シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

デフレ期にはマネーストックとCPIは無関係

【要約】
・デフレ期に絞ったデータからは、CPIと2年前のマネーストック(MS)の間には全く何の相関も認められませんでした。
・現在のアベノミクスはあまりにマネタリーベース供給策に偏り、第二の矢、財政政策は著しく消極的です。 
 


黒田日銀では現在大量のマネタリーベースを市場に供給しています。直近のマネタリーベース残高は163兆円です(2013年6月現在)。 この金額は過去最高額ですし、対前年同月比伸び率も1980年以降の最大であった2002年4月の+36.3%にほぼ匹敵する+36.0%となっています。

これだけ大量のマネタリーベースを供給しているのは、それにより民間に流通するマネーであるマネーストックを増やし、その結果、物価例えばCPIを2%にまで引き上げようということと理解されます。

実際、高橋洋一氏は ”ついに「日銀理論」も風前の灯火! アベノミクス効果で金融資産が増加すれば、消費は確実に増加する!” (現代ビジネス ニュースの深層2013年03月11日)で、「CPIと2年前のマネーストックが相関係数0.89という高い相関を持つ」ことを指摘しています。

同記事に載っている、CPIと2年前のマネーストック(MS)の比較の図(図1)を見ますと、確かに高い相関がありそうです。


図1 CPIと2年前のマネーストック
出所:現代ビジネス ニュースの深層2013年03月11日
記事によれば、"1969年度から2011年度の期間では、CPIと2年前のマネーストックとの間の相関係数0.89”とされている。

この相関係数を直接確認したかったのですが、残念ながら私がアクセスできるネットからでは、CPIは1970年から、マネーストック(以前はマネーサプライ)は1980年からの情報しか手に入りませんでした(CPIは総務省ウェブサイト、マネーストックは日銀ウェブサイト)。 そこで中途半端ではありますが、上の図1からCPIと2年前のマネーストックを概数で読み取り、両者の相関係数をを見てみました(図2)。

高度成長期から現在までのデータではCPIと2年前のMSには高い相関がある

図2 CPIと2年前のMSの相関係数1
出所:CPI=総務省ウェブサイト、MS=日銀ウェブサイト(紫)。
情報が不足した1980年以前のデータは図1より概数を記載(オレンジ)。

図2の相関係数、0.78は、高橋洋一氏の算出した0.89よりは多少落ちるものの、概数計算ですからまあ妥当なところではないでしょうか。

ただ折角の分析に概数を入れれば、説得力が落ちますので、データが実際に取れる1982年以降のデータだけで相関係数をとってみました。(図3) 
すると、相関係数が図2の0.78から0.54に落ちてしまいました。

1982年以降のデータでは相関係数が図2の0.78から0.54に落ちた。

図3 CPIと2年前のMSの相関係数2
出所:CPI=総務省ウェブサイト、MS=日銀ウェブサイト
図2から概数をプロットした部分(オレンジ)を抜いて分析した。
分析期間は1982-2012年。

更に、現在はデフレですから、デフレ期の1996年以降のデータに絞って相関係数をとったのが図4です。

デフレ期に絞れば、CPIと2年前のMSには相関が見られない

図4 CPIと2年前のMSの相関係数3
出所:前図に同じ。
データは図4は図3の一部、図3は図2の一部という「入れ子」になっている。

デフレ期に絞ってデータを取ると、CPIと2年前のMSには全く何の相関も認められませんでした。

考えてみるとこれはそう不思議な結果ではなく、デフレの罠とは無関係な、好況インフレ経済の場合、中央銀行がマネタリーベースを供給すれば、すぐに借り手が現れ(マネーストック増加)、これが設備投資などに回って物価が上がり、逼迫している人件費も上がるでしょう。

ところがデフレの罠の中にあるデフレ経済の場合、中央銀行がマネタリーベースを供給しても、国債を買うか、市況が良ければ株式を買う位で、デフレなのに設備投資や雇用に投資をする経営者はまだ限られるのではないでしょうか。 こう考えると、現在の日本で物価を上げるルートとは、マネタリーベースの量とはあまり関係がない、「日銀のやる気」が駆動する円安や株高位という気もします。

デフレの罠の中にある日本で、確実に民間非金融部門にマネーを供給するとすれば、CPIとMSとの間に相関がない以上、財政政策によるしかないと思われます。
ただ、小渕政権・森政権などによる大規模な財政政策は、当時の日銀が金融を引き締めていましたから、あまり効果はなく、投じた金額がすぐに貯蓄されてしまいました。

しかし、現在は黒田日銀による異次元緩和がありますので、マンデルフレミングが予想するような円高や高金利を引き起こさず民間にマネーが浸透するでしょう。

ところが、現実のアベノミクスをみてみますと、平成25年度予算一般会計歳出額は対前年比でわずかに2.3兆円(2.5%)増に留まっています。
効果不明のマネタリーベース増加策には100兆円単位のマネーをつぎ込む一方、肝心の民間非金融部門へのマネー供給増はごく限られています。
これはほぼ小泉内閣から第一次安倍内閣にかけての「金融緩和+緊縮財政」を再現したもので、あの時には少なくとも2003年から2006年までの4年間の金融緩和で、CPIもGDPデフレータもピクリとも動かぬデフレでした。

黒田日銀が大量の国債を買い切りオペしている現在、日銀が保有する大量の国債については金利は政府に還流しますので、実質政府債務ではなくなっています。 従って黒田日銀の異次元緩和が実施される今こそ、新発国債で大規模な財政政策を実施する好機といえるでしょう。

それにもかかわらず、麻生財務大臣は昨日も「予定通りの消費税増税」を口にしています。
こんな第二の矢が逆向きについたようなアベコベノミクスで、本当にデフレ脱却なんてできるんでしょうか。