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黒田日銀新総裁の金融財政観

3月20日に、退任した白川方明に代わって黒田東彦氏が日銀総裁に就任しました。
今回は2005年に黒田氏が著した「財政金融政策の成功と失敗」から、同氏の金融財政政策観について考えてみたいと思います。

「財政禁輸政策の成功と失敗」という本のひとつの特徴は、円が変動相場制に移った1971年から2004年までの期間を10のエピソードに分けて、それぞれのエピソードごとに、金融財政政策の教訓を得る、というスタイルで書かれています。 またもうひとつの特徴は、全202頁と、それほど厚くはない本で、40名を超える経済学者の考え方を引用して考察を加えていることで、巷間伝えられているように黒田氏の勤勉ぶりが窺えます。

バブル崩壊前後から、デフレに至る過程での日銀の金融政策には基本的に批判的な立場です。

バブル後の経済回復はそっちのけにしてバブル潰しに躍起になった三重野総裁にも批判的ですが、特に1998年4月に政府から独立した速水日銀に対しては、すでにデフレ傾向が顕在化しているにもかかわらず、「良いデフレ論」を振りまき、デフレをむしろ歓迎する姿勢を見せたと舌鋒も鋭くなっています。

 ディスインフレ物価上昇率の低下)からデフレへの転換に対しては、財務省主導の消費税増税については、財務省を退官したばかりとあってか、「97年4月に消費税率が5%に上昇したこと自体はそれほど大きなショックを与えなかったとしても」*1と書かれた部分と、「97年になると、4月の消費税率の引き上げがそれまでの駆け込みの反動から消費を後退させた。」と書かれた部分があり、評価が微妙になっています。

 デフレ突入後、小渕政権、森政権では景気回復に向けて公共事業などの大規模な財政出動を行ったことについては、「マンデルフレミング理論が示すように、財政拡張と金融引締めというポリシーミックスは、為替レートを上昇させ、デフレをもたらす傾向がある」*2との評価を下しています。

 デフレに対する責任論では「デフレの責任を巡る状況は両親に乳幼児に対する注意義務があるのに似ている。乳幼児が自分で階段から落ちて怪我をした時、親は怪我の積極的原因ではないにしても、不作為の責任は免れない。」「03年4月以降の積極的な金融政策のもとでデフレは少しずつ改善に向かっているがまだデフレから脱却できたわけではない。 このうえは日銀の物価安定義務を踏まえて、より明確な物価安定目標(例えば消費者物価上昇率1-3%)を明示することが望ましい。」*3と述べられており、2005年時点での著作という点から考えて、財務省では珍しいほどのリフレ政策推進論者だったのではないでしょうか。

 日銀新総裁の人事案については、財務省のサシガネでは、といった陰謀論的観測もあるようですが、この8年前の著作を覧る限り、それなりの期待を持って黒田新総裁が具体的にどのようなデフレ脱却策を打ち出すのか見守って良さそうに思えます。

財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済

財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済

*1:p167

*2:p176

*3:p183