シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

年金過払い10兆円は大問題か

16日の日経新聞「年金減額遅れ13年10月から もらいすぎ9.6兆円に 政治の高齢者優遇で現役世代にツケ」という記事で、年金受給者のもらいすぎ解消が報道されています。

 過去の特例措置で、高齢者が本来よりも高い公的年金を受け取っている「もらいすぎ年金」を来年10月から段階的に解消することが決まった。年金減額を盛り込んだ改正国民年金法が16日、成立した。減額の開始は当初の政府案から1年遅れ、年金の過払いは累計で約9.6兆円にのぼる見通しだ。政治が高齢者優遇を続けた結果、現役世代にツケを回した。

 現在の公的年金の支給水準は本来より2.5%高い。減額は3段階で実施する。2013年10月分から1%、14年4月分から1%、さらに15年4月分から0.5%下げて解消する。

図1が日経新聞で紹介されていたもらいすぎの構造です。本来は物価スライドで年金は増減することになっているのに、以前の自公政権時代に年金受給者優遇策を採ったため、累計過払いが7兆円発生しており、水準訂正の間にも更に2.6兆円の過払いが発生する、というものです。

図1 年金過払いの構造

 政治的配慮により生じた過払い年金が解消されるのは結構なことです。
 ただ、このグラフに物価水準である消費者物価指数(CPI)およびバイアスがなく本来の物価水準に近いと考えられるGDPデフレータの水準変化、給与所得者の給与水準変化、公務員の給与水準変化を加えると別のものも見えてきます。(図2)

図2 物価水準と年金・給与水準 図がビジーで恐縮ですが、赤線が公務員給与 *1オレンジ線が年金水準、破線が「本来あるべき水準」*2、黒線がCPI総合(消費者物価指数)、緑線が給与所得水準、茶色線GDPデフレータです *3
「本来あるべき水準」(破線)はCPIとも異なり、それらに給与水準を加味して算出したもの、ということで由来はよくわかりません。
とは言え、オレンジ色の年金水準と破線との間で囲まれている部分(図1も参照)だけで10兆円近い「誤差」ですから、無視はできないように思えます。

しかし、バイアスがなく、本来の物価水準に近いと考えられるGDPデフレータの水準変化、給与所得者の所得水準変化も併せて見てみますと、約10兆円など誤差という気もしてきます。 給与所得者の給与水準は1999年から2011年までの間に、461万円から409万円まで激減しました。その激減した給与の中から、上方にバイアスがあって高めにでる消費者物価指数よりも更に高い、リタイアした人々の年金水準を維持してきたのですから、将来的に持続可能であるはずもありません。 

 給与所得者の給与水準は、本質的に日本全体の付加価値合計である名目GDPに連動せざるを得ません。
 一方で、年金生活者や公務員の給与は、直接あるいは間接的に消費者物価指数(CPI) に連動していますが、CPIは「基準年と同じ商品群が今はいくらで買えるか」、という算出方法を採っており、デフレで「より安い商品を、より安い商品を」と、買う(というより買える)商品が安いものに移っていく消費者の行動が全く考慮されていないため、年1%以上の上方誤差(上方バイアス)があります。 従って、年金水準や、大企業の正規従業員給与、公務員給与などはデフレ日本にあっては「作り物の高水準」に高止まりします。 その歪は、国債の増発、リストラ、非正規雇用比率の増大といった形で蓄積され続けています。

シェイブテイルが出した結論です。 

1.消費者物価指数CPIはデフレ日本でも、デフレを反映しない異常な高値に維持される。
2.競争に曝されている給与所得者の給与水準は正しい物価指標GDPデフレータにほぼ連動して下げ続けている。
3.異常値のCPIに人工的に連動させている年金・公務員給与・大企業正規従業員給与はそれぞれ経済社会に歪を蓄積している。

こうした問題があるのであれば、これらを解消するには、

・CPIの異常性(上方バイアス)を広く知ってもらい、政府・日銀がバイアスの小さいコアコアCPI*4や、PCEデフレータ*5などといった、より歪みのない物価指標を使う。
・世界で唯一GDPデフレータが下がり続ける、日本の「日銀デフレ」の状態を解消するために日銀法を改正し、金融財政政策を総動員する。

といったことが求められるでしょう。

*1:総務省国家公務員の給与改定の推移」等

*2:12月16日付日経新聞による。算出法不明。

*3:物価指標はIMF WEO Oct.2012による

*4:物価変動が大きい生鮮食料品・大半を輸入するエネルギー製品を除いたCPI

*5:米国FRBが使っている物価指標