シェイブテイル日記2

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世間を知らないまま日銀を退任した白川総裁

 昨日日銀では白川総裁の退任会見がありました。
 その中で、マスコミには余り報道されなかったのですが、「日本は1人あたりGDPで見れば、欧米にも何ら遜色ない。もっと自信を取り戻してほしい。」と述べたようです。*1
筆者は白川総裁がこう語ったことには大いに違和感を持ちました。その理由をご説明したいと思います。

日本の1人あたりGDPは、例えばドル建てベースで比較したとき、比較可能な183カ国中第12位ですから、白川総裁の指摘するように現在の水準での欧米に遜色ないことは間違いありません。

ただ、この1人あたりGDPを、自国通貨建てで時系列にみてみると、また別の姿が見えてきます。

1人あたりGDPが下がっていく国は世界で日本だけ
図1 1人あたり名目GDPの推移 自国通貨建て、2012年=100
先進諸国での名目GDP(自国通貨建て)を2012=100として表したもの。
出所:IMF WEO Oct '12
字が小さいが、真ん中あたりに一行だけ目立つ行がある。それが日本。

一般的には1人あたりGDPはゆるやかに増加します(青→黄→赤)。 ただ、欧州危機の最中にあるギリシャポルトガルアイルランド・スペイン・キプロスなどでは2007年頃から1人あたりGDPが減少する状況にあります。

ところがこれらの欧州危機の諸国以上に際立っているのは、リーマン・ショックや欧州危機、更にはその前のアジア危機・ロシア危機の当事者でもない日本が、'97年に1人あたりGDPのピークがあり、15年来減少基調となっていることです。1人あたりGDPが減少基調ということは、1人あたり賃金も減少基調ということになります。

1人あたりGDPは中期的には日本以外は1カ国残らず増えている

図2 現在と1997年の1人あたりGDP比較
先進国での1人あたり名目GDPを2012年=100として1997年の水準を比較したもの。
出所:IMF WEO Oct '12
日本では'97年に112の水準だったものが2012年には100にまで減少した。
他の世界183カ国では、例えば物価安定国ドイツでも72→100といった具合に例外なく増加している。

図2では1人あたり名目GDPを2012年=100として1997年の水準を比較したものを示しました。
図が煩雑となるため表示ではIMFの分類での先進国のみを示しましたが、ここで示さなかった発展途上国を含めたGDPデータがある183カ国の中でもこの指標では日本が最上位になります。
つまり、1人あたりGDPが15年前よりも下がるという世界でも例を見ない事態が日本にだけ発生しているということです。

その原因は、一部論者が言うように少子高齢化ではありません。*2  韓国などの近隣国でもインフレであることから、近隣に中国などの低賃金国があるからでもありません。 また人口が減り始めたからでもありません。*3 
 ひとえに日本政府と日銀だけがこの15年間デフレ政策を採り続けた結果、世界で唯一日本だけが1人あたりGDPも賃金も減り続けたということです。

その結果どうなったかといえば…。
現在の経済状況が自信の持てる状況かどうかについて「社会状況データ図録」の、「父親と比べ社会的地位は上がったか」という調査に端的に現れています。

日本では父親より社会的地位が下がったと思う人が世界で最も多い

図3 父親と比べ社会的地位は上がったと思うか
出所:「社会状況データ図録
国際的な継続的共同調査ISSPの2009年「職業と社会に関する国際比較調査」での、
「現在のあなたの仕事の社会的位置づけはあなたが15歳の時の父親の仕事と較べてどうですか」
という問いに対するアンケート調査結果(男性のみ)。
回答:ピンク=上がった、ベージュ=変わらず、ブルー=下がった、と答えた割合。
日本では父親世代より下がったと答えた人が世界最多の39%。

 今欧州危機の最中で失業率が20%を超える国々の若者以上に、「父親より社会的地位が下がった」と答えざるを得ない状況の日本の若者たちを前にして、デフレ政策の当事者である白川前総裁がどの口から「もっと自信をもって良い」と言えるのか全く理解できません。

 今回の退任会見での白川氏の世間知らず度は、以前ワールドビジネスサテライトのインタビュー
「デフレを懸念する声は多いですが総裁自身が肌でデフレを感じる事はありますか?」と訊かれて、
白川「今の仕事に成ってからウィークデーに買い物に行く機会が激減したんですけども週末には家族と一緒に近くのレストランでランチセットを食べていますがコレだけ内容が豊富で充実した食事をこの値段で食べられる事に驚いています。」
と答えていたのとあわせると、相当な重症だったようですね。