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日銀国債直接引き受けの結果はハイパーインフレか好景気か

今朝の日経新聞では安倍晋三総裁のデフレ脱却策として、日銀による国債引き受けなどが報道されています。

安倍氏「日銀は国債引き受けを」に賛否 脱デフレに期待 安易な借金に道

 自民党安倍晋三総裁は17日、日銀による国債の引き受けに言及するなど、金融緩和の強化によるデフレ脱却を訴えた。ただ「副作用」が多いと批判される手法でもあり、論議を呼びそうだ。

 安倍氏熊本市内での講演で、政権を取り戻した場合、景気刺激策として公共投資を拡大し、その財源を調達するため「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と表明した。日銀による国債の引き受けは財政法が原則禁止している。しかし増税をしなくても財政出動の財源を確保できるうえ、市場に流通するお金の量も増やせるため、デフレ脱却策として期待する声が一部で根強い。

 ただ中央銀行による国債引き受けは政府が安易に借金できる道を開く。慶応大学の池尾和人教授は「インフレ期待だけは上がるが、トータルでみて国益になるかは疑問だ。日本経済がデフレになりやすい構造から抜け出すには辛抱強く産業構造を変えていかなければならない」と指摘する。

 安倍氏は講演で、4月に任期切れとなる白川方明総裁の後任総裁人事について「インフレターゲットに賛成してくれる人を選んでいきたい」と指摘。日銀法改正を検討する姿勢も改めて表明した。

日銀が国債を直接引き受けして、これを財源に財政政策をおこなえば、デフレ日本に直接的にマネーを出すことができます。
ただ、その一方で副作用が出るとの懸念が根強いことも事実です。 これらの懸念について見ていきたいと思います。

0.インフレ期待だけ上がる
上の記事の中で、慶応大学池尾氏が指摘した点です。 シェイブテイルには今ひとつ言っている意味がわかりません。 理解不能なので、0番目の懸念としておきましょう。 デフレでインフレ期待が上がって何が悪いのか。これまで財政タカ派的な立場だった池尾氏のセンスとは合わないというだけの、根拠もない懸念なのでしょうか。

1.国債直接引き受けは、市場での建設国債発行+日銀買いオペと同じ(以下も藤色文字池田信夫氏のブログでの主張)
コラムニスト池田信夫氏は昨日自らのブログで「安倍総裁の暴走が止まらない。こんな政策に意味があるのかということだ。安倍氏は「建設国債を日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」というが、日銀引き受けで増えるのは政府支出であり、これは建設国債を民間が買って日銀が買いオペで吸収するのと同じだ。日銀に引き受けを強制する必要があるのは、1930年代のように民間で消化できないときだけだ。」と述べています。
確かにこの指摘には一理あるとシェイブテイルも思います。 ただ、建設国債新発+日銀買いオペの場合、これら政府と日銀という別々の主体によるオペレーションが、アコードにより単一の目的でなされているというアナウンスが必要(わかりにくい)であるのに対し、日銀国債直接引き受けを財源とする建設国債は財源にしても目的にしても、何の追加説明も要らず単一の政策により民間にマネーを配ることがはっきりしていますので、インフレ期待の醸成にはバラバラの二政策よりもはるかに有効と思われます。

2.直接引き受けは財政法で禁止されている
財政法で国債の日銀引き受けが禁じられていることだ。これを改正することは、あからさまに日銀の国債ファイナンスを制度化することになり、財務省も日銀も強く反対するだろう。それを押し切って強行すると財政規律が失われ、「日本政府はいよいよ市場で国債を消化できなくなった」というメッセージを世界に送って、国債バブル崩壊のきっかけになるおそれが強い。
 「 法が禁じている」といっても、その法律を改正するのが安倍氏ら国会議員の仕事です。必要があれば多数決で財政法を改正したらいいことです。 たかが財政法を改正した位で「日本政府はいよいよ市場で国債を消化できなくなったというメッセージ」と市場が思うかどうかは週明け月曜日の国債金利を見てみればおおよそ分かるのではないでしょうか。現在0.7%といった世界金融史上最低の国債金利を暴騰させるには、巨大な資金需要が必要です。 労働力、設備投資共に過剰に存在する現在のデフレ日本で、国債需要が急減、マネーの需要が急増するなら、それこそ今の日本に求められることです。 いみじくも池田氏自身がいうように現在の国債バブルを維持するためにデフレ政策を堅持せよいう主張なら何をか言わんや、としか言いようがありません。 どんなバブルでもバブルは必ず弾けるものです。

3.経済効果は期待できるか
 池田氏は続けて「問題は、どういう経済効果があるかだ。ヘリコプターマネーは財政政策だから、財政赤字によってインフレを起こす効果がある。しかし建設国債は今年度予算でも約6兆円だから、これを一挙に4倍以上に増やしたら、国債は暴落して財政が破綻するだろう。こんな政策に意味があるとすれば、ハイパーインフレで日本を焼け跡にすることぐらいだ。」としています。
 国債を日銀が引き受ければ、その分は実質貨幣化(マネタイズ)されています。 マネタイズ*1した分、積み上がった国債の利払い費用負担が実質減じるのに、なぜ財政が破綻するのか。
 80年前ほぼ同じ政策をとった高橋是清の高橋財政期には、財政が破綻するどころか、デフレが急速にマイルドインフレに転換、好景気になった史実をご存じないのかもしれません。
 ましてや、ハイパーインフレが生じるには生産力の壊滅的減少が必ず必要ということも理解されていないようです。
実際ハイパーインフレや高インフレとなった事例をみても、戦中戦後の日本では空爆で日本の主要生産設備は徹底的に破壊されていました。 第一次世界大戦後のドイツでは大戦の敗戦により戦勝国から巨額過ぎる賠償金を求められ、返済が滞ったことからルール地方を占領され、生産力が急減したことでハイパーインフレが起こりました。 近年のジンバブエハイパーインフレは政権をとった黒人のムガベ大統領が白人の農地や株式を強奪してしまい、食糧や物資の生産が急減したことで生じています。 現代日本で、戦争による空爆や生産設備占領、独裁者による生産財強奪などが懸念されるとでもいうのでしょうか。

 デフレ状態で中央銀行国債を直接引受すれば、高橋財政が証明している通り、その結果生じるのは池田氏が懸念するようなハイパーインフレではなく、マイルドインフレと好景気なのです。

*1:マネタイズとは色々な意味で使われることがありますが、ここでは中央銀行が引き受けている国債はその金利分を発行元の政府に渡すので、国債の利払い問題が生じないという意味で使っています。