シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

財務省は財政健全性をどう捉えているか

 時事通信が7月上旬に行った世論調査で、政府が2014年4月に予定している消費税率5%から8%への引き上げについて「反対」と答えた人は63.1%にのぼりました。

ただ、同じ世論調査で賛成した人も35.4%に達しています。賛成の理由については「社会保障のために必要」が74.1%でトップ。2位は57.8%の「財政健全化が必要」だったとのことで、社会保障費などの歳出の持続性には財政健全化が必要の認識で痛みの伴う消費税に賛成していることがうかがえます。

このブログでも半年ほど前、日本の財政の健全度について取り上げていまして、特に内債である日本国債について以下のように分析しました。

【内債としての日本国債

 よく知られていますように、日本国債の保有者は、9割以上が日本国内居住者です。
 内債は、政府は国債を発行することに事実上制約がなく、またその国債を裏付けとするならば、中央銀行も無制限にマネーを供給できますので、しばしば「内債の破綻はあり得ない」と結論されています。

 ところが、ケネス・ロゴフ教授は「国家は破綻する」で過去800年間、66カ国に及ぶ経済史を分析し、1800年以降のデフォルト事例では、対外債務でのデフォルトが250件であるのに対し、内債でのデフォルト事例も70数件発生しており、内債でのデフォルトがそう珍しい事例ではないことを述べています。 廣宮孝信氏の「国の借金新常識」では、このロゴフ教授の大著と自身の分析から、背景分析がしやすい1970年以降の42例の背景を調べ、内債破綻は3つのパターンに集約されることを指摘しています(図1)。

図1 内債破綻事例(1970年〜)の分析
42件の内債破綻事例は、政情不安・実質外貨建て・高インフレ対応の3パターンに分類し得る。
もっとも多いのが、内戦などによる返済不能(25件)、ついでドルペッグ国など事実上外貨建て内債破綻(13件)
そして、高インフレに対応するための破綻(4件)。 内債破綻で、他の原因は知られていない。
詳しくは 内債が破綻する時とは 内債が破綻する時とは このエントリーをはてなブックマークに追加を参照のこと。

このロゴフ教授の経済史研究結果から考えると、内債が破綻することは実際にときどき発生するが、その原因は3種のみであり、これら3種の原因の中で、日本国債が近いうちに陥りそうな状況はないことが分かります。
   NHKスペシャル「日本国債」の本当の問題 - シェイブテイル日記 NHKスペシャル「日本国債」の本当の問題 - シェイブテイル日記

 では、日本の財政当局は、国民に、3割以上が痛みを伴う増税を受け入れるというほど財政健全度が低いと思われている日本国債についてどのように捉えているのでしょうか。

 日本経済のデフレ不況が深刻化し、株価も10000円前後で低迷していた2002年4月15日、格付会社スタンダードアンドプアーズ(S&P)は日本国債の格付けをダブルAからダブルAマイナスに格下げしました。 これに対し財務省は次のように反論しています。 (青字と欄外注記は筆者)

S&P宛返信大要    【英文

1. 貴社のウェブサイトにおける格付け分類基準等の説明は当然承知。しかしながら、我々が求めているのはこのような抽象的なものではなく、貴社が日本国債のデフォルトリスクが何故他の諸国より高いと考えるかの具体的・定量的説明である。 貴社の説明は、最近のレポートも含め、専ら日本の経済状況や政策の方向性についてのものであるが、各国のデフォルトリスクを差別化して分類している以上、格付けの差の客観的理由を説明すべき。このような説明の欠如は、ソブリン債の短い歴史や統計的正当性の不足ともあいまって、ソブリン債の格付けの信頼性自体への疑問を増大させよう。貴社のソブリン債のデフォルトリスクの計測に際しては、財政指標以外の経済のファンダメンタルズ等の要素はどのように考慮されているのか。

2. 貴社はデフォルトを「約定日に金融債務を履行しないこと、及び当初よりも不利な債券の交換」と定義し、最近発表のレポートでは「改革が実施され持続的成長が回復してもデフォルトを回避するには遅すぎるかもしれない」としている。しかし、このような想定は、日本のマクロバランスや国債の保有状況等を考慮に入れた場合非現実的であり、タイムスパンを明記しつつ、具体的にどのような事態が生じうるのか敷衍が必要。

 次のような要素は貴社の分析でどう考慮されているのか。
(1)日本国債は現在95%が国内でかつ低金利で消化されている。また、2001年は、一般政府部門の赤字32兆円に対し、民間の貯蓄超過は42兆円である。更に、当面経常収支の黒字は継続し、資本逃避のリスクも大きくない。従って、資金フロー上の制約はない。

(2) 近年自国通貨建て国債がデフォルトした新興市場国とは異なり、日本は変動相場制の下で、強固な対外バランスもあって国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい。

(3)貴社が示唆する債券保有者への負担の強制は、居住者が国債の95%を保有していることを考えれば、自国民への実質的課税に他ならない。通常の財政健全化策を疑問視する一方、金融市場を大混乱に陥れるような手段が採られると想定するのは非現実的。

3. 貴社はソブリン格付けにおいては、財政指標以外にも経済構造等種々の要素を勘案しているとする。しかしながら、現実には、財政指標以外の諸要素がデフォルトリスクの算定にどのように勘案されているかについて、依然明確な説明がなされていない。

(1)  最近のレポートにおいて各国比較を行っているとするが、格付けと関連付けて説明がなされているのは、財政指標のみである。他の指標については、客観的に格付けにどの様に反映されているのか論理的説明がなされていない。また、貴社は、「日本の経済ファンダメンタルズは他の同格付け国と同じくらい強い」としている一方、貴社の比較でも、むしろほとんどのAAA国を上回る強さであることを示しているが、この事実は貴社の日本国債の格付けに反映されていない。

(2)  マクロバランスとの関係では、貴社は「景気が回復し銀行の新規融資が増加し、金利が上昇すると財政赤字の削減は困難となる」としている。しかしながら、このような状況では、名目・実質双方の成長率が高まり、税収が増え、不良債権処理が促進されることから、むしろ財政再建を進める上では歓迎される。金利上昇の懸念のみを強調して、景気回復に伴うはるかに大きな効果を無視するのは適切でない。

(3) 貴社はユーロ加盟国では経常収支は重要ではないとしているが、これらの諸国においても国内の貯蓄を相当上回る投資の持続可能性は重要であるはず。また、ユーロ加盟国以外でも、経済水準や対外セクターの強さで日本と大きな差があるにもかかわらず、格付けの高い国があることは、財政指標のみで判断していることを示唆している。

(4)  かつての英・米との比較*1についても、貴社は財政赤字の大きさの比較のみによって正当化しようとしているため説得的でない。貴社は「ラ米危機*2前のIMFの役割は異なっており、主要株主(注:英国)がIMF資金に頼ったことをもって信用力が損なわれたとは見なかった」としているが、ポンドに対する信認低下が深刻なため、英国が国際収支支援のためにIMF融資を申請したことは否定できない。また、当時の英国の高インフレ・高金利は現在の日本とは対照的であるなど、財政赤字の大きさのみに囚われると、経済全体への視野を欠くこととなる。貴社は70年代に英国の改革が進展したことを前提としているようであるが、貴社が英国の外債をAAAとした78年当時は、30年近くに亘る英国経済の低迷が続いていた時であり、サッチャー政権の誕生は79年、改革が軌道に乗るのは80年代半ばである。これに対する明確な説明を期待したい。

4. 貴社は銀行システムの資本増強コストの相当部分を政府が負担する見込みがあるとしている。金融庁不良債権問題の大きさを十分認識し、金融部門の健全性を適切にモニターし確保するため各般の措置を講じており、また、我が国の金融機関は健全性の基準を満たしているため、公的資本増強の必要性はないと承知している。貴社は、特別検査がその範囲と対応策の点で限られているとしているが、金融庁が既に説明している通り、この検査は、強化された通常検査に加え、市場の評価に著しい変化が生じているの大口債務者の全てを対象として行われたものである。

デフレ不況のみならずエンロン破綻などで株価が1万円前後に低迷と、経済状況が今より悪かった2002年当時でも、日本国債デフォルトの恐れもなければ、ハイパーインフレの懸念もゼロに等しい、と財務省格付け会社に反論していたんですね。 更には景気回復による金利上昇についても、財政再建上懸念すべきではなく歓迎すべきことと指摘しています。

その後の変化といえば、デフレが更に長引いて、政府純債務総額が増えたことですが、それと並行して家計純資産が増えていった状況については先日データでご紹介しました。 
    消費税増税論者が必ず陥る勘違い - シェイブテイル日記 消費税増税論者が必ず陥る勘違い - シェイブテイル日記

増税をすれば当然景気は落ち込みます。 これに対し、財務省は景気が良くなれば税収が増えて財政再建上は好結果と述べています。

財務省も本当は全く懸念していない財政の健全性を心配して、自ら痛みを伴う消費税増税を受け入れると考える3割の国民。
財務省自身、格付け機関向けとは裏腹に、国民向けには同じウェブサイトでも危機を煽っていますから*3、そういう国民が一定数いることは仕方がないことですが、こうして見ていくと、その姿は健気とも言えるし滑稽とも言えます。

*1:筆者注:英国ポンド危機や米国双子の赤字に対して高格付けを維持したことを指すと思われる 

*2:筆者注:1994年メキシコ危機、1999年ブラジル危機などを指すと思われる。

*3:http://www.zaisei.mof.go.jp/movie/zaisei/