シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

デフレを脱却すれば財政は悪化するのか

現在日本ではアベノミクスで景気が上向きつつあります。
しかし、日本の政府債務はあまりに巨額であり、今後景気回復が進めば金利上昇により利払い費が急増し、却って財政破綻してしまう、という議論があります(例えば、金利ボーナスを消失する日本の財政住友信託銀行 調査月報 2011 年 9 月号)。

そこで今回は上記研究(以下「同研究」)を起点に、アベノミクスによりデフレを脱却して景気回復が進めば、財政はどうなるかを考えてみたいと思います。

同研究によれば、純利払い費と純債務残高の国際比較をすると、日本を除いた場合、両者の間には正の相関があります(図1)。

純利払い費は純債務残高と正の相関がある
図1 純利払い費と純債務残高の国際比較
出所:住友信託銀行 調査月報 2011 年 9 月号 http://www.smtb.jp/others/report/economy/stb/pdf/725_3.pdf:title=金利ボーナスを消失する日本の財政]
デフレ日本は、純利払い費と純債務残高の正の相関関係のグラフの外れたところに位置している。

 日本だけはこの相関図の外れたところに位置していて、純債務残高が巨額な割には純利払い費は少なくて済んでいました(いずれも対GDP比)。 これは日本が世界唯一の長期デフレ国であり、名目金利が金融史上まれに見るほどの低金利にとどまってきたことによります。

ただ、アベノミクスによりデフレを脱却して現在のCPI=0%程度から、CPI=2%程度になるとした場合、デフレを脱却しても、名目金利はゼロ制約で「高止まり」してきた関係で物価だけ上がり金利はしばらく上がらない局面はあるでしょうが、デフレ脱却後時間が経過すれば、2%近く長期金利が上昇する可能性があります。

同研究では、金利が1%上昇した場合、プライマリーバランスの赤字幅が現在と同様であれば、2012年度の利払い費12兆円が2020年、つまり8年後には28兆円程度へと16兆円ほど増えるという結果となり、金利1%の上昇により年あたりほぼ2兆円程度の利払い費上昇が予想されるため「本格的な金利上昇前の財政再建が必要」と結んでいます。

 ただ、アベノミクスが進展して景気が回復した場合、プライマリーバランスの赤字幅が現在同様という前提は妥当なのでしょうか。

先週の産経新聞・日曜経済講座では、今年5月までの2012年度税収では、アベノミクスの景気回復効果によって税の自然増収があったことが報じられています。

アベノミクス」の景気回復効果によって税の自然増収に弾みがついてきた。

 財務省の統計によると、一般会計の税収総額は今年1月から増加し始めた。この5月分税収までを対象とする2012年度の一般会計税収は43兆9314億円で、前年度より2.6%、1兆988億円上回った。中でも、法人税収は同4.4%、4069億円増だが、実質的にはもっと増えている。12年度からは東日本大震災関連の復興特別法人税が徴収されるが、特別会計に区分けされているために、一般会計でいう法人税には含まれていない。それを合算すると、法人税収は実に同11.3%、1兆563億円増となった。さらに所得税収は同3.8%、5163億円、消費税収も同1.3%、1558億円増えた。

グラフは、税収と名目国内総生産(GDP)の前年度比伸び率を対比した。景気動向、つまりGDPの変動の波を大きく上回るうねりが税収で起きていることに気がつかれるだろう。12年度の場合、税収総額(復興特別法人税を含む)は名目成長率の12倍以上に達する。法人税収は34倍、所得税収は11.7倍、消費税は4.7倍となる。(後略)

産経新聞・日曜経済講座  アベノミクス効果で税収増 消費増税なしの財政再建可能 (編集委員・田村秀男氏)

田村秀男氏は、この記事後半でGDPの名目成長率1%に対する税収の伸び率、いわゆる税収弾性値について、「財務官僚はこれを1-1.1と言うが、実際にもっとずっと大きい」と指摘しています。 

記事中には残念ながら肝心の税収弾性値の記載がなかったので、記事中にある名目成長率と税収伸び率の相関(上図)から両者の相関をプロットしてみました。(図2)

デフレ日本の税収弾性値は3以上か

図2 名目GDP伸び率と税収伸び率
産経新聞・日曜経済講座  アベノミクス効果で税収増 消費増税なしの財政再建可能の図から筆者作図
横軸:名目GDP対前年比伸び率、縦軸:一般会計税収対前年比伸び率。

図2から、この15年デフレの平均でも、税収弾性値は3よりも大きな値と考えられます。
仮に税収弾性値をこの図の傾き3.2とした場合、アベノミクスが実現し名目GDP伸び率が3%になれば、税収増は年9.6%に達します。つまり現在の税収が43兆円であれば、年4兆円以上の税収増となります。デフレ脱却が実現して、資産の名目価値にもインフレが及べば、固定資産税などからの更なる自然増収もあるでしょう。

これに対し、名目金利上昇に伴う利払い費増はプライマリーバランス改善考慮前ベースで金利1%あたり年2兆円ですから、インフレ転換による自然増収は利払い費増と少なくとも同等か上回ると予想してよさそうです。

インフレ転換に伴う名目GDP成長率上昇による税収増と金利増加による利払い費増を比較すると、税収増が上回るとなれば、最初に触れた住友信託銀行研究の結論、金利増に備えた財政再建必要との説は根拠を失うことになります。

産経新聞・田村秀男氏によれば、日本のシンクタンクでも税収弾性値を3以上と見ているところはあるものの、税収弾性値を1-1.1とする「財務省に遠慮をして」これを公表しないのだとか。

正しい税収弾性値をねじ曲げてでも増税を実現したがる財務省財務省ですが、その無言の圧力に屈して正しい税収弾性値を公表できないシンクタンクというのも存在着が疑われるところです。

【2013.07.21追記】
・結論を整理しますと、税収弾性値が3を超えていることにより、国債費については税収増大>利子増大と推定され、金額減少が予想されます。歳出全体でみれば、インフレによりスライドして増額される費目が大半ですが、国債費が純減する中で、名目GDPが3%伸び、CPIが2%の伸びであれば、財政健全化の指標である政府債務/名目GDP比は次第に減っていくと考えられます。
・図2にR^2値を追記しました。