シェイブテイル日記2

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フェルミ推定でみたアベノミクスの盤石度

 今朝の日経新聞では「通貨動いて40年−円はデフレを脱せるか」と題し、コラムニスト・土屋英夫氏、クルーグマンの言としながらも、アベノミクスに賛意を示す記事が載っていました。*1

円が下がり、株は上がった。うるさ型のノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンプリンストン大学教授もアベノミクスに太鼓判を押す。…。

 昨年の衆議院解散後の11月26日、同じ日経新聞で、「アベノミクス いま再び 金融緩和だけが売り物か(核心)」と題し、 編集委員の滝田洋一氏が、アベノミクスに対して相当懐疑的かつニヒリスティックに

物価目標の引き上げは実際の経済成長率を高める前に、青年将校ならぬ高齢者の反乱を誘発すまいか。

などと書いていた*2ころがウソのような様変わりぶりです。

 今となっては強固な国民の支持を得たようにもみえるアベノミクスですが、この経済政策がこのデフレ日本に登場するのは必然だったのでしょうか。それとも偶然だったのでしょうか。

 ここで考えるアプローチ方法は「フェルミ推定」と呼ばれるものです。企業でマーケティングをやる人たちはこの方法を漠然とした市場ニーズの分析に無意識に使っていることがありますし、近年ではグーグルなどの有力企業が入社試験に多用すると言われることで一部に名を知られています。

アベノミクスが現代のデフレ日本に登場する蓋然性(probability:ようするに確からしさ)を考えるには、その背景を多少分析的に考える必要があります。
今回、アベノミクスが登場できるための前提として以下の各項を確率付きで想定してみました。

【前提1】この5年間のうちに安倍氏自身がリフレ政策に開眼した可能性…30%
 安倍氏自身が語るところでは *3 、第一次安倍内閣頃の安倍氏はリフレ政策に疑問を持っていたそうです。その安倍氏が党内の山本幸三氏らの話を聞いているうちに日銀の非を悟ったとか。50歳を超えた政治家がそれまでの信条を否定し、別の信条(アベノミクス)に強固な確信を抱く可能性は、多めに見積もっても30%程度でしょうか。

【前提2】この5年間のうちに安倍氏の体調が快癒できた可能性…30%
 よく知られているように、第一次安倍内閣が崩壊した理由のひとつが安倍氏の持病・潰瘍性大腸炎です。氏は「最近病気の特効薬が出たので、もう体調は大丈夫」と語っています。 その特効薬とは2009年に日本で承認されたアサコール(一般名・メサラジン)です。 この薬が以前から日本で承認済だったり、いまだに未承認であれば、安倍氏の政治活動も現在とはまた違ったものになったでしょう。*4

【前提3】野田氏が昨秋解散した可能性…20%
後日談によれば、昨秋11月の時点で野田氏が解散総選挙に打って出たのは、野田民主党がそこそこまだ支持をされている、という勘違いと、橋下氏の維新の会が飛ぶ鳥を落とす勢いに見えたため、その維新の会が国政に打って出る体制が整う前に戦いたかったからだとか。 もし時間が前後すれば、自分の党がとても解散出来る状態にないことや、維新の会が以前ほど人気がなくなっているという分析ができて、解散しなかった可能性があります。 というより、解散したこと自身がかなり奇跡的にも思えます。 昨秋野田氏が解散に踏み切る可能性は、多めに見積もって20%といったところでしょうか。

【前提4】安倍氏自民党総裁になった可能性…30%
自民党総裁選挙の段階で、自民党員でもっとも人気があったのは石破氏です。 それについで、石原氏と安倍氏が二位争いをしていました。これを考えると、安倍氏自民党総裁に選出された可能性は半分はなかったと思います。


図1 日本経済命運地図 
フェルミ推定で考えると、アベノミクスの背景は
それほど盤石ではなかったのかもしれない。

これらの前提の元に現在があるとすれば、
アベノミクスが登場する可能性は前提1から4の積ということで、わずかに0.5%しかなかったことになります。*5 *6

 フェルミ推定から離れて、現実の自民党を眺めてみますと、安倍氏が下野していた頃会長を務めていた党派横断組織「増税によらない復興財源を求める会」は、山本幸三氏が幹事長を務め、自民党だけでも衆参65名いたとのことです。*7
この数字を見ると、アベノミクスを支える党内人脈も相当厚そうに思えるのですが、一人ひとりメンバーをつぶさに見ていきますと、増税を主導していた谷垣氏の勉強会「有鱗会」のメンバーが4名ほど含まれていたり、石破氏を推す人たちがいたりで、普段からリフレ政策に親しんでいる自民党議員はわずかしかいないようにも見えます。

 昨日も麻生財務大臣が「最終的には消費税は10%で済まない」などと反アベノミクス的発言をするなど、もしかすると、アベノミクスを謳う安倍氏自身も、内心は薄氷を踏む思いなのかも知れません。 

 近いうちにある日銀総裁人事ひとつにしても、日本がデフレ脱却できるかどうかの大きな試金石となる可能性があります。こういったアベノミクスを取り巻く脆弱性を考えますと、ここではひとつ、みんなの党民主党などにも広がるリフレ派議員も、党利党略を離れて、日本経済のために安倍首相に力を貸してあげてほしいところです。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130204&c=DM1&ng=DGKDZO51300480S3A200C1TCR000

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXDZO48803450V21C12A1TCR000/

*3:ニコ動・安倍晋三元総理がリフレ派に転向した訳 ニコ動・安倍晋三元総理がリフレ派に転向した訳 このエントリーをはてなブックマークに追加

*4:病気が治らなかった場合はもとより、逆に、第一次安倍内閣で多忙を極めている安倍氏が健康体であった場合には、下野せず、そしてリフレ開眼せずに現在に至ったとすれば、安倍氏が現在までにリフレ型の政策を積極的に実施したかどうか、相当疑問です。

*5:30%*30%*30%*20%≒0.5%

*6:野田氏が衆参同日選まで政権に粘った場合、たとえ安倍氏が政権をとって、アベノミクスを実施したとしても三党合意の手前、消費税増税に踏み出さざるを得ないかも知れず、今日のアベノミクスほどのロケットスタートとはならなかった可能性が高いでしょう。

*7:http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-001f.html