シェイブテイル日記2

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岡田靖氏らのパネルディスカッションから考えるデフレ脱却策

10月9日に片岡剛士氏が、[http://www.esri.go.jp/jp/forum1/030220/gijiroku12.pdf:title=第12回 ESRI-経済政策フォーラム「インフレ目標政策を巡って」議事録が「色々と興味深い。」とツイートされていました。

この会合(平成15年2月)では、パネリスト、伊藤 隆敏 東京大学教授、岡田 靖 CSFB 証券東京支店経済調査部長、加藤 出 東短リサーチ取締役・チーフエコノミスト、浜 矩子 同志社大学教授の各氏が、インフレ目標政策の是非、デフレ脱却策への持論をそれぞれが語っていました。
多少ページ数が多い議事録ですので、多少デフォルメして主張を並列してみました。

伊藤 隆敏 氏 
インフレ目標 1−3%を実施する。
量的緩和策として、日銀に国債、CB・CP以外にETFREITなども買わせる。
財政政策は、財政赤字の総額を増やすのは限界。乗数効果の高いものに切り替える。 
為替介入まではしなくとも、円安に誘導できる。

加藤 出氏
マネタリーベースを増やすことでのインフレ誘導は困難。
財政政策にも反対(理由は伊藤と同じ)。
インフレにしにくい世の中(海外デフレ、高コスト体質、将来不安)。長期国債ETFを買ってもインフレにはしにくい。
高橋財政は、金本位離脱(通貨切り下げ)、及び日銀引き受けさせた国債による財政支出拡大という、金融政策と財政政策のパッケージ。

岡田 靖氏
2−4%のインフレ目標をすべき。市場にある国債を無制限に日銀が買う。
日銀による、国債買いきりオペだけでデフレ脱却可能であるのは、それが事実上、長期国債消却と同じだから。極論すれば 600 兆円の国債をすべで日本銀行が購入して(事実上)消却してしまえば、日本の財政赤字問題はなくなる。
インフレ目標下の国債買いきりオペの市場への波及経路はデフレ予想がインフレ予想に転換することでの資金の流れの変化。
財政政策を実施しても、労働市場逼迫からインフレという経路は働きにくい。50−100兆円が財政政策を何年も必要。

浜 矩子氏
リスク資産の買い入れには反対。 市場は生き物だからハイパーインフレも起こりうる。
インフレ目標が達成されても需要は喚起されないかもしれない。
市場を統制するよりも、市場に任せ、非伝統的金融政策はやめるべき。
金融政策よりも財政政策を。

浜矩子氏の主張はいつもながら、データ立脚とは思えない観念論なのでちょっとコメントしようがありません。

東短リサーチ加藤出氏は、日銀に近い立場からか、デフレ脱却は元来困難というニュアンスですが、「高橋財政は、金本位離脱(通貨切り下げ)、及び日銀引き受けさせた国債による財政支出拡大という、金融政策と財政政策のパッケージ」としていることから、暗黙には、高橋財政と同じことを実施すればデフレ脱却できると思っておられるようにも読めます。

伊藤 隆敏氏の主張は、平成15年時点で実施していれば、もしかするとデフレ脱却できていたのかもしてませんが、更に10年近いデフレが継続した今、インフレ目標こそ1%とやや低めですが、現在採られている財政・金融政策は伊藤氏の主張とそう変わらないのではないでしょうか。 そして、1%インフレ目標と非伝統的金融政策、及び現状維持の財政政策という政策パッケージではデフレはまだ脱却できていません。
 
岡田 靖氏は、積み上がった政府債務も、日銀が買い入れればその部分は実質貨幣化できるという視点から、インフレ目標と、無制限の国債買い入れだけでのデフレ脱却を主張しています。 これは仰るとおりと思うのですが、労働市場逼迫からインフレが惹起されるルートには巨額の財政支出が必要なので、財政政策が効きにくい、という主張はどうなんでしょう。 高めのインフレ目標を掲げ、その実現のために日銀が国債を買い入れ、これを財源に財政政策を実施すると発表すれば、まずは期待に強く働きかけることによってデフレ脱却が可能であり、売上増に遅行するであろう、労働市場逼迫に引っ張られてインフレ転換する、というシナリオは順序が逆なのではないでしょうか。

内債が破綻する時とは 内債が破綻する時とは - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加と 1995年以来の「財政危機」の正体 1995年以来の「財政危機」の正体 - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加書きましたように、日本の財政状況は実は破綻には遠いという点、それから上記四氏の議論を踏まえて考えると、シェイブテイルとしましては、高めのインフレ目標を掲げた上で、高橋財政のように、日銀に引き受けさせた国債を財源に財政政策を実施する、という方法がデフレ脱却に最短ルートのように思うのですが、いかがでしょうか。

バーナンキFRB議長(理事時代)は、 "Does Central Bank Independence Frustrate the Optimal Fiscal-Monetary Policy Mix in a Liquidity Trap?"で、デフレ環境で流動性トラップに嵌まった場合は、そうでない場合とは異なり、中央銀行は積極財政に対し協調的態度をとる方が望ましいとしていますしね。