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東洋経済の反リフレ記事に反論する

今日の衆議院選挙の結果は明日朝未明までには判明します。 これまでのマスコミ等での予想では安倍自民党の圧勝が予想されています。 もし安倍氏が首相として経済政策に着手すれば、政策的に連携した日銀にマネーを出させてそれを財源に国土強靭化計画などの財政政策を行ない、年率2%程度のインフレに転換させる、いわゆるリフレ政策を実施するものと思われます。

ところが一方で、こうしたリフレ政策を実施すると、大きな弊害があり実施すべきでないという、いわゆる反リフレ派の声もあります。 今日は東洋経済社からの反リフレの声に耳を傾けてみましょう。

ハイパーインフレは本当にやってくるのか *1

政治家には、安倍晋三自民党総裁国債日銀直接引き受け(これ自体は撤回したが)をはじめとする、日銀への圧力政策、インフレを意図的に起こすリフレ政策が人気がある。

 これは明らかに邪道で、採るべきではないのだが、それに反対するまともな人々の批判は「そんなことをするとハイパーインフレが起きる」、ということだ。だが、実はこちらも間違っている。ハイパーインフレは来ないのだ。リフレには反対だが、ハイパーインフレも来ない、ということを行動ファイナンス的に、投資家行動の予測の視点から議論してみたい。
(中略)
 まとめると、リフレ派の誤解の原因は、以下の四つのポイントを理解していないことにある。

 第1に、日銀が直接コントロールできるのは、超短期金利であり、長期金利には影響を与えることが状況によって可能なだけで、インフレ率が上昇しているような局面では、それはかなり難しく、無理してインフレを起こした場合には、不可能となる。
第2に、実体経済において重要なのは、長期金利であり、これが上昇してしまうと景気には大きくマイナスだが、リフレはまさにそれを起こすことになる。

 第3に、長期金利を高騰を避けるために、国債を日銀が直接引き受けにせよ、市場買い入れにせよ、多くの投資家が売りに回ったときに行えば、それは投機家の圧力に屈することになる。これは、まさにソロスがイングランド銀行をポンド投機で打ち負かしたのと同じ状況である。

 第4に、このときには、円安も急激に進行することになるが、いわゆる、債券安、為替安、株安のトリプル安になる。金融市場は混乱、崩壊し、このような状況では、実体経済においても投資をする主体はなく、資金は海外へ逃避、企業活動も移転する。

 円安により輸出競争力が高まるどころか、原材料など必需品において、輸入インフレが起き、コスト高から、輸出競争力も低下する。したがって、実体経済も大きな打撃を受ける。

 一方、このとき、ハイパーインフレは起きないということである。このとき起きるのは、資産市場における実物資産の資産インフレである。

 実体経済の停滞から、国民の実質所得は大幅に低下するから、インフレは輸入インフレに限られ、経済全体としては、スタグフレーションが起きる。我が国においては、エネルギー、食料以外においては、輸入依存度が小さいから、アフリカの国やかつての社会主義からの移行経済、途上国の小国で起きるような、超高率の輸入インフレではなく、中程度の輸入インフレから実質所得の低下、不況になる。
 付け加えれば、この議論と同じで、リフレという話になると、株価は多少、上昇する。それは、単に普通の金融緩和の拡大による、マイルドな実体経済の改善期待からの上昇の場合と、上述したようなリスクを織り込んだ名目資産価格の上昇の場合とあり、後者が起こるリスクは高く、この場合は、中期には、実体経済の悪化を見込んで、だんだん株価は下がってくることになる。これにも注意が必要だ。

反リフレ派にも2種あり、リフレ政策を行うとハイパーインフレが起きる、という説と、ハイパーインフレは起きないという説があるようです。 前者はのハイパーインフレ惹起説は、インフレが起きるにはまず需要が供給を上回らないとインフレにはならないという事実を無視していて、あまりに現実離れしているため、さすがに上に引用した東洋経済の記事でも否定的のようです。

 ハイパーインフレは起きないが、リフレ政策は問題、というこの記事での懸念点の第1は、中央銀行には長期金利はコントロールできない、というものです。 確かに日銀が直接にコントロールしているのは政策金利であるオーバーナイト金利という短期金利です。 しかし、図1に示しますように、長期金利とインフレ率との間には極めてはっきりとした正の相関関係が認められます。
つまり中央銀行短期金利のように直接ではないものの、間に物価を介して長期金利を間接的にコントロール可能というのが観察されてきた事実です。 そして、日銀は 世界一優秀な中央銀行はどこか 世界一優秀な中央銀行はどこか このエントリーをはてなブックマークに追加で示しましたように、物価を世界一狭い範囲でコントロールできているのです。 物価を世界一狭い範囲でコントロールできる日銀なら、長期金利も実際的にはコントロールできるということになります。

 東洋経済の筆者は、第2に、マイルドインフレ(例えばCPI=2%)になればこの図1のグラフからは4-5%程度の長期金利が予想されるのに、なぜか長期金利高騰が生じるとしていますが、この現実に観察されている事実とは異なる主張に対し、データや論拠は示されていません。


図1 長期金利とインフレ率との相関
横軸:コアコアCPI、縦軸:10年物国債金利 期間:1986年-2010年
出所:コアコアCPI=総務省統計局 10年物国債金利=浜町SCIウェブサイト
長期金利とインフレ率との間には強い相関がある。
一方東洋経済オンラインの主張によれば、マイルドインフレにすると
長期金利はなぜか急騰するという。 


 第3の主張は、中央銀行が長期国債高騰を避けるために国債を買えば、投機家の圧力に屈することになる、というものです。
 これは正直主張している意味がよくわかりません。 投機家が国債を投機的に売りに回ったとして、中央銀行国債の価値を守るために買うことのどこが投機家に屈することになるのか。 訳がわかる人がいたら教えていただきたいものです。
 また、ソロスがイングランド銀行を投機で打ち負かしたということは事実ですが、当時の英国はERM(欧州通貨制度)に参加しており、ポンドとEC諸国とのレートを一定枠に収めなくてはなりませんでした。
 そこで、ポンドが過大評価となっていると捉えたソロスがポンドを売り浴びせたのに対し、イングランド銀行は手持ちの外貨を売って、ポンドを買い支えようとしましたが、外貨には限りがあり、ソロスの投機に屈した、というものでした。結果的に、ポンドはERMの枠組みからはずれ、変動相場に移行しています。

 ところが、安倍総裁が目指すリフレ政策では、日銀は国債を買い、円を供給する立場です。 日銀にとって無限に供給可能な自国通貨円に対し、買い向かう投機家などいるのでしょうか。もしもそんな奇特な投機家がいたところで、無限に円を供給する日銀に勝てるわけもありません。 手持ちの外貨を売ってポンドを買い支えるイングランド銀行と、刷ったばかりの円を売りまくる日銀とでは立場が180度異なるんですよね。

最後の第4点については、反論するとすれば、経済実態以上に買われている通貨を買い支える場合(先のポンド危機のようなケース)でなければ、中央銀行は自国通貨のレートを好きにできるということです。 このことは最近のスイスがスイスフランを対ユーロで固定化していることでも分かります。 

そして、東洋経済のコラムニストによれば、最終的にリフレ政策の結果はスタグフレーションなのだそうです。ただ、スタグフレーションとは、供給側に何らかの問題が生じた時に起きるインフレーションのことであり、現在大きなGDPギャップ(供給過剰)が生じている日本でスタグフレーションがどうやって生じるのか経路が全くわかりません。

 シェイブテイルとしましては、これまで東洋経済社という出版社については、それなりにリスペクトしていた面もあったのですが、これだけ根拠不明で荒唐無稽なリフレ政策批判を書くとなると、この会社への評価もそれなりに落とすべきなのでしょう。