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日本国債の”This time is different”論

 バブルとその崩壊、銀行危機、通貨危機、インフレ、対外債務、体内債務のデフォルトといった金融危機を過去800年間の事例で捉えたラインハート・ロゴフ著「国家は破綻する」の原著名 ”This time is different”は、なかなか意味深長なタイトルです。

アメリカの大恐慌前やリーマン・ショック前もそうでしたが、長期好景気の最中には「景気循環は終わった」「もう不景気は来ない」といった論調が浮上したりします。

 そしてその数年後には、大恐慌リーマン・ショックのような大景気変動に見舞われ"This time is different"と思われた景気も実は17世紀オランダのチューリップバブルと余り変わらない金融史の一局面だったことが後から分かります。

一方、マスコミなどが日本の政府債務不履行の懸念を差し迫ったように真顔で語るのは、逆の意味での"This time is different"論です。

 確かに外債の破綻事例は数多く、また内債に限っても「国家は破綻する」では1970年以降だけでも40数例の内債破綻事例が紹介されています。(図表1)
 
   

図表1 現代の国内債務のデフォルト・再編事例
「国家は破綻する」表7.4の内債破綻事例(1970-2008)を原因別に分類したもの。

 現代の内債破綻事例で最も多いのが内戦などに伴う政情不安です。(26/43例)
アフリカなど内戦やクーデターが多い地域では、前政権による内債を次の政権が反故にする、といったことが少なくないのでしょう。

 次に多いのが中南米諸国で頻発した、内債だがドルペッグの債務がドル不足で不履行になるといった(丁度ギリシャがユーロ債を抱えているがユーロを自由に発行できないのと同様)、実質的には外債とみなせるような事例です。(13/43例)

 インフレ亢進による債務不履行は意外に少なく、2006年のジンバブエなど4例に限られるようです。 ただ、政情不安や実質外債に分類した各事例を見ると、年率数十%程度のインフレが複合している事例は少なからずあります。

 日本の1000兆円を超える政府債務について考えると、内戦などでの政情不安は現実的ではなく、また中南米のドルペッグ債やギリシャのユーロ債とは全く状況が異なります。

 強いてあり得る、といえばインフレ亢進ですが、現代日本は供給力があり余り、15年越しのデフレになっていますので、アベノミクスでの強力な金融緩和でも2年後といわれるマイルドインフレを飛び越えて、いきなり高インフレになる、というのは考えにくい話です。 

30年前の鈴木善幸内閣時代からマスコミなどが垂れ流す、金融史での内債破綻事例を無視した「今回こそ日本は破綻する」論では、一体どんな経路を想定した話か一度きいてみたいものです。

国家は破綻する――金融危機の800年

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