない、というロジックジャンプと荒唐無稽な結論を導いています。 これは2009年時点での白川日銀という古巣が言わせた妄言なのでしょう。

1.歳入=税収+国債通貨発行益 です。通貨発行益は無視できない重要な財源です。
2.通貨発行益には、コインなどから来る大きな通貨発行益と、中央銀行券から来る小さな通貨発行益があります。

取り敢えずはここまで分かっていただければまずは十分です。

さて、もう一つ例を。実はこれが最も議論が別れるケースです。
【3】日銀が政府から国債を買入れ、日銀券1億円を払った。
この場合も、政府の通貨発行益は(名目金利)✕(国債量)で100万円程度でしょうか。
しかし、この場合【2】とは異なり、政府が得る利益は、日銀の金利収入を介して得たものではなく、コインと同じく単純に額面−製造費用ですね。1万円の製造費用が22円なら、この場合の通貨発行益は一時に9,978万円となります。
政府が日銀に買入させた国債を放置するのか、買入れて消却するのか、途中で市中消化するのかはこの取引では未定のため、政府が国債を日銀に買入れさせると、国債と言う名前とは裏腹に、一旦債務性も消失しています。 要するに見た目とは異なり【3】は、【2】ではなく、【1】とほぼ同じ取引による通貨発行益ということです。

以上から重要な結論です。

日銀が国債を市中から買い入れる場合と、政府から直接買い入れる場合では通貨発行益の大きさが全くことなります。 市中から買う場合には、小さな通貨発行益、(名目金利)✕(国債量)ですが、政府から買う場合にはコインと同じく大きな通貨発行益、(額面)-(製造費用)を得ることができるというわけです。

*1:「その年に」というのは、会計が1年単位であるため

*2:http://www.bankofcanada.ca/wp-content/uploads/2010/11/seigniorage.pdf

*3:日経新聞2009年(平成21年)2月10日1火曜日23面