シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

10年間で69兆円の過剰支出とセルフカッターの関係

PHILIPS 電動バリカン セルフヘアカッター QC5550【充電・交流式】BaByliss FOR men 【坊主スタイルが作り易い】ヘアカッター ブラック BMC-7600/KJ 先日、うちのペット犬の毛が少々伸びてきたので、電気量販店のシェーバー売り場にペット用バリカンを見に行きました。バリカンを買って、ふと隣のコーナーを見ると、右のような見慣れないシェーバー(?)が置いてありました。(参考のため、右写真をクリックするとセルフカッターのネット販売とリンクするようにしています)
これらはセルフカッターと呼ばれる商品だそうです。要するに図表1写真のように、自分で頭をカットするための道具です。  床屋に行くお金も勿体無いので、自分の頭は自分で刈ってしまおう、と。  
 こういった商品は家電量販店でもこれまで余り見たことがなかったように思いました。そこでグーグル検索機能でセルフカッターの年次別での検索数を調べてみました。 近年増えた千円床屋もついでに調べてみました(図表2)。 
 
図表1 セルフカッター  図表2 「セルフカッター」と「千円床屋」の年次別検索ヒット数
千円床屋は2008年頃から検索数が急増している。またセルフカッターは2011年頃から検索数が急増。

 長引くデフレの中、リーマン・ショックが発生し、その影響が日本にも波及し、4千円の従来型床屋からQBハウスのような千円で散髪できる床屋が流行るようになったか、と思っていたら、今度は自分で散髪する道具に流行の兆しが出てきています。

このようなデフレはリーマン・ショック直後を除けば、先進国では日本だけで発生していますがそのメカニズムはどのようなものでしょうか。

 日本の消費者物価については総務省統計局から随時発表されています。日銀はこの総務省発表の固定基準方式の消費者物価指数をベースに金融政策を決定している *1とされています。 ところが、固定基準方式の消費者物価指数は連鎖方式の消費者物価指数に比べ、ある程度の上方バイアスがあり、固定方式の消費者物価指数を日銀が0%*2もしくは1%まで*3に維持しようとすることがデフレの原因のひとつと考えられています。

消費者物価指数というものは、ある年と別の年の物価を比較するために算出されます。この時、両年とも同じ製品群(商品バスケット)を買うという前提で価格調査を実施します。 ところが、冒頭見ましたように、実際には4千円の床屋から千円床屋に需要がシフトしたり、更には床屋産業から家電(セルフカッター)に需要が移ったりしています。この間デフレに適応してより少ない費用で同じ効果(散髪)ができるように需要がシフトしているのですから、4千円の床屋も千円床屋も値下げしなくとも、国内で使われるお金は減ってしまいます。 それにもかかわらず、消費者物価指数ではこの低価格需要シフトに対する感度が低く、物価が高めに出てしまうようです。

4千円の床屋から千円床屋への需要シフトは、消費者物価指数でもちゃんと調査をすれば連鎖方式では補正ができそうにも思えますが、床屋から家電へのシフトともなると、もはや消費者物価指数には反映されない物価の下落なのではないでしょうか。 これら、日本の物価指数(CPI)測定の欠陥はコロンビア大学デビッド・ワインシュタイン氏からも指摘されています。

アメリカからの眺めた日本の物価安定の定義 *4
Christian Broda, David E. Weinstein

要約
 日本の金融・財政政策は、物価安定のための指標として、消費者物価指数を使用している。
この指標を改良する努力はなされているものの、日本のCPI算出方法には多数の欠陥があるように思われる。日本では置換バイアスと品質のグレードアップに余り注意が払われていない。
このことは、米国は1999年にこれらのバイアスを補正して以後、米国と日本の物価測定値には重要な方法論的差異が生じていることを意味する。

米国の方法論によれば、日本のデフレは1999年以来、年平均1.2パーセントとなっている。 これは日本の国家統計によって示唆される2倍以上となる。
この日米の方法論の違いを無視することで、1999年から2006年の間のアメリカの一人あたり消費成長率は日本での値より2%高くなるという誤差が発生することになる。
逆に日米で同じ方法論を使った場合、この期間の日本の成長率はアメリカの成長率とほぼ同じになる。 さらにいえば、日本のCPIの上方バイアスは真の生計費指数(cost-of-living index)(コラム1参照)に対するバイアスは年間約2%である。

この日本のCPIの上方バイアスと、日本の低インフレ率とにより、社会保障費や債務返済に関して今後10年間で69兆円-またはGDPの14パーセント- 以上政府費用が多くなると見られる。金融政策については、インフレ率を過大に見積もっているため、日銀がインフレ目標を採用した場合にもしCPIの目標が2%未満であった場合、物価の安定は達成されないと思われる。 *5

 昨年までの民主党政権では、消費税を3%あるいは5%上げることがスケジュール付きで議論され、自公民三党合意がなされました。消費税1%アップが2兆円程度の税収増になるというのが民主党(とそれを操縦する財務省)の言い分でした。*6
 しかし、ワインシュタイン氏の指摘するように、日本の物価の測定誤差によって、10年間で69兆円の政府支出の過剰が発生しているとすれば、その誤差による歳出過払いの解消だけで消費税3%分の節約ができるのです。
いずれにしても物価に上方バイアスがあれば、政府支出を受ける人々(公務員、年金生活者、医療関係者など)は不当な利益を納税者から受けることになりますから、総務省統計局に物価統計の専門家を数多く配置するなどして、早急に正しい物価指標を定めて使う必要がありそうです。
またワインシュタイン氏の指摘が正しいとすると、物価統計の整備不良の日本では、諸外国と同じく2%の物価目標というのはまだ低すぎ、物価統計が正しく整備されるまでは3%なり4%なり、より高い物価目標を置くことも検討すべきではないでしょうか。

コラム1
各国がそもそも何のために消費者物価指数(CPI)を算出しようとするかという目的にはふたつあり、アメリカでは一定の効用水準を達成するための最小費用として定義される生計費指数(Cost-of-living Index COLI)の作成を目標としており、CPIは条件付きCOLIの近似値として算出しているとのことです。一方日本では、CPIは家計の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価の変動によってどう変化するかを数値で示したもので(中略)生計費の変化を測定するものではない」としています*7
 もしかするとCPIの測定思想からして、米国のようにCOLIの代替としてではなく、日本では測定目的としているCPIに上方バイアスが内包されている分、測定誤差(上方バイアス)によりデフレを招きやすいのかもしれません。

コラム2
その日本でも良い兆しがあるようです。このグラフは日本の物価変化をGDPデフレータ対前年比で見たものです。
橋本日銀デフレに陥った1998年以降、日本のGDPデフレータは▲1%程度で安定していました。ところが、昨年の1-3月以降、プラスマイナス0%近傍まで上昇してきています。 この後、安倍首相によるアベノミクスが発表されたわけですから、ごく近い将来にGDPデフレータが15年ぶりにプラス領域に入る可能性もあります。 

図表3日本の物価推移(GDPデフレータ)
出所:2011年まではIMF WEOから、2012年の四半期ベースは日経新聞月曜版経済欄から筆者計算

*1:http://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.htm

*2:http://www.boj.or.jp/announcements/release_2006/k060309b.htm/

*3:http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/k120214b.pdf

*4:NBERワーキングペーパー第13255 2007年7月

*5:同主旨の指摘は、2006年10月23日 日経新聞 経済教室にも掲載されています。

*6:実際には消費税アップによる税収増が景気を抑制することで、法人税所得税が減少するため、消費税アップで歳入は意図とは逆に減っている。

*7:日本の消費者物価指数の諸特性と金融政策運営 梅田雅信