シェイブテイル日記2

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マネーの本質からみたインフレ目標政策の妥当性

 突然ですが、お金の価値とは一体何なのでしょう。 
 これは大昔から万人の心をとらえる疑問で、マルクスやら何人もの人々がその人の結論を出しています。

 最近でも、岩井克人東大名誉教授はお金の本質について、「貨幣の本質が誰の目にも明らかで、マネーという人の期待以外に支えがないもの」としています。*1

仮に、マネーを「期待以外に支えがないもの」という仮説を置いたとしましょう。 
すると、銀行の取り付け騒ぎなどを想定すれば、そうとも言えるし、通常の取引を想定すれば、そうでないとも言えます。 
またその仮説が正しいとしても、そのようなマネーの本質に関する仮説から貨幣経済において導かれる洞察はあまり無いように思われます。*2

そこで、紙幣に限って、その欧州での成立からマネーの本質について考えてみました。 *3

17世紀の英国では、金貨が流通していましたが、安全性の観点から、金庫を保有する金細工師、金匠(Goldsmith)に金を預け、代わりに受け取る引換証が誕生しました。(金匠手形:Goldsmith Note) *4

金匠手形−欧州での紙幣の発生
中世英国では、旅行者が盗難を避けるため、金匠に貨幣を預けていることを
証明する預り証を携行し、目的地で指定された金匠に提示して貨幣と交換して
貰うようになった。これが金匠手形で、1640年頃、紙幣として流通し始めた。
(出所:日本銀行金融研究所貨幣博物館 ウェブサイト


元々、金に対する引換証だった金匠手形を知恵者の金細工師達が、金庫に眠る金を背景に、その他の商品・サービスとの汎用引換証としても使ったのが紙幣の始まりであり、銀行の始まりでもありました。

これは、金庫の金といつでも換えられることで、その金と同価値の商品・サービス同士の交換に金匠手形(つまり初期の紙幣)が使われた、ということですが、しばらくすると、重い金庫の金が引き出されることは余りなくなります。

 すると、市場に出回った紙幣の他に、金庫には紙幣と同額の金が残っていることから、初期の銀行家は気がつきます。これを更に貸出し(いわゆる又貸し)しても問題はない、と。

こうして、原担保の価値よりも多い紙幣が流通することで、時折インフレ、あるいは取り付け騒ぎが発生する事態となりました。

ただ市場で流通する紙幣を受け取る人は、普段、銀行にある金の量や、その純度などには関心はなく、汎用引換証(紙幣)の真贋と、市場に汎用引換証の量に相応あるいはそれ以上の商品サービスがあるかが関心の中心だったと考えられます。

要するに、現代の汎用引換証である紙幣の価値は、信用創造という増倍過程を経ることにより、普段*5は発行体の担保(昔の金や債券値)の価値とは殆ど関係がなく、取引相手に紙幣を受け取ってもらえるかどうか、つまり紙幣が流通する市場での商品・サービスの量に担保されていることになります。

一言で言うならば、
紙幣とは汎用引換証
紙幣の価値の本質は紙幣が流通する市場にある商品・サービスの量

と言えるでしょう。
だからこそ、生産力が逼迫して財への需要が突出すると、インフレになるわけですね。
紙幣は元来引換証だったことから、引換える相手が金から置き換わった、商品・サービスが価値の源泉とは当たり前といえば当たり前の結論です。

ただ、こうして考えてみますと、
白川前日銀総裁らの旧日銀が、日銀券ルールと称して日銀券の量を、日銀が保有する国債量以下にしようとしていたことには何の意味があったのか、とも思えます。
逆に、旧日銀が唱えていたように、日銀券の価値の源泉が本当に国債の価値であったとすれば、4月から5月にかけての大幅な国債の下落に対して、日銀券の購買力は減少し、日銀券の価値は日々下落するはずですが、街で買い物をする主婦はそんなことは全く知らないか気にもかけず、1万円では1万円分の商品・サービスが買え、皆気軽に買い物をしています。

現日銀が正しく日銀券の価値を守ろうとするならば、市場に流通するマネーの量と商品・サービスの量との相関から決まるインフレ率を注視し、マネー量を適切に調節することが肝要ということになります。
筆者の率直な感想を言わせてもらえれば、現在の黒田日銀はマネーの価値の本質を知っており、旧白川日銀は知らなかったのではないかとさえ思えます。
これが少々言い過ぎだとすれば、白川日銀では、経済成長に見合う量の通貨を供給しようとせず、日本経済のデフレを招いたものの、自ら招いたその災禍には関心を払わず、ピントのずれた、いわば取り付け騒ぎに対応するための金融政策に特化していたと言えるかも知れません。

【参考】
発行体の財務内容と貨幣の通用価値が直接関係を持たない例はこちら。

*1:期待が根拠、それがお金 ブック朝日ドットコム 

*2:このような仮説は反証可能かどうか(≒実証性という意味で科学的かどうか)という問題もあるかもしれません。

*3:紙幣の誕生は、10世紀の宋の方が早いのですが、その成立に関する情報が得られませんので、欧州での成立から考えます。

*4:http://www.imes.boj.or.jp/cm/collection/tenjizuroku/book/pageindices/index35.html

*5:普段とは取り付け騒ぎが起こるような恐慌状態を除いた時期